俺って何故か押入れから異世界へ行き来ができるっぽい!〜 商人であり聖者でもある男の異世界を巡る日々 〜

長船凪

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89 事件があった

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 時間入れ替え制の整理券と、お一人につき何個までの購入制限もあったので、今回は雑貨屋の商品の在庫も三日は持ちこたえた。

「雑貨屋の方が売り切れだ、カナタとミレナもカフェの方の援軍を頼めるか?」
「「はーい」」


 そして皆がカフェの方で働いていた時に事件は起きた。

 俺達が夜になって仕事終わりに店の裏手に建つ家に帰ったら、なんと空き巣が入っていたようで、家の裏手の扉の鍵が破壊されていた。

 おそらくそこから侵入した空き巣はリビングの方へ行き、そこで倒れた。
 いや、倒されたんだろう。フェリに。

 周囲には砕けて散乱する植木鉢と、頭から血を流して倒れている空き巣らしき人間の男。

 そして空き巣の首元にはナイフを突きつけたまま動かないドールのフェリがいたのだ。


「フェリ! 大丈夫か!?」
「とうっ!!」


 俺がフェリに駆け寄る前に素早く動いたのはミレナだった。
 空き巣の背に乗ってマウントをとった!


「ミレナさん!?」

 ミレナの大胆な動きに驚くカナタ。


「早く空き巣を縛って!」
「おう!」

 俺とジェラルドで空き巣の手足を縄で縛った。
 でもまだ意識は戻ってないみたいだ。

 カナタがフェリに近づくと、

「もう大丈夫だよ、一人で頑張ったね。ナイフはもう離していいよ」

 優しくナイフを手放すように語りかけてた。
 フェリはようやくナイフを手放した。
 そのナイフは俺が果物の皮を剥くためにテーブルの上に置いたままにしていた、サバイバルナイフだった。


「ワフ……」

 そして少し申し訳なさ気なラッキーが小さく鳴いた。
 番犬としては役に立ってなかったが、それは店の方にいたからだ。


「ラッキーは店の方で看板犬をやっていたからな、何も悪くはないから落ち込むなよ」
「ワフゥ……」

「もーっ! ショータったら! だからあんな場所に堂々と金貨なんか置くなって言ったでしょ!」
「いや、あそこまで堂々と置いてたら偽物だと思うかなって」
「盗人は匂いで本物が分かるから!」

 そ、そうなんだ? すごい能力だな。


「と、とりあえず、フェリ、俺のお金を守ろうとしてくれたんだな、ありがとうな」
「……」
「う、頭痛ぇ……」

 フェリは返事をしなかったが、空き巣は今、ようやく気がついたようだ。

 よほど初撃の頭部への植木鉢アタックの衝撃が強かったんだろう。

 とりあえず死んではいなくてよかった。
 もしここでこいつが死んでたら、家が事故物件になっていた。


「誰か憲兵を呼んで!」
「ああ」

 ジェラルドが返事をして、鳥を飛ばして憲兵を呼んでくれた。


 ミラとカナタは床に散らばる植木鉢の破片と土などの後片付けをはじめてくれた。

 空き巣を憲兵につき出して、俺達はリビングのソファでひと息ついた。
 そして金貨はしまいなさいと、またミレナに怒られたので俺は今度は言うことをきいた。
 また空き巣とのバトルでフェリが傷ついたりしたら大変だからな。

 フェリはいつもの場所で無言で横向きになったと思ったらそのまま寝た。
 ミラがミニタオルを持ってきて、フェリの頭を軽く持ち上げ、その下に枕代わりに置いてやってた。


「フェリ、お疲れ様、頑張りましたね」

 そう労いの言葉までかけていた。


 * * *


 その後数日はまた皆でカフェで仕事をした。
 カフェの方も二日でなくなったメニューもあるけど、他のメニューは多少は持ちこたえた。

 我々は合計七日間ほど労働を頑張った。

 フェリは相変わらず会話はしてくれないが、金貨を守ってくれたあたり、俺が貧乏にならないように気を遣ってはくれてるのだと思う。
 いい子だ。


「疲れたな、飯にしよう」

 七日目のカフェでの仕事終わりに俺がそう言うと、

「ああ」
「疲れたぁ~。って、あら、今日は冷たい麺類ね」
「ああ、これはぶっかけうどんって言うんだ」
「確かに疲れたけど、僕は楽しかったよ、可愛い雑貨を扱う店ってやってみたかったんだよね」


 皆やっぱり疲れたようだが、カナタは雑貨屋さんが楽しかったらしいからよかった。

 夕食はぶっかけうどんにしてみた。
 デザートはスーパーで買っておいたレモン味のかき氷系の氷菓子で。
 シャクシャクした食感が爽やか。

「頭キーンってなったわ!」
「かき氷系アイスって急いで食うとそうなる」
「ええ~~っ。でも味はいいわね」

 どちらも涼しげで美味しいと高評価だった。


「在庫がなくなったから、各自次の満月の仕入れ後まで好きなことをしててくれ」
「そうは言われても……僕は満月まで何をしたらいいのか」
「カナタはしばらく異世界見物の続きをすればいいんじゃないかな?」

「僕、遊んでていいの? 掃除とかできるよ」
「えー、じゃあたまに家か店の掃除か動画編集でも手伝ってくれたら他は遊んでていいってことにするか?」
「ありがとう翔太、そうするよ」


 そう言うカナタの瞳はキラキラと輝いていて、日本にいた時よりずっと生き生きしてる。

 ──良かったなあ。本当に。
 さてカナタはどこに連れて行ってやればいいかな?
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