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02 お小遣い

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 詳しい説明は人間に戻ってからと言うことでお二人は部屋から退室されました。
 でも不良品だと実家に返品されないだけマシなのでしょうか。

 あそこ、実家では生かさず殺さずのような扱いで、生きる喜びは全くなかったのです。

 かと言って自殺する勇気も持てず、日々を無駄に消費していました。

 呪いもちの私は、社交界デビューもしてないし、友達もいなくて、ぬいぐるみと、あとは寝てる間だけ見れる、不思議な夢の中の図書館だけが慰めだった。

 そしてその夜はあまり眠れぬまま、追い出されるかもしれないという恐怖で震えながら朝を迎え、耳と尻尾は消えました。


 でも寝不足で頭がよく働きません。
 一旦考えるのを放棄した私は何も考えず、言われたとおりに広い食堂に向かい、到着し、着席しました。

 貴族の城のテーブルは凄く大きくて長いです。
 でも旦那様は私のすぐ隣に座られた。
 スペースに余裕は沢山あるのに。

 ちなみに公爵様と公爵夫人は、遅れてくるから先に朝食を食べていて欲しいとのことです。



「エリアナ、昨夜はすまなかった。妻とはいえレディの寝室にあのように強引に踏み込んで」

 心底すまなそうなお顔で謝罪してくださっている。
 こちらのほうが申し訳ないのに。

「の、呪いの噂を確かめに来られたなら仕方がありません……確かに疑わしいことこの上ない状況でしたし……」

 父が隠して嫁がせたのだし、こちらもこの件では文句は言えないのです。


「そーだろー、満月の夜だけは絶対に寝所を分けてメイドも夫も入室しないでくれなんて絶対に狼にでもなると思うし」

「ケビン、お前は黙っていなさい」
「はーい、ゴードヘルフ兄上」

「エリアナ、食事は全部は食べられなくても少しずつでも食べられたら食べてくれ、どれか気にいるものだけでもいい」

 旦那様は今、呪いの話をするより食事を優先させてくださるようです。

 テーブルの上にはこんがりいい色に焼けたチキン、ハーブと魚の料理、ゆで卵、バゲット、サラダ。アップルパイ、メロン。どれか一つは食べられるだろうといった雰囲気で気遣いを感じます。種類が多い……。

 うちは父の事業失敗とギャンブルのせいで財政難だったので豆が数粒入ったスープのみとかざらだってので、朝から豪勢で嬉しく思います。

 全部は食べられなくても、残してもいいのだと言われて、さらなる優しさも感じます。


「ありがとうございます。では少しずついただきますね」
「アップルパイを切り分けてやろう」

 旦那様が意気揚々とナイフを手にアップルパイを切り分けてくださるようです。

「じゃあ俺はメロンとサラダを取り分けてあげよう」

 そう言って弟君が席を立った時に旦那様が、

「ケビン、お前は自分の食事に集中し、座っていろ、エリアナの世話は私がする」

 静止をかけました。

「ずるいぞ兄上だけ点数稼ぎを!」
「私は己の妻に優しくしようとしているだけだぞ」


 何故か兄弟で争うように私の食事のお世話をしようとしてくださる。
 一体何故??

 呪い持ちを隠して嫁いで来たわりに、ありえないほど好待遇で困惑します。
 そんなに竜族の末裔の血の恐怖で嫁のきてがないという事なのかしら?
 お顔は……いえ、容姿は素晴らしくよろしいのに。

 長身で黒髪に金の瞳。
 キリリとした目つきの精悍な男前に肩幅も広く腰はきゅっとしまっていて、スタイルも抜群。

 私は銀髪に青い目のちんちくりんと言われる子供のような背丈の女。
 胸だけはそこそこあるのが救いではあるけれど、かなりアンバランスな気はするのです。

 ややして公爵様と奥様が食堂に来られた。


「やあ、遅くなってすまないな、早速結婚証明書を王城で貰ってきたんだ」
「高位貴族の結婚は陛下の許可がいるから、もらいに行っていたのよ」

 お二人共、朗らかに笑っておられる。
 でも、私の呪いの件は留守だったお二人はまだ知らないはず……。


「あ、あの、申しわけありません、私は実は……」
「ええっ!? まさか私達の留守中に息子が酷いことでも!? もう離婚したいとか言わないわよね!?」

 私の態度に焦る奥様が言い募ります。

「い、いいえ、私が、その欠陥品というか」
「もしや小柄なのを気にしてるの? 可愛くていいじゃない? たくさん食べればそのうち大きくなるかもしれないし」
「いえ、そうではなく……」

 猫化の呪いを受けたものは大抵小柄なままである。

「その件については私から後でお二人に説明する」

 旦那様が代わりに説明をしてくださるらしい。
 公爵様と奥様は首を傾げたが、とりあえず着席して、ソワソワと私と旦那様の様子を伺いつつも、食事をはじめました。


 なるようにしかならないです。
 ひとまず旦那様と弟君は私の味方のようなので、すぐさま叩き出されはしないとは思うけど。


 私は一旦放棄していた先行きの不安から急激に胸が苦しくなってきました。

 眼の前に、美味しそうなものがあるのに食欲がなくなっていきます。

 けれどゆで卵と旦那様の切り分けてくれたアップルパイとメロン一口分だけはなんとか食べました。

 アップルパイもメロンも甘くて美味しく、まだ味を感じることはできて助かります。


「沢山残してしまい、申し訳ありません」
「いやいや、使用人に下げ渡されるから気にしなくていいんだよ」

 公爵様は優しくそうおっしゃってくださった。
 そういえば普通の貴族の食卓は下げ渡す為に残しておくものと本には書いてあったわ。

 実家では残すほどの量は出て来なかったから忘れていました。

 それにしても恐ろしく強いドラゴンの末裔の公爵様達の、なんとお優しいこと。

 驚きです。

 食事の後に自室に戻りかけたところで旦那様が、私を引き止めました。


「部屋に戻る前に欲しいものとか、要求があれば聞いておこう」

 欲しい……もの?
 しばらく考えて、私は、

「お茶の……淹れ方を学びたいです」

 夢の中の図書館の本ではほぼ見るだけしかできなかったけれど、美味しいお茶を淹れてみたい……。


「お茶とは紅茶のことか?」
「はい、紅茶もですが、果物やハーブティーなどをブレンドしたり」
「あーあー、なるほどね! それは私にまかせて頂戴! 本と素材両方集めてあげますからね!」

 公爵夫人が私の意を汲み取ってくださいました。


「公爵夫人、ありがとうございます!」

「母上、私が用意しようとしたのですよ」
「あなたは妻の為の指輪やアクセサリーの準備でもなさいな」

「はっ! そうだな! 明日は商人をここに呼ぼうか」

 わざわざ呼びつけると!?
 これが高位貴族!

「それよか領内案内をかねて出かけようぜ、兄上」
「ケビン、言葉遣いをどうにかしろと言っているのに」
「公の場ではちゃんとするから」

「でもそうだな、せっかくだし、エリアナがよければ領内を見に行こうか?」
「う、嬉しいです。お外に行けるの」

「外に行けるだけで!?」
「は、はい、あの」
「兄上、デートじゃないですか」
「なるほど」


 そ、そうじゃないけど、デートでもありますか、これって。

 とりあえず私はずっと屋敷の外には出してもらえなくてこちらに嫁ぐにあたって移動の最中、窓の外の景色を見れたのはわくわくしたし、もっと色々見れるのは嬉しいです。

 本の中でしか見れないような街の景色も、この目で見られたらとずっと思っていました。

 デートと言われるとドキドキして緊張しますけど。

「よし、では私からお小遣いを」

 公爵様が何かの紙を破って渡してくれました。


「え?」
「小切手だ、好きな金額を書き込みなさい」
「ええっ!?」

 す、スケールがおかしいです。
 お小遣いですよね!? 事業資金とかではなく。

 ひ、控えめに必要な分だけ書けばいいのですよね。






















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