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105 本物の聖者に!?

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 日本ではちょっとした火事騒ぎはあったが、無事に押し入れから異世界に戻った。

 テント泊で夜明けを待った。
 おにぎりと漬物とインスタント味噌汁を食べて異世界の家に帰ることにした。

 折りたたみ自転車で早速試運転がてらしばらくサイクリングで移動したが、大樹の村付近は田舎なせいもあって無駄に注目を浴びたので、しばらくして荷馬車に乗って移動した。

 街に入ったら何やら騒がしかった。
 とある集団がこちらに駆け寄ってきた。

「いたぞ、あそこだ!」

 !?

「お前が聖者と名乗る者か!?」

 男達は人相描きのようなものを手にしていた。

「いいえ! 全く名乗っでません! 聖者じゃありません! 人違いです!」
「とりあえず本物かどうか調べなくては!」

 俺は男達に何故か捕まった!

「待ってください! 彼はただの雑貨商です!
 聖者ではありません!」

 カナタがそう言って俺をかばおうとするも、

「そいつも連れていけ」
「待て! カナタは、そいつは全く関係ない!」
「いったい僕たちをどこに連れて行くつもりですか!?」
「黙ってついてこい!」
 

 カナタまで捕まった! 理不尽!


「ちょっとおかしくないか? 俺は違うけどあんたら本物の聖者相手にこんな手荒な感じで連行するのか!? 聖者とは尊い存在では!?」

「聖国に本物の聖女が現れたならこちらにいる聖者の方は偽物のはずだ!
 紛らわしいのがいたら世の中が混乱する!」

 え!? つまり聖女が現れたなら聖者らしき者は強制排除か!? そんな横暴な! 
 どちらも大事にしろよ!


「はあ!? 俺は聖者を名乗ってないし、違うって言ってる!」
「どちらかが偽物だ! 偽物の方は死んでもらう!」
「そんな馬鹿な!」

 あれよあれよという間に移動用魔法のスクロールで、謎の洞窟前まで連れて来られた。

 そして魔法のカバンを没収された。

「松明は持ってないか?」
「はい! 火の魔石もありません!」
「ところで上着の内ポケットの帳面と布は」
「やめろ! それに触るな! 神罰が下るぞ!」
「なに!?」

「それは神様から俺が授かったものだ!」
「神から授かったとか、お前はやはり! 語るに落ちたな!」

 しまった!!

「まあ、紙と布くらいなら持たせておくか」

 神罰の言葉にビビっだのか、風呂敷が亜空間収納の布とは気がつかなかったようだ!
 布はポケットに戻された。


「お前にはこの試練の洞窟に入ってもらう」
「試練の洞窟!?」
「中は蟻の巣のようにとんでもなく入り組んで道が多いが、出口は一つだ。お前が本物の聖者なら神のお導きで正しい出口までの道を進めるだろう」

「な、なんだって?」
「翔太!」
「お前の仲間は出口で我々と待つ、見事その暗闇の洞窟を、地図も松明もランプも火の魔石もなしに進んでみるといい!」

 カナタを人質に取られた。走れメロ◯な気分だぞ。
 仕方ない、やるしか。


「お前達、俺にこんなことをして後で後悔をするぞ」

 俺は精一杯凄んでみた。


「四日経っても戻らねば我々はお前を偽物とする」
「暗闇で迷子になって死ねって言いたいのか?」
「その翔太は伯爵様の庇護のある商人だ! 無礼だぞ!」

 カナタが叫んだ。

「今は戦争が起きるかどうかの瀬戸際だ、諦めろ」
「はあ!? 戦争と聖者と聖女がなんの関係があるんですか!!」

「聖女か聖者を擁する国こそが上に立つのだ!」
「わけがわからないよ! 国に上とか下とか!」

 俺も分からないし。
 カナタも混乱して叫んでる。

「とりあえず俺がちゃんと洞窟に入るから俺の友達に手荒な真似はするな! 天罰が恐ろしければ!」

 本物の聖者じゃなければ殺されるならもう本物のふりをするしかなくないか!?

「じゃあ早く入れ」

 俺は暗闇の洞窟へ入った。

 しばらくして、もう監視の目も届かないだろうと、亜空間収納の風呂敷からヘッドライトを出した。

 灯りがついて心底ホッとした。
 ずっと暗闇の中だったら発狂するわ。
 俺はただの装身具と勘違いされたブレスレットでジェラルドとミレナに連絡をとり、事情を話した。

『まさか聖国に聖女が現れたから、翔太が偽物扱いされてるの!?』
「聖国のことは知らんがそうなのか?」
『聖女が現れたとか、確かに酒場でそんな噂は聞いた』

「俺は偽物だったら殺されるらしいからもう聖者のフリするしかなくなった」
『私が助けに行くわ』

 ミレナ! そこまで心配してくれるとは!

「俺の仲間と思われたカナタが捕まったからお前たちは無理せずに」
『何を言ってるのよ!』
『そうだぞ、水くさい』

 ミレナもジェラルドも優しいな。

『目にもの見せてやるわ、まあ、任せてよ、そっちはちゃんと泣かずに洞窟を抜けなさい! そしたら私がご褒美をあげるから!』

『マスター! くじけずに前に進んでください! 助けに行きます!』
「ミラか、ありがとう……俺は今からぴーちゃんを呼び出して出口まで案内してもらうから」
『なるほど! ぴーちゃん! 流石マスターです!』
『なるほど! 魔法の伝書鳥か!」』

『わりと賢いじゃないの』

 普通だ。

「そうだ、外にいる仲間の誰かの元へ手紙を届けるていで案内してもらうのさ、出口まで」
『ワフ……』

 ラッキーの出番が無くて悲しそうだ。

「じゃあラッキーは謎の洞窟の出口にいるはずのカナタのとこに仲間を案内してくれ、そんでカナタを助けてくれ」
『ワフ!』

 そして通信を切った。
 俺はぴーちゃんを呼び出し、その足に書いたメモを結んだ。

「外にいる仲間の元へ行きたい、案内できるかな?」

 ぴーちゃんは頷いて俺の前を飛んだ。
 神の帳面を使って出した神秘の鳥だし、この子に案内させるのはセーフだろ?
 神の導きがどうたらと言うのなら。

 俺は魔法の風呂敷の中から、食事や寝袋も出せるから、休み休み長い洞窟の中を進んだ。
 途中俺の他にも判定で放り込まれた人のものか、人骨があった。
 手を合わせて安寧を祈って、魔法の風呂敷から出したブリザーブドフラワーを供えた。
 それくらいしかできなかった。

 洞窟に入って三日くらい経った。
 ここを無事に出たら風呂に入りたいな。

 異世界生活、今までかなり快適で平和ボケしすぎてたかな?
 訳のわからん文化や考え方があるもんだ。
 聖者も聖女もいるならいるでどちらも大事にすべきだろうに。

「ピィ」

 ぴーちゃんが小さく鳴いた。
 前方に明りが見えた! 出口だ!
 途中恐ろしい魔物でも出るかと思ったら、ただの入り組んだ迷路だった。

 俺はヘッドライトを魔法の風呂敷に隠した。
 そしてついでに念の為ぴーちゃんもポケットに隠して、光を目指して歩いた。

 俺はついに出口に辿りついた!


「おお! 出て来たぞ!」
「翔太!」

 お、カナタが無事で良かった!


「まさかこちらが本物の聖者ってことか!?」
「眩しい!」

 失礼だな、まるで俺が禿げてるみたいに、俺を見て目を細めて、この連中。
 そして、目の端に輝きがちらついた。
 上からか?

 なんと空を見上げると青い龍の鱗が輝いていた。


「うわ! 龍だ!」
「空から龍が!」
「海龍!!」

 そう、空を見上げたら、某日本のアニメのアレみたいに龍の背に乗ってミレナとジェラルドが飛んで来ていたのだ!
 神々しい! まるで神の遣いのようだ!

「おおっ、奇跡か、神の使い!?」

 カナタは自分を捕まえていた男の腕を振り払って俺の方に駆けてきた。

 俺も走った!


「こっちよ!」

 ミレナが海龍に乗ったまま、手を伸ばして来た!
 ジェラルドもカナタに手を伸ばした。

 俺はミレナの手を取ると、ふわりと魔法のように体が浮いて、ミレナの手に引き寄せられ海龍の背中に乗り、カナタもジェラルドに引き寄せてもらって無事に背に乗った!

「こっちも確保した!」
「よし! ひとまず帰宅よ!」

「え、あいつらはほっといていいのか!?」
「ショータが本物の聖者に見えたらなら、殺すことないじゃないの!?」
「聖女の方はどうなるんだ? 殺されたりしないか!?」
「他人の事を心配してる場合!? 勝手に逃げるかどうかするんじゃないの!?」

 俺は声を張り上げた。

「聖女にも酷いことをするなよ! 天罰がくだるぞ!」

 一応聖女の保護も呼びかけておいた。
 会った事もないから本物かどうかも分からないし。


「ところでこのまま家に帰っても大丈夫か!? 地元で大騒ぎにならないか!?」
 俺が気になって仕方ないことを大空の中で叫ぶと、ミレナが、

「じゃあ、海龍様、行き先変更!! 私の実家へ!!」
『承知した』

 ミレナは行き先を何故か自分の実家に変更した。
 確かにそっちのが知られてはいないだろうけど、ミレナの実家ってどこ?

 俺達はとある山里に降りた。

「ここは」
「ようこそ、私の里へ」

 ミレナがドヤ顔で言った。

「狐族の里だな」

 ジェラルドの言葉どおり、見れば確かにモフモフパラダイス!!
 そこかしこに狐耳と尻尾が!!

「ちょっとショータ、どこ見てるのよ」
「え、モフモフの尻尾」
「ワフ!」
「わあ! ラッキー! 今のは浮気とかじゃないからな!」

 ラッキーが俺に飛びかかってきた。どうやらラッキーも龍の背中に乗っていたらしい。

「マスター!」

 ミラも飛びついて来た。泣いてる! 

「あ、皆、心配かけてごめんな!」
「まったくあちこちで人助けなんかするからこんな目に合うのよ」
「でもお前と会った時も……壁に」
「だから! 私だけのヒーローでいたら良かったのよ!」

「うん?」
「おねーちゃん、その雄、かなり鈍いよ」

 おねーちゃん?
 女の子の声に振り返るとミレナに似た子がいた。
 ミレナより幼く、髪はボブカットの。

「妹のアイリよ」
「お、かわいい子」

 ゴッ!  

「いてっ!」

 わき腹にミレナの肘を食らった!
 ちょっと妹を褒めただけなのに解せぬ!
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