俺って何故か押入れから異世界へ行き来ができるっぽい!〜 商人であり聖者でもある男の異世界を巡る日々 〜

長船凪

文字の大きさ
上 下
56 / 111

56 人魚と狐

しおりを挟む
 海に潜ると南国っぽい鮮やかな青色の魚と黄色い魚が泳いでいた。

 その鮮やかな黄色い魚の群れを追いかけるように息継ぎ浮上を度々しながらも泳ぎ進むと人魚と目が合った。

 に、人魚! 凄く綺麗だ!
 ティアラを冠った長い金髪の美しい人魚さんが手を振ってくれた!

 フレンドリーだな!
 俺も手を振ったが、やはり長くは息が続かない。

 一旦浮上してまた潜るともう人魚の姿は幻のように消えていた。

 いやー、生人魚見れて良かったな!
 海龍トンネル内からでもちょっと見たけど。

 ……ん?

 俺が砂浜に戻るとジェラルドが貝や昆布やワカメのような海藻等をゲットしていた。
 この辺は漁業権とか無いんだろう。


「なー、ジェラルド、今な、金髪の綺麗な女の子の人魚がいて、ティアラを冠ってたんだけど」
「それは人魚の姫ではないか?」
「だろ!? いやー、いいもん見た! 寿命が延びたかも!」
「喰わなきゃ寿命は延びないと思うが」

「え、やっぱりこの世界の人魚の肉も食うと永遠の命になる言い伝えがあるんだ!?」
「海神の怒りに触れて長命の醜い怪魚になるだけだからやらないほうがいいという噂だ」
「怪魚! 人間のまま長生きじゃないんだな」
「ああ」

 そんな迷信じみた人魚トークをしながら浜に上がるとラッキーがブルブルして体の水を弾き飛ばしていた。

 おやおやおや。
 他の観光客にかからないようにしてくれよ。


 気がつくとミレナはラッシュガードをまた羽織っていたし、また男にナンパされていた。

 でもその男が同族の狐の尻尾と耳のある男だったので、ついふさふさの尻尾に見入っていた。


 あの尻尾、大きくて、もふもふで、立派だ……。


「ちょっと、ショータ! 海から上がったなら見てないで話しかけなさいよ!」
「あ、いや、またモテてるなって」

「はじめまして! 俺はミレナの同郷の幼馴染でカイって言います! こいつまだ危険な冒険者とかやってるみたいですね」

 おお、旧知の仲のやつと偶然再会したのか。


「幼馴染さんですか、ミレナさんはうちの店で働いてくれてるんで、いつもお世話になっています。危険な冒険者の仕事はその分は減っていますよ」

「え!? そうなんですか!?」
「ちょっと、こいつに詳しく教える必要なんてないから!」

 あ、個人情報か。すまん。


「ごめん、幼馴染って言うから」
「俺、ミレナと昔、結婚の約束をしてたんです
よ!」

 !? 婚約者!?
 ビックリして心臓が跳ねた。


「はあ!? あんたが勝手に大きくなったらお嫁さんにしてあげるとか何故か上から勝手な事を言ってただけでしょ!」

 おや、雲行きが怪しいな。
 ビックリしたぞ。でも俺はなぜこんなにビックリしたんだ?

「またまた、照れ隠しだろ?」
「あんたの頭は本当にめでたいわね!」

 コイツらもケンカップルに見える。


「良ければ一緒に夕食でも」

 狐男に誘われたが、こいつがミレナ狙いなのは明らかだ。


「あ、そうだ、すみませんが俺は夕陽を見る為に待ってるんですよ」
「俺も待ちますよ! もうじきでしょう?」
「あんたはもう遠慮しなさいよ! 邪魔よ! シッシッ!」

「チッ、久しぶりに会ったのにつれないなぁ、ミレナは」
「「カイ~~!」」
「やっべ、女の子達に呼ばれた、ミレナまたな!」
「もう来るな!」


 現地の褐色美女から観光客の白肌の女の子やらが集まる集団にこの男は呼ばれたらしい。
 モテるのは狐族の女の子だけじゃなくて男もなのか?
 ちょっと羨ましいような。

 しかしミレナは怒っていたな、あまり仲良くはないのかな?

「ショータ、夕陽、もうじき見れるぞ」

 ジェラルドが変な空気を変えるように声をかけてきた。


「おっと、それは見逃せないな! ミラの所に戻ろう」
「ああ」
「そうね」

 レジャーシートにてちょこんと待ってるミラの元へ帰った。

 俺はさっきの男の残像を振り払うようにカメラを構えて夕陽を撮るために日没を待った。
 ややして太陽が地平線の向こうに沈みかけ、海はキラキラと輝いた。

 最高に美しい。
 ふと、隣に座っていたミレナの横顔も綺麗だったから、そちらも撮った。

 言うまでもなく、ジェラルドも美しいし、ミラもラッキーも可愛いので撮ったけども。

「さて、夕陽を撮影できたし、サンセットバーベキューと行くか」
「海底都市では魚が多かったから、私は肉がいいわ」

 肉巻きおにぎりも食ったはずだが、まあいいか。


 浜辺でバーベキューなんてまるでパリピだなと思いつつも、いつぞやミレナがくれた鳥を焼く時が来た。
 しばらく魔法の鞄の中にいた。

「ミレナがくれた鳥肉を焼くぞ」
「やっと出てきたわね」
「丸焼きか?」

 鳥の首はもう落ちてるし羽根も内蔵も除去してある。

「大きいほうが派手でいいかな? 解体してもいいけど」
「ショータ、腹にハーブでも詰めて焼くか?」

「米を腹に詰めても良いな、中がピラフのやつ」
「何でも良いから早く焼いてよ」
「分かった、分かった」

 ミレナは待ち切れないようだ。


 ダイナミックに焚き火の上で丸焼きにすることにした。
 棒で串刺しにして、軽く塩コショウして回しながら焼くんだけどジェラルドとミレナが交代でやってくれた。
 ハンター系の原始人のゲーム画像みたいで絵面がおもしろいからこの光景も撮影した。



「こんがり焼けてきたわよ」
「じゃあ仕上げに万能調味料をかけて切り分けて食べるか」

 俺は葦などをカットして、日本で仕入れて来ている万能調味料をふりかけた。

 これをかけたらだいたい美味しくなる!


「やはりバーベキューにはこの調味料だな」

 ジェラルドもご満悦だ。

「これをかけると魔法のように美味しいわね!」
「そうだな」

 俺が相槌を打つと、ワンワン!と、ラッキーが吠えた。

「ああ、お前も腹が減ったか、すまんすまん、塩コショウしてない肉か魚を……」
「やあ! さっきぶりだね! 美味しそうな肉だね!」

 さっきの狐男が戻って来た! ラッキーが吠えたのはこいつが来たからか。

「ええと、カイさんでしたか? さっきの女の子達はどうしたんですか?」
「振り払って撒いて来ました!」


 何がしたいのか、こいつは?
 ミレナが本命だから置いて来たってことか?

「なによ! 食事時なんだし、遠慮しなさいよ!」
「そう言うなよ、ミレナ、肉はいっぱいあるじゃん」

 確かに肉はいっぱいあるが、

「三人と犬がいるから!」
「あ、なに、このお人形! すごく綺麗だし動いてる!」

 狐男は配膳をしているミラに注目した。
 なかなか目が高い。

「聞きなさいよ、ちょっと!」

 とりあえずここを穏便にやり過ごすならちょっと食べ物も分けてやった方がいいな。

「カイさんの分も取り分けますね」
「いやあ、人族のおじさんは優しいな!」

 おじさんは余計だ!

「あんたはあつかましいわね。分けて貰うならせめてお兄さんと言いなさいよ」
「失礼、お兄さん」
「いやいや、あはは」

 もう笑うしかなかった。
 狐男は万能調味料をかけた鳥肉を食べて、

「すげえ! 過去いち美味い! なんだコレ!」

 などと言っていた。
 美味い味に正直なところは悪くないな。
 彼は凄い勢いで食べている。


「カイ、あんた食べ過ぎじゃない? これ元は私の持ち込みの肉よ」
「金なら払ってらやるから~」
「そういう問題じゃないわよ、全く」


 でもミレナもお金を出すからと、俺にアイスをねだっていた過去があったような……。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

私の推し(兄)が私のパンツを盗んでました!?

ミクリ21
恋愛
お兄ちゃん! それ私のパンツだから!?

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

離婚した彼女は死ぬことにした

まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。 ----------------- 事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。 ----------------- とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。 まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。 書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。 作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貞操観念逆転世界におけるニートの日常

猫丸
恋愛
男女比1:100。 女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。 夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。 ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。 しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく…… 『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』 『ないでしょw』 『ないと思うけど……え、マジ?』 これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。 貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...