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109 切ない分岐点
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翌日の朝、驚いた。
「お迎えに上がりました、聖者様」
「え!! 自分で帰る気でいたのに!?」
「私もいますわ!」
伯爵様のとこの護衛騎士が来た!
さらにカロリーンお嬢様まで!
「わ、わざわざすみません」
「私と一緒であれば移動スクロールでサッと帰れますから」
「移動スクロール!」
女騎士のカロリーン様の手にあるのは確かにお高いテレポートができる巻物のようだ!
「準備はよろしいの?」
カロリーン様に促されたので、俺はミレナの家の人にお世話になりましたと挨拶をして、ミレナとカナタを連れてカロリーン様と一緒に帰ることにした。
わざわざ来てくれたのだし、仕方ない。
襲撃もされず安全で移動の手間も省けるのは確かだし。
スクロールを使って転移したら伯爵家だった。
俺の家じゃないのかよー!
と、一瞬思ったが、まあ近いからいいかと考えなおした。
そしてその後、伯爵様にも会いに行くことに。
黒い燕尾服の執事によって伯爵邸の豪華なサロンに通されたら、もう伯爵様は先に来ていた。
伯爵様はさっきまで椅子に座っていたのに、俺なんぞを迎えるのに立ち上がった。
高位貴族がこのようにするなら、やはり聖者はかなり地位が高い存在なんだなぁ。
「まさか君が、いや貴方が聖者だったとは」
「ふ、普通に今までとおりな感じで接してください、伯爵様」
思わず恐縮する俺。
「そうはいきますまい。そしてこちらが国王陛下からの書状です」
執事がトレイの中に巻き物みたいな物を入れて恭しく持ってきた。
「こ、国王陛下から!?」
この国の陛下からお手紙が!?
恐る恐る受け取る俺、手も震える小市民ぶりを晒してしまう。
「……」
「どうしたの? 何が書かれてるの?」
ミレナに問われたので呆然としつつも俺は答えた。
「ええと、聖者のお披露目パーティーを王都でやるから正装して出席をせよと言う事らしい」
「お披露目パーティ!」
「翔太凄いね、王様から招待だなんて」
流石のミレナもカナタと一緒に驚いてる。
「聖者の正装って……どんな? 白い服?」
俺が天井を見ながら呟くと伯爵様が答えてくれた。
「それについてはご心配なく、衣装は神殿からもう送られて来ています」
「ああ~、既に、それはありがとうございます」
「ね、ショータ、私はどうすればいいの?」
俺に付き添いたいのかな?
気もちは嬉しいが少し怖いな、ミレナを連れて行くのは。
「美しすぎる妻を連れて行って何かがあるといけないから店の方を頼むよ、品は置いて行くから」
「う、美しすぎる妻って……! でもまあ、夫がそう言うなら仕方ないわ、でも何があったら連絡してね」
ミレナは俺に美しい妻と言われてまんざらでもないって顔をしているが、実際の所はたまに口が悪いので偉い人の前でうっかり失言するのが怖いのだった。
すまない。
でも何かあって投獄でもされたら大変だし。
「じゃあ僕も店の方をやるよ、今回はカフェはお休みにしようか?」
「そうだな、雑貨だけでカフェは休みにしよう」
「ああ、よろしく」
ジェラルドに通信ブレスレットで連絡をとった。
「まずは結婚おめでとう」
ジェラルドのイケボが耳に響く。
なにやらこそばゆい感じがする。
こんなセリフをこの俺が聞く事があるなんて思いもしなかった。
「ありがとう」
「あ、フェリは普通に寝てたから心配するな。それと……前回の連絡、なんで手紙だったんだ?」
「あ、フェリは寝てたか、ありがとう。あの、動揺しててブレスレットの存在を忘れてたんだよ! それと離れた場所にいる友人に結婚連絡って文章なイメージがあったせいもあるかなぁ」
「ふ、ただのうっかりか」
「まあ、だいたいそう」
そして店でなく伯爵様の屋敷に連れてかれたこととなどの成り行きを説明した。
「え、あ、そちらに連れて行かれたのか」
「俺はパーティーに出る準備があるから店はミレナとカナタとジェラルドに頼んでいいかな? カフェは休みで」
「了解、今回までは店を手伝う。だけどすまない、お前達が結婚したら俺はあの家を出るからな。
新婚夫婦の邪魔はしたくないし、危険な冒険に出る友人に誘われているから」
「え!? 本当に?」
ショックだ……。
一瞬眼の前が暗くなりかけた。
嫁を得て大切なエルフの友人が遠ざかるとは……
しかし、俺はミレナを選んだんだ、自分で。
「ああ、お前はもう俺がいなくても大丈夫だろう。カフェの方もまだやるなら誰か穴埋め要員を探しておくから」
「ありがとう……」
「でも何か困った事があったらいつでも連絡していいからな、きっと駆けつけるから」
「ああ、本当にありがとう」
──困った事があったらきっと駆けつける。
胸がギュッとなる言葉だった。
別に友達じゃなくなる訳じゃない、ちょっと遠くに行くだけ。
自分を宥めて俺は通信を切った。
かつての、高校を卒業して人生の岐路に立つ時の、切なさと不安が蘇ってきた。
まがりなりにも聖者を名乗ることにもなったし、しっかりしないと……。
俺は用意されていた白い衣装に目をやった。
聖者の正装としてローマのトーガみたいな服を用意されていた。
「大丈夫?」
ミレナが涙目になってしまった情けない俺に声をかけた。
「今回の雑貨屋終わったら、ジェラルドが旅立つらしい、でも最後に焼き芋だけは皆で食べたいな」
「そう、エルフは旅立つのね」
「僕も新婚さんの邪魔出来ないし、近くに部屋があれば引っ越そうかな」
「えー、カナタまで!?」
「まあまあ、なるべく近くの部屋を探すし、店の方は手伝うし」
「そっかあ……」
ミレナとカナタは店に向かった。
俺は用心棒のミラを抱きしめて、留守番をしていたフェリは目覚めたらどう思うかな? と、ふと思った。
「お迎えに上がりました、聖者様」
「え!! 自分で帰る気でいたのに!?」
「私もいますわ!」
伯爵様のとこの護衛騎士が来た!
さらにカロリーンお嬢様まで!
「わ、わざわざすみません」
「私と一緒であれば移動スクロールでサッと帰れますから」
「移動スクロール!」
女騎士のカロリーン様の手にあるのは確かにお高いテレポートができる巻物のようだ!
「準備はよろしいの?」
カロリーン様に促されたので、俺はミレナの家の人にお世話になりましたと挨拶をして、ミレナとカナタを連れてカロリーン様と一緒に帰ることにした。
わざわざ来てくれたのだし、仕方ない。
襲撃もされず安全で移動の手間も省けるのは確かだし。
スクロールを使って転移したら伯爵家だった。
俺の家じゃないのかよー!
と、一瞬思ったが、まあ近いからいいかと考えなおした。
そしてその後、伯爵様にも会いに行くことに。
黒い燕尾服の執事によって伯爵邸の豪華なサロンに通されたら、もう伯爵様は先に来ていた。
伯爵様はさっきまで椅子に座っていたのに、俺なんぞを迎えるのに立ち上がった。
高位貴族がこのようにするなら、やはり聖者はかなり地位が高い存在なんだなぁ。
「まさか君が、いや貴方が聖者だったとは」
「ふ、普通に今までとおりな感じで接してください、伯爵様」
思わず恐縮する俺。
「そうはいきますまい。そしてこちらが国王陛下からの書状です」
執事がトレイの中に巻き物みたいな物を入れて恭しく持ってきた。
「こ、国王陛下から!?」
この国の陛下からお手紙が!?
恐る恐る受け取る俺、手も震える小市民ぶりを晒してしまう。
「……」
「どうしたの? 何が書かれてるの?」
ミレナに問われたので呆然としつつも俺は答えた。
「ええと、聖者のお披露目パーティーを王都でやるから正装して出席をせよと言う事らしい」
「お披露目パーティ!」
「翔太凄いね、王様から招待だなんて」
流石のミレナもカナタと一緒に驚いてる。
「聖者の正装って……どんな? 白い服?」
俺が天井を見ながら呟くと伯爵様が答えてくれた。
「それについてはご心配なく、衣装は神殿からもう送られて来ています」
「ああ~、既に、それはありがとうございます」
「ね、ショータ、私はどうすればいいの?」
俺に付き添いたいのかな?
気もちは嬉しいが少し怖いな、ミレナを連れて行くのは。
「美しすぎる妻を連れて行って何かがあるといけないから店の方を頼むよ、品は置いて行くから」
「う、美しすぎる妻って……! でもまあ、夫がそう言うなら仕方ないわ、でも何があったら連絡してね」
ミレナは俺に美しい妻と言われてまんざらでもないって顔をしているが、実際の所はたまに口が悪いので偉い人の前でうっかり失言するのが怖いのだった。
すまない。
でも何かあって投獄でもされたら大変だし。
「じゃあ僕も店の方をやるよ、今回はカフェはお休みにしようか?」
「そうだな、雑貨だけでカフェは休みにしよう」
「ああ、よろしく」
ジェラルドに通信ブレスレットで連絡をとった。
「まずは結婚おめでとう」
ジェラルドのイケボが耳に響く。
なにやらこそばゆい感じがする。
こんなセリフをこの俺が聞く事があるなんて思いもしなかった。
「ありがとう」
「あ、フェリは普通に寝てたから心配するな。それと……前回の連絡、なんで手紙だったんだ?」
「あ、フェリは寝てたか、ありがとう。あの、動揺しててブレスレットの存在を忘れてたんだよ! それと離れた場所にいる友人に結婚連絡って文章なイメージがあったせいもあるかなぁ」
「ふ、ただのうっかりか」
「まあ、だいたいそう」
そして店でなく伯爵様の屋敷に連れてかれたこととなどの成り行きを説明した。
「え、あ、そちらに連れて行かれたのか」
「俺はパーティーに出る準備があるから店はミレナとカナタとジェラルドに頼んでいいかな? カフェは休みで」
「了解、今回までは店を手伝う。だけどすまない、お前達が結婚したら俺はあの家を出るからな。
新婚夫婦の邪魔はしたくないし、危険な冒険に出る友人に誘われているから」
「え!? 本当に?」
ショックだ……。
一瞬眼の前が暗くなりかけた。
嫁を得て大切なエルフの友人が遠ざかるとは……
しかし、俺はミレナを選んだんだ、自分で。
「ああ、お前はもう俺がいなくても大丈夫だろう。カフェの方もまだやるなら誰か穴埋め要員を探しておくから」
「ありがとう……」
「でも何か困った事があったらいつでも連絡していいからな、きっと駆けつけるから」
「ああ、本当にありがとう」
──困った事があったらきっと駆けつける。
胸がギュッとなる言葉だった。
別に友達じゃなくなる訳じゃない、ちょっと遠くに行くだけ。
自分を宥めて俺は通信を切った。
かつての、高校を卒業して人生の岐路に立つ時の、切なさと不安が蘇ってきた。
まがりなりにも聖者を名乗ることにもなったし、しっかりしないと……。
俺は用意されていた白い衣装に目をやった。
聖者の正装としてローマのトーガみたいな服を用意されていた。
「大丈夫?」
ミレナが涙目になってしまった情けない俺に声をかけた。
「今回の雑貨屋終わったら、ジェラルドが旅立つらしい、でも最後に焼き芋だけは皆で食べたいな」
「そう、エルフは旅立つのね」
「僕も新婚さんの邪魔出来ないし、近くに部屋があれば引っ越そうかな」
「えー、カナタまで!?」
「まあまあ、なるべく近くの部屋を探すし、店の方は手伝うし」
「そっかあ……」
ミレナとカナタは店に向かった。
俺は用心棒のミラを抱きしめて、留守番をしていたフェリは目覚めたらどう思うかな? と、ふと思った。
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