上 下
69 / 111

69 魅惑の尻尾

しおりを挟む
 ──話は少し遡り、俺が戻って来て、昼にミートソースのパスタを美味しく食べて、明後日営業の文字を店の前の黒板に書いておき、そして夕食の時間になった時の事。


「俺は海鮮丼を食べるけど、君達はどうする? 焼き肉にするかい?」

「私はショータと同じものにするわ」
「俺もショータと同じでいい」
「俺も美味しければなんでもいいでーす」 
 
 ゴロゴロゴロゴロ。
 不意に空から音が。


「あ、雷だわ」
「雨が降るな、洗濯ものは……もう全部取り込んだからいいか」

 俺は一瞬窓の外を見て立ち上がりかけたけど、洗濯ものは全て家に入れたのを思い出したのでまた着席した。


 どんよりしてきた窓の外を見ると少し残念だと思った。


「雨だと花火は延期だな」

 そう言いながら俺は海鮮丼を魔法のカバンから取り出し、眼の前のテーブルに並べていく。
 
「正直ショータの言うハナビというものがよくわからないけど、何かのイベントが流れたのは分かるわ。カイなんかが来るから雨が降るんじゃない?」

「ひでーな、ミレナは」
「まあ、まあ、仲良く」

 俺がミレナを宥めながらあちらで買い込んできたお茶やジュースといった飲み物を適当に選んで海鮮丼の側に並べて行くと、カイが声を上げた。


「生魚!」

 ん?

「カイ君は生魚が苦手だったかな? お肉もあるよ」
「いえ、いただきます! ショータさんの出してくれるものにハズレはない気がするので!」
「そっか、期待値が高いな」

 今回のはそこまで高級なもんじゃないんだが。
 まあ、とにかく食おう。


「生の魚の切り身がオコメにのっている海鮮丼とやらは美味しいわ。
 お魚もなかなか新鮮なんだと思う。骨もなくて食べやすいし」
「これも悪くない、エビも入っていたし、プリプリしていた」
「イクラ美味ェッス!」

「それは良かった、食後のデザートはケーキだぞ」

 チョコケーキにイチゴののった生クリームのケーキに、モンブランに、艷やかで色鮮やかなフルーツが敷き詰められたタルトケーキとチーズケーキ。

「どれも美味しそうで……目移りするわね」
「選ばないなら俺から選ぶぞ」
「え、ウソ、ちょっと待ってエルフ」 
「あ、俺ぇ、チョコいいですか?」
「まだ労働もしてないのにこの男!」  

「まあまあ、落ち着けミレナ。新人君も勉強はしてくれた。それで結局どれがいいんだ?」
「うう、じゃあ私はタルト」
「じゃあ俺は栗のクリームのを」

 カイがチョコケーキ、ミレナがタルトでジェラルドはモンブランを選んだ。


「では俺はいちごのショートケーキにしよう、チーズケーキは売り物にまわす」
 
 各々が選んだケーキを美味しく食べた。
 すっかり暗くなった外からは雨の音。

 俺はケーキを食べ終えて、足元にいるラッキーにカリカリのペットフードをあげた。
 ミラはお土産のお人形の着せ替えをして遊んでいる。
 人間の幼女とかわらないな!
 かわいかったので、思わずスマホを構えた。

「タルトケーキは美味しかったわ。見た目も一番華やかだったし」
「ああ、そもそもタルトは女性人気高いんだよな、見た目もキレイだし、俺の姉もタルトケーキが好きだったよ」
「ふーん、そうなのね」

「とりあえず今夜は風呂に入って歯を磨いて早めに寝るとしよう。
 明日は伯爵様の所だが、明後日からは久しぶりに店を開けるからな! ミレナは早く風呂に入れ、男の後は嫌だろう」
「分かったわ」


 * * *


 時は戻り、伯爵様と錬金術師に会った翌日のお話。

 ついにお店再開の朝。

 味噌汁と焼き鮭と海苔と白いご飯で和食を朝食にした。
 皆、問題なく食べてくれた。
 昨日はケーキを食べたからカロリー的に和食でバランスをとろうとしたのだった。


 今朝は晴れてよかった。
 店の前にテントをはり、そこでティッシュだけ売ることにしたのだ。

 開店前から客は行列を作っていた。
 営業日の告知メッセージを黒板に書いていたせいだろう。

「開店しまーす!」


 俺がそう声を張り上げたら人がテントの販売ブース前にたかる。
 またオイルショックのようにティッシュ関係から勢いよく売れて行く。

「ティッシュ関連の在庫は終わりました!」

 俺は額の汗をぬぐって緊急販売ブースにSOLD OUTの札を立てた。

「毎回少ないのでは?」
「そうねぇ、もっと買いたかったわ」

 お客様に言われた。

「どうしてもこれらはかさばるので、申し訳ありません」
「まあ、いいわ、今日はどんな新しい物があるかしら」
「楽しみね!」

 日傘を折りたたんで御婦人達は店内に入って行く。

 新しい下着などがあります!
 ミレナ、頼んだぞ!

 俺はミレナに通信ブレスレットの音声を流してもらった。スピーカーモード搭載!

 二階の音声を拾いつつ、俺はカフェの方の仕事もする。


「まあ、この花柄の布、凄くかわいいわ! これでドレスを作りたいし、ああ、針子も連れて来れば良かった、どれだけ布を買えばいいのかわからないわ」
「おそらくはひと巻き買ってしまえばよろしいかと」

 ブレスレットからミレナの声が聞こえた。

「ではとりあえずこの布をひと巻きいただくわ」
「私もコチラをひと巻き」
「こちらの美しいレースもいただくわ」

「ねぇ華やかで素敵ね、この下着」
「本当に美しい花柄だわ」
「全て新入荷の物でございます。サイズの表記はここに」


「水着があると聞いたのたけど」
「お客様、水着はこちらです」
「本当に喋るお人形さんがいるのね!」

 ミラの案内する声も聞こえた。

「あなたは買えるの?」
「いいえ、私は非売品です」

 おーい、ミラを買おうとしないでくれ。
 可愛いから気持ちは分からんでもないが!

 カフェの方は買ってきたケーキを一種ずつテーブルに置いて好きなのを選んで貰うことにした。

「こちらの本日の限定ケーキは終わりました!
 他はメニューをご覧ください!」

「パンケーキお待たせしました!」
「フルーツポンチでございます」
「アイスクリームでございます」
「クリームソーダでございます」
「ハンバーガーセットでございます」


 カフェも怒涛の忙しさ!
 狐くんも頑張ってくれてる。
 魅力的なフサフサの尻尾を揺らしつつ、ウェイターをやってくれてる。

「ショータ、さっきからなんで男の尻ばかり見ているんだ?」
「違うぞ、ジェラルド!
 俺が見てるのは尻ではなくて尻尾!」
「まったく、ラッキーもいるのに何故そうも尻尾に惹かれるのか」
「あれもこれも良いフサフサのもふもふだから!」
「尻尾好きが治らないな」

「ふふふ、ショータさん、俺の魅惑の尻尾に触りたいですか? 軽くならいいですよ」
「え!? いいのか? やったぜ!」

 俺が狐くんのフサフサの尻尾に手を触れると、
 営業時間外にしろ、忙しいのに。と、ジェラルドに怒られた。
 た、確かに!
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

男女比1:10000の貞操逆転世界に転生したんだが、俺だけ前の世界のインターネットにアクセスできるようなので美少女配信者グループを作る

電脳ピエロ
恋愛
男女比1:10000の世界で生きる主人公、新田 純。 女性に襲われる恐怖から引きこもっていた彼はあるとき思い出す。自分が転生者であり、ここが貞操の逆転した世界だということを。 「そうだ……俺は女神様からもらったチートで前にいた世界のネットにアクセスできるはず」 純は彼が元いた世界のインターネットにアクセスできる能力を授かったことを思い出す。そのとき純はあることを閃いた。 「もしも、この世界の美少女たちで配信者グループを作って、俺が元いた世界のネットで配信をしたら……」

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

異世界でただ美しく! 男女比1対5の世界で美形になる事を望んだ俺は戦力外で追い出されましたので自由に生きます!

石のやっさん
ファンタジー
主人公、理人は異世界召喚で異世界ルミナスにクラスごと召喚された。 クラスの人間が、優秀なジョブやスキルを持つなか、理人は『侍』という他に比べてかなり落ちるジョブだった為、魔族討伐メンバーから外され…追い出される事に! だが、これは仕方が無い事だった…彼は戦う事よりも「美しくなる事」を望んでしまったからだ。 だが、ルミナスは男女比1対5の世界なので…まぁ色々起きます。 ※私の書く男女比物が読みたい…そのリクエストに応えてみましたが、中編で終わる可能性は高いです。

処理中です...