俺って何故か押入れから異世界へ行き来ができるっぽい!〜 商人であり聖者でもある男の異世界を巡る日々 〜

長船凪

文字の大きさ
上 下
75 / 111

75 お詫び

しおりを挟む
 俺は錬金術師の食事の誘いを断って、クッキーを配っていた公園に向かった。

 公園内をキョロキョロと見回すと、果物を抱える女性の像の近くにあの時の子供達がいた。


「煙突掃除はいかがですか!?」
「お花を買いませんか?」


 子供達は今日は労働をしていた。
 男の子が煙突掃除夫で、女の子が花売りをしていた。
 夏には咲く花がだいぶん減るもんだと聞いていたが、青いデイジー、小型のひまわり、百合等を売っているようだ。


「あ! 怖い犬のおじさん!」



 子供達の中でも記憶力のよい男の子が俺の顔を覚えていたのか、怯えた顔をし、少し後ずさった。
 俺は努めて人の良さげな笑顔を作ってゆっくりと歩み寄った。


「やあ、こないだは驚かせてごめんな! あのクッキーには悪いものが入ってて、犬は君達を助けたかっただけなんだよ!」
「え? 悪いもの?」

「あれはすぐには効果が出ないけど、しばらくして、とっても気持ちよくなったりするやつで」
「気持ちよくなって何が悪いの?」

「それの効果が切れた時にとっても体が痛くなったりするんだよ。体が切り裂かれたり、骨が砕け散るくらいの痛みがある。それに吐き気がしたり、気を失ったり、まぼろしで怪物が見えて怖い思いをしたり、そして気持ち良かった時の事も忘れられなくなるし、それが欲しくて仕方ないのに、最初は無料だったクッキーが、だんだんお高くなって、でもお金ないならって、悪くて怖い人が危険で悪い仕事をさせたり」


 う、俺の話が我ながら長いな。
 子供たちはぽかんとした顔でこちらを見上げてる。俺はまた話を続けた。


「とにかく、怖いお薬が入ってて、頭がおかしくなるから!」
「頭が……おかしく……」
「まぼろしで怪物が見えるのは怖いなぁ」


 あれ? 自分で言っておいてなんだが、幻覚は違うドラッグだったかな? 
 まあ、違っても、とにかく脅しといたほうがいいよな。


「体が痛くなるのは嫌だな」

 子供たちは顔を見合わせ、不安げだ。


「とりあえず犬が君達を助けたかっただけだとしても、驚かせて悪かったよ。これはお詫びにあげる。安全な食べ物だよ。でも、本当は知らない人がくれるものをむやみに食べてはいけないんだよ、俺は今から同じものを食べて見せるからね……もぐもぐ」


 俺はあんこやイモを使った饅頭とフランスパンを少し食べて見せながら配った。
 毒見だ。


「ありがとう……」


 子供たちは俺から食べ物を受け取ってくれた。
 幸いまだ麻薬の効果は出てないみたいだ。
 まだ一回くらいしか食べてないのかも。
 貧民街の子は無料のおやつとか、すぐに喜んで食べてしまう。


「君のお花は俺の店に飾るから、全部買おう」
「ありがとう、おじさん」


 俺は花売りの女の子にお金を払いながら、うちにある煙突はジェラルドが自分から掃除を引き受けてくれて、風魔法でどうにかしてくれていたことを思い出していた。


 煙突ってちゃんとメンテしないと火災になったり、大変な事になるらしい。

 日本でも未だ煙突つき薪ストーブとかを使ってるのはたいてい金持ちの道楽か薪が安く手に入る山持ちとかなんだろう。
 あるいは知り合いが林業をしてるとか。


 ともかく、煙突掃除は必要な仕事ではあるが、とても危険な仕事だ。
 煤を吸い込むと気管支や肺が汚れて病気になる。
 知り合いの父親がゴミ焼却施設で働いてたらタバコも吸わないのに健康診断で肺が黒くなっていたとかも聞いたことがある。


「君達、煙突掃除の時はちゃんと鼻と口は何かで覆ってるよね?」
「これ」


 少年は大きめのスカーフのようなものを首に巻いていて、それを軽くつまんで見せた。

 やはりその程度の装備か。
 頼りないな。
 今度防塵マスクあたりを沢山仕入れてきて渡すしかないか。
 それか錬金術師さんに花粉だけじゃなく煤を吸い込まないマスクでも作って貰えないか相談するか。


「あ、そうだ、煙突掃除夫で酷い咳をしてる仲間はいる?」
「いるよ、咳をしながら血を吐いて死んじゃった子もいたよ」

 うわーっ!! 
 生きて行くにはお金は必要だし、煙突掃除は必要な仕事ではあるが、子供が煤の危険性をよくわかっていないまま犠牲になるのは辛い。

 全ての病の子供を救えなくても、眼の前にいる子供くらいはどうにかしたい。

 せっかく海神様からすごいものを賜ったのだし、こういう事にも使わないと罰が当たる気がするんだよな、俺は小心者だし。

 ええと、とにかく治療がいるな。


 エリクサーだ、エリクサーがいる!
 俺は海神の帳面を出し、でっかい焼酎のボトルのようなものに入ったエリクサーを描いてみた。
 容器サイズは4000mlくらいは入るやつ。
 見栄えよりも量が大事だったから。

 ラベルにはエリクサーって書いてある。
 かなりダサイ。でも許して欲しい。
 エリクサーは万病に効く万能薬だ。

 これを蓋付きの小瓶に注ぎ分けて配ることにした。
 俺達は日差しを避けて木陰に移動し、キャンプセットのテーブルなどを魔法の風呂敷から取り出し、作業台にした。
 そこでエリクサーを小瓶に分けた。
 ミラもトートバックから出てきて、エリクサーを配るのを手伝ってくれた。

 花売りの女の子達は可愛くて動くお人形さんのミラに興味津々だった。
 さもありなん。


「これを最近酷い咳をしてる子に渡して飲ませてあげてくれ、とても貴重でいいお薬だ」
「とてもいいお薬……分った」 
「それと、なるべく煤を吸い込まないようにしなさい、あれで病気になるんだ」

「でも……仕事だから……」
「うん、そうだよな……そのうち煤をどうにかするいい道具が作れたら持って来るから」
「ありがとう……おじさん」


 子供たちは半信半疑のようであったが、俺の持つおやつに注目している。


 俺は子供達に薬とオヤツとパンとパック入りジュースを配って家に帰ることにした。
 ちなみにパンも一緒に配ったのはご飯代わりになるだろうという考えからだ。


 思えばさっきいた場所は富裕層ではなく低所得者が多く住む街だったな。
 と、思いつつ乗り合い馬車に乗って家路に向かう。


 俺は庶民の乗る乗り合い馬車を降りてから、乗り合い馬車ではなく、個人タクシー的な黒くて品の良い馬車に乗り換えて富裕層の街に入った。

 ルルエで錬金術師の所に行っても、そこに厩舎があるとは限らないから馬車を乗り継いで移動したのだ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

処理中です...