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100 噂話
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「それで、朝起きて窓明けたら、すだれに沢蟹がくっついて来ててウケたわ」
「そーか、それは可愛いな、蟹は意外なとこに現れるよな」
ミレナから朝食の時に宿の朝のほのぼのエピソードを聞いた。
俺含む男性陣はアニメ鑑賞会などしたせいで睡眠時間がやや少ないが、早々とチェックアウトし、外でキャンプセットを設置して、朝食を食べていた。
季節は秋だ。
肌寒い朝に焚き火を囲んで仲間同士でご飯。
メニューはビーフシチューとバゲットだ。
ビーフシチューは温かい湯気を立てていて、美味しい。
その時にたわいのない話をする。
「約束の樹っていうのがタイトル?」
「そう。推しの劇団の新しい劇の内容がさ、恋人が戦場にいかねばならず、昔の思い出のある、花樹の元で必ずまた逢いましょうと約束をしてたんだ。
男が戦地に行って数年間その木の花は咲かず、枯れ木のようになっていたんだけど、帰らない恋人を待ち続けて、ついに女性は恋人と合う前に亡くなるんだけど、やっと男が帰って来て花が咲くんだよ、その女性の代わりにオトコを迎えるように」
「悲劇じゃないのよ、会えてないなら」
「その女性の魂は花樹に宿っているから、男はその木の側に家を建てて生涯を終えた」
「やっぱり悲劇じゃないの」
「最後に老人となり死ぬ間際、男の前に若かりし頃の彼女が現れて迎えに来てくれる」
「やっぱり悲劇よ、しかも地味じゃない?」
「泣かせにくる話だな」
「男の帰りが遅いのが気に食わないわ、死ぬ前に帰りなさいよ」
「そこは戦争が長引いたのが悪いんだろう」
「ミレナさんは分かりやすいハッピーエンドが好きなんだね」
「誰がこんなわざわざ悲しい話をお金出して見たいのよ」
「でも失恋の歌が大衆に受けるように、わりかし切ない系の話にもある程度需要あるよな」
ロミオとジュリエットも悲恋だったし。
「ミレナにはいずれハッピーエンドの映画でも見せるてやるか」
昼には秋の景色を堪能しながらも帰路につき、休憩がてらランチタイムに食堂へ寄った時に、ざわめく客達の会話から、とある噂話を耳が拾ってしまった。
「白百合館の人気の娼婦が急に店を辞めた?」
「ああ。それが病気の母親を助ける為に身を売っていた健気な娘だったんだ。でも病の母親が突然元気になったそうでな、まるで奇跡だって」
ん? 白百合館? 俺が行った娼館の名前だな。
唐辛子系の辛い味付けの肉を喰らいつつ、そのまま話に耳を傾ける。
「神官の魔法か?」
「そんな金を作るのは、平民には難しいって」
「だから金を作る為に体を売ってたんだろ?」
「薬代が高いって話だったぞ。神官の祈りの奇跡なんてほぼ貴族用だし、そもそも白魔法が使える神官なぞほぼいないって」
「ふーん、結局買い続けてたお高い薬が効いたのか?」
「それは違うみたいだ。巷で噂の聖者が関係してるらしい」
ビクッ。
聖者のワードに思わず体が反応してしまった。
え、俺はエリクサーの事は秘密だって彼女に言ったよな?
復活したお母さんを見た人から勝手に噂に尾ひれがついたパターンかな?
しかし噂話が出回るの早すぎないか?
美肌ちゃんがよほど人気の嬢だったのかな。
ガン!
「イテッ」
テーブルの下でミレナに軽く足を蹴られた。
目があなたの仕業でしょ? って言ってた。
思わず苦笑いで誤魔化そうとする俺。
「仕事……取材だから」
このように言い訳してもまだ不機嫌なミレナ。
顔が怖いぞ。そんなに身近な男の風俗通いが不愉快なものか?
相手が自分の恋人や夫じゃなくても?
不機嫌顔のミレナが口を開いた。
「ケーキ食べたい」
ストレスか? 急に甘いものを欲している。
「ケーキの代わりにケーキっぽいチョコパイでも食べておけ」
俺は魔法のカバンからお菓子を取り出す。
日本のスーパーで買っておいたチョコパイにミレナの機嫌が治るよう期待をかけるのだ。
「チョコパイ……」
ミレナは真剣な顔で袋を破って中の丸いチョコパイに食らいついた。
「どうだ? 美味いだろ?」
そう言いつつジェラルドやカナタにもチョコパイを配った。
「美味しい……」
お、美味さに陥落したか? ちょい機嫌がもどったな?
甘いものの力は偉大だな。
「チョコパイって美味いよなぁ」
せっかくだし、自分も食べた。もぐもぐ、美味しい。
「安定の美味しさだねぇ」
「なるほど、美味いな」
ジェラルドも気に入ったみたいだし、今度また仕入れておこう。
こうして偉大なるチョコパイのお陰で事なきを得た。
多分……!
「そーか、それは可愛いな、蟹は意外なとこに現れるよな」
ミレナから朝食の時に宿の朝のほのぼのエピソードを聞いた。
俺含む男性陣はアニメ鑑賞会などしたせいで睡眠時間がやや少ないが、早々とチェックアウトし、外でキャンプセットを設置して、朝食を食べていた。
季節は秋だ。
肌寒い朝に焚き火を囲んで仲間同士でご飯。
メニューはビーフシチューとバゲットだ。
ビーフシチューは温かい湯気を立てていて、美味しい。
その時にたわいのない話をする。
「約束の樹っていうのがタイトル?」
「そう。推しの劇団の新しい劇の内容がさ、恋人が戦場にいかねばならず、昔の思い出のある、花樹の元で必ずまた逢いましょうと約束をしてたんだ。
男が戦地に行って数年間その木の花は咲かず、枯れ木のようになっていたんだけど、帰らない恋人を待ち続けて、ついに女性は恋人と合う前に亡くなるんだけど、やっと男が帰って来て花が咲くんだよ、その女性の代わりにオトコを迎えるように」
「悲劇じゃないのよ、会えてないなら」
「その女性の魂は花樹に宿っているから、男はその木の側に家を建てて生涯を終えた」
「やっぱり悲劇じゃないの」
「最後に老人となり死ぬ間際、男の前に若かりし頃の彼女が現れて迎えに来てくれる」
「やっぱり悲劇よ、しかも地味じゃない?」
「泣かせにくる話だな」
「男の帰りが遅いのが気に食わないわ、死ぬ前に帰りなさいよ」
「そこは戦争が長引いたのが悪いんだろう」
「ミレナさんは分かりやすいハッピーエンドが好きなんだね」
「誰がこんなわざわざ悲しい話をお金出して見たいのよ」
「でも失恋の歌が大衆に受けるように、わりかし切ない系の話にもある程度需要あるよな」
ロミオとジュリエットも悲恋だったし。
「ミレナにはいずれハッピーエンドの映画でも見せるてやるか」
昼には秋の景色を堪能しながらも帰路につき、休憩がてらランチタイムに食堂へ寄った時に、ざわめく客達の会話から、とある噂話を耳が拾ってしまった。
「白百合館の人気の娼婦が急に店を辞めた?」
「ああ。それが病気の母親を助ける為に身を売っていた健気な娘だったんだ。でも病の母親が突然元気になったそうでな、まるで奇跡だって」
ん? 白百合館? 俺が行った娼館の名前だな。
唐辛子系の辛い味付けの肉を喰らいつつ、そのまま話に耳を傾ける。
「神官の魔法か?」
「そんな金を作るのは、平民には難しいって」
「だから金を作る為に体を売ってたんだろ?」
「薬代が高いって話だったぞ。神官の祈りの奇跡なんてほぼ貴族用だし、そもそも白魔法が使える神官なぞほぼいないって」
「ふーん、結局買い続けてたお高い薬が効いたのか?」
「それは違うみたいだ。巷で噂の聖者が関係してるらしい」
ビクッ。
聖者のワードに思わず体が反応してしまった。
え、俺はエリクサーの事は秘密だって彼女に言ったよな?
復活したお母さんを見た人から勝手に噂に尾ひれがついたパターンかな?
しかし噂話が出回るの早すぎないか?
美肌ちゃんがよほど人気の嬢だったのかな。
ガン!
「イテッ」
テーブルの下でミレナに軽く足を蹴られた。
目があなたの仕業でしょ? って言ってた。
思わず苦笑いで誤魔化そうとする俺。
「仕事……取材だから」
このように言い訳してもまだ不機嫌なミレナ。
顔が怖いぞ。そんなに身近な男の風俗通いが不愉快なものか?
相手が自分の恋人や夫じゃなくても?
不機嫌顔のミレナが口を開いた。
「ケーキ食べたい」
ストレスか? 急に甘いものを欲している。
「ケーキの代わりにケーキっぽいチョコパイでも食べておけ」
俺は魔法のカバンからお菓子を取り出す。
日本のスーパーで買っておいたチョコパイにミレナの機嫌が治るよう期待をかけるのだ。
「チョコパイ……」
ミレナは真剣な顔で袋を破って中の丸いチョコパイに食らいついた。
「どうだ? 美味いだろ?」
そう言いつつジェラルドやカナタにもチョコパイを配った。
「美味しい……」
お、美味さに陥落したか? ちょい機嫌がもどったな?
甘いものの力は偉大だな。
「チョコパイって美味いよなぁ」
せっかくだし、自分も食べた。もぐもぐ、美味しい。
「安定の美味しさだねぇ」
「なるほど、美味いな」
ジェラルドも気に入ったみたいだし、今度また仕入れておこう。
こうして偉大なるチョコパイのお陰で事なきを得た。
多分……!
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