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23 お土産と薬草採集

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「これがお土産の吸汗速乾Tシャツだ、ジェラルドとミレナの分もあるぞ」
「俺のは黒とグレーのデザインのやつとダークグリーン一色のやつか」
「私のは黒一色とオレンジね」

「女の子用にピンクもあったけど、発色良すぎてすげー目立つから、まあオレンジも目立つが」
「髪色には合ってるな」
「あー、これ、やっぱりサラサラで柔らかくて手触りがすごくいい」
 
ミレナは黒いシャツを一枚出して頬ずりしてる。

「じゃ、ひとまず服はしまって、ミレナは魔法の鞄がないからこの紙袋をやる」
「ありがとう」

 ミレナはガサゴソと紙袋に服をしまった。

「次に食べ物だが」
「甘いの!」 

「ああ、甘いのもあるぞ、アイスを先に食うか、プリンか」
「アイス! あの白くて冷たいのでしょ!?」
「朝から冷たいの食べて腹を壊さないか? 先にプリンを食べて昼にアイスでよくないか?」

 ミレナはどちらにするかしばし悩んだ。

「むむ……そのプリンっていうのはアイスより美味しいの?」
「分からん、それは人による」
「じゃあ先にプリンを食べるけど、昼までここにいてもいいってこと?」
「お前は暇なのか? ちょっと森で狩りとかしてから戻ればいいだろうに」

 ジェラルドがクールに言った。

「むー! いいわよ! じゃあ狩りか素材採りとかして昼に戻るわ!」
「そうそう、お前達はエルフじゃないのだから時間は大切にな」
「まあ、時は金なりだしな、俺も薬草採取とかならやりたい、薬草をもっと知りたいし」

「仕方ないから素人のショータには私が教えてあげるわ!」

 ミレナは得意気に胸をはった。

「ありがとう」


 やはり異世界は薬草採取が定番だよな。
 ポーションの材料とかになるものもあるんだよな?
 そういや急な怪我とかの時に魔法のポーションとかを複数ストックして持っておきたいな。

 ポーション的な物が日本でも使えたらいいんだが。
 頭痛や腹痛が魔法のように治まったりしたらすごく助かるから。

 そんな訳で、とりあえず薬草採取の前にプリンを出した。
 今回はひとまずなめらかプリン。

 俺は二人にぺりっとプリンの蓋の部分を開け、そのまま小さなプラのスプーンといっしょに渡した。
 今回はぷっちんするプリンじゃないから皿を出す必要ないし。

「このスプーン色がないのだわ!」

 そこに突っ込むか。

「気にするな、透明でも普通に使えるから」
「ひとまず、いただこう」

 流石長生きエルフは多少の事では驚かないな。

「甘い! 美味しい! 前の白いアイスも美味しかったけど! これも滑らかで、溶けるように口の中でなくなったわ!」

 大丈夫、飲み込んでるよ。

「おお、これも驚くほど滑らかで美味しい」
「なんでショータの故郷は美味しい物が多いの!?」
「食に異様にこだわってる人が多いから? 凄く研究熱心なんだよ」
「私は行けないのかしら?」

「多分無理だと思うけど、満月の日に大樹に触れてみれば? でもあちらの金がないと何もできないぞ」
「お、お金……」

 ミレナは少しガッカリしたが、でもやっぱり知らない世界は怖いわと、呟いた。

 まあ、普通はそうだよな。

 プリンを美味しく食べた後で俺とミレナは薬草採取に向かった。
 ジェラルドは庭の畑でまだ作業があるらしい。

 しばらく森の中を進んで、崖の近くまで来た。
 やべえ、怖い。
 サスペンス劇場なら突き飛ばされるか追い詰められた犯人が投身自殺する所だ。


「このあたりの日当たりのいい場所の青みがかった葉っぱの薬草はポーションの材料になるわ」
「おお!」
「崖から落ちないように採取して」
「お、おお」

 びびりつつもしばらく無心で薬草摘み。

「あ、そうだ、腹痛や頭痛が嘘のようにすっと消える魔法のポーションとはどこかにあるかな?」
「打撲や切り傷の怪我用じゃなくて?」
 
 えーと、

「体の内部のどこかはおかしくなってると思うが」
「うーん、そういうのなら上級ポーションかな」
「上級ってことは高い?」
「そりゃ上級だからね」

 あ、そうだ。
 俺はあることを思い出した。

「じゃあ眠気をもたらす薬草とかあるかな?」
「女の子に悪さするんじゃないでしょうね?」

 ミレナは経験があるせいかジロリと俺を睨んで来た。

「まさか! 不眠症の知り合いがいるんだ。
 副作用のない薬があれば助かると思うんだ」
「限界まで体を動かして疲れれば寝れるんじゃないの?」
「俺の故郷には頭脳労働者も多いし、人間関係が上手く行かずに心を病んで、寝たいのに寝られない気の毒な人が多くいるんだ」


「……じゃあ、教えてあげてもいいわ」
「ありがとう」


 崖近くから、離れてしばらく森を歩いた。
 水音が聞こえて来たので川があるんだろう。

 小川があった。
 そして小川の縁にセリにそっくりな植物がある。


「これ、食べられるやつじゃないか?」
「そうね、それは食べられる野草」

 やっぱりセリなんだろう。
 貰って行こう。

「あ、あそこ、小さな白い花をつけてる、あの紫色の葉の植物が眠り草よ」

「あれか! どうやって薬にするんだ?」
「煮出せばいいわ」
「なるほど」


 俺は眠り草を集めた。
 ひとまず自分で飲んで試して問題ないなら、海外のお茶っ葉だよ、とか言って不眠症の友達にも飲ませてみるかな。


「ショータ、そろそろ戻らないとランチに遅れるわ」
「そうだな、移動時間もかかるから戻ろうか」

 ミレナの心、いや脳内はアイスを食べる事でいっぱいなのかもしれない。
 
 俺たちはジェラルドの木の家に戻った。

「おかえり、ショータとそこの」
「ただいま、ジェラルド」
「何がそこのよ! お邪魔します!」

 ジェラルドの呼び方に軽く怒りながらも敷居をまたぐミレナ。
 アイスが呼んでいるのだろう。

「豆と玉ねぎと卵のスープとフォカッチャなら出来てるがどうする?」

 エルフの手料理! それもいいよな!
 ちなみにフォカッチャとは、古代ローマ時代から伝わる、イタリアの平焼きパンを指し、オリーブオイルや塩、ハーブを使ったりするやつだったはず。

「ありがたい、森を歩いて疲れているから今から料理はちとしんどいなって思ってた」
「私! デザートは期待してるから!」
「ハイハイ、アイスな」
「はい、じゃ、フォカッチャとスープな」


 庭のテーブルの上にフォカッチャとスープが並んだ。
 ミレナが勢いよくガツガツ食べ始めた。


「ミレナ、そんなに慌てて食べずともアイスはちゃんと出すぞ?」
「でもこれ食べ終わったらでしょ!?」
「そんなにも……」
「まあ。たしかにあれば衝撃的な美味しさだったから、気持ちは分からなくもない」

 俺はジェラルドの手料理をしっかり味わって食っていたが、ミレナが先に食べ終わったのでやや華やかな見た目のパフェアイスを出してやった。

「きたわ! 待ってたわ! この時を!」

 アイスを食べるだけでそんなに興奮できるとは、幸せな娘だ。

「おあがりよ」
「これ前と見た目が違うわね! なんか白と赤が渦巻いてるわ!」
「いちごとバニラのパフェアイスなんだよ、女性に人気があるらしいから」

 ミレナはパフェアイスにスプーンを挿した。

「美味しい! 濃厚な甘みの中で甘酸っぱさもある!」

 ぱあっとミレナの目が輝いてる。
 やはり女性はいちご味が好きだな。

「ジェラルドはまたラムレーズン味のにするか?」
「ショータはどんな味のものを食べるんだ?」
「柑橘系の果汁を絞って固めたようなやつ」 

 みかん味だ。

「へえ」
 ジェラルドは悩みつつ、ランチを食べ終えた。

「ひとまずこれ、どちらを食べてもいいぞ?」

 俺はラムレーズンアイスとみかんバーを一つずつ出した。

「やはりこっちにしておく」

 ジェラルドはラムレーズンを選んだ。
 俺は棒付きアイスのみかんバーを食べた。
 ミレナがパフェアイスを食べ終え、こっちをじいっと見てる。

「だめだぞ、アイスは一日一回、一個までだ」
「そんなこと、誰が決めたの?」
「太るぞ?」
「私は動くから太らない! だから一口だけ!」

 ジェラルドは落ちないと見て、俺にターゲットを絞ったらしいミレナ。

「はあ、一口だけだぞ、はい」

 がぶり、差し出したみかんバーを、ミレナは凄い速さで齧った。

「んんんっ! 冷た! さっかのより硬い、でも甘い! 美味しい! けどさっきたべた私のがもっと美味しかった」

 コイツ凄い早口で喋るな。

「暑い時は氷感が強いこっちのが食べたくなるんだよ、真夏とか特に」
「そうなの?」
「まあ、人によるか」

「じき、夏が来るな」


 ジェラルドの言葉にそうだなと、俺は頷いた。


「お土産にあげた服は半袖だし、ぜひ使ってくれよ、これからの季節にいいと思う」
「ああ」
「もちろん着るわよ」
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