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106話: 春を待つ
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「ソフィアナ様、お呼びとお聞きして、参上仕りました」
我々三人は、伯爵邸の広く豪華なサロンに通された。
既に人払いはされていて、ソフィアナ様の側には、最低限の護衛騎士が三人いるだけだった。
「あなた達、何かしたでしょう?」
「何か……とは?」
「スキア伯爵領の商人用通行証を使って、魔王領最寄り神殿まで転移した記録があるのよ。
転移陣は希少な魔法を使うから、絶対に記録に残すの」
うっ!!
「それから進軍途中のダヴォーラシ軍に、突如現れた魔王軍が攻撃を加えた。
魔王軍は我々バルド軍には攻撃を加えないのに、ダヴォーラシにだけ、おかしいじゃない?
まるで魔王軍と秘密裏に協定でも結んだかのようじゃない?」
「流石ソフィアナ様の慧眼には参りました。お察しの通り、戦争を回避したく、秘密裏に貢ぎ物を持ち、当方が魔王と交渉致しまして、敵陣に派手な魔法でもぶちかまして戦意を削いで欲しいとお願いしました。
私の一存で勝手な事をして申し訳ありません」
私は白状した。
「……その、貢ぎ物とは?」
「食べ物です。それと飲み物」
「そんなに凄い物ですか? 妖精の里の果実や神酒のような?」
「……いいえ。特殊ルートでしか手には入りませんが、普通の人間が食す物です」
「何故そんな物で……」
ソフィアナ様は解せぬといった表情だ。
紗耶香ちゃんが辛抱たまらず、会話に入って来た。
「ぶっちゃけると、魔王が知り合いだったので、懐かしい故郷で食べていた物やジュースをあげたら、人間同士の殺し合い回避のお手伝いして貰えるよう、交渉成立してしまいました。
異世界召喚された勇者一行が、新しい魔王です」
「な……っ!!」
驚愕するソフィアナ様。
最側近の騎士のみ側にいる状況のサロンに、異様な緊張が走る。
「──ああ、紗耶香ちゃんったら、全部バラしちゃった……」
「だってもう、ぶっちゃけた方が話、早くない!?」
紗耶香ちゃんの淑女演技も、もはや消えている。
「勝手に異世界召喚された勇者一行は、魔王相手に突撃しろなんて、頭に来たので、魔王に復讐を願ったそうです。
魔王は話せば分かるタイプの方だったので、その精神を三つに分け、三人の勇者の中に入り、魔王の力で国王夫妻は討たれましたし、今回は我々の希望で敵軍にも攻撃してくれました」
「勇者は……魔王の方に交渉を……」
ソフィアナ様は頭を抱えた。
私も観念してぶっちゃける事にした。
ソフィアナ様の人柄を信じて。
「魔王と戦ったはずの勇者の遺体は見つからなくて、国王夫妻を襲撃した魔王は仮面をかぶっていたと聞いて、私はピンと来ました」
「……」
「実は私達も異世界召喚の魔力の余波を受けて、魔力の歪みに落ちてしまい、知らない山中に来てしまった異世界人です。
平民の私には、王族よりは、かつて同じ学校に通っていた彼等の方が、話しやすかったんです」
「あの、精巧で美しいレースや、私の知らない料理、食べ物……なるほど、だいたいは理解しました」
「異世界人ならいくら死んでもいいみたいに、前国王に使い捨ての道具のように戦場に駆り出される、我らの同胞の気持ちを、分かっていただきたいです。
そして、二度と繰り返して欲しくない」
「繰り返せば、魔王と同化した元勇者が敵になるという訳ですね、分かりました。私がなんとかしましょう」
え、伯爵令嬢にどうにかできるんだ!? 強い!
今まで静かにしていたコウタは口を開いた。
「具体的に、なんとかとは?」
「こちらも新しく王妃になる王太子妃に、貢ぎ物で」
「はっ! もしや!」
「美しいレース、ありったけ出して下さい」
「な、なるほど……」
やっぱりそう来たか!!
「王太子は、新国王は王太子妃を溺愛していますので、王太子妃の機嫌を取れば、勝手に交渉した事も、国を思ってした事だと、ねじ伏せることも可能でしょう。何しろ魔王は倒せるような相手ではないようですし、魂を三つに分裂可能だなんて、どれだけ攻撃しても、きっとキリがないわ」
そうです!! 魔王を倒すのは諦めましょう!
「懸命な判断だと思います。魔王は話せば分かる方なので、倒すより、共存の道を選ぶ方が良いのです。
差し当たり、カナデが生きている間は、貢ぎ物で機嫌も取れますから」
「その魔王の機嫌取りの品、カナデしか、用意出来ない物なのです?」
「はい。我々、それぞれ買える物が違いまして」
「あ! 化粧品や美容用品ならアタシ、いえ、私に任せて下さい」
紗耶香ちゃんが挙手した。
「ああ、化粧品や美容用品もいいわね。王太子妃はとても美しい方なので、長く美しさを維持したいでしょうし」
そんな訳で、伯爵令嬢が新国王夫妻に、話をして、間を取り持ってくれるというか、上の方に話をつけてくれる事になった。
上位貴族とお知り合いになってて良かった。
我々の顧客にはアーシェラ侯爵令嬢もいるし、きっと守って下さるでしょう。
だってレースがこれからも欲しいだろうし。
* *
ソフィアナ様にかなりぶっちゃけたおかげで、私も覚悟を決めた。
ラウルさんにも、私が、この世界の者じゃないって、はっきり言っておこうって。
さんざん迷惑……お世話かけてて、今更かもしれないけど、これは、私だけの秘密ではなくて、三人の秘密だったから。
まだ屋敷内で待機して貰っていたので、私は話をするため、ラウルさんの滞在中の部屋に行った。
時刻は、夕刻。
暖炉の火は温かく、部屋を温めてくれている。
「カナデ」
私の大好きなイケボで出迎えてくれた。
「私の話を聞いて下さいますか?」
「ああ、何でも話してくれ。そして、座れ」
暖炉の前に、椅子が二つ並んだ。
「私は、私達三人は、異世界から、勇者召喚の巻き添え……余波で、この世界に来ました」
「予想していた。あの見知らぬ料理とかでな。それに、なにより、纏う空気も、全く違う」
「そうでしたか」
「たまに魔力のヒズミに落ちてくる迷い人がいる、冒険者の中でも聞く話だ」
「黙っていて、すみません」
「謝る事はない。出自や弱みになりそうな事を無防備に、誰にでも話すのは、生まれが特殊なら、してはいけない。すべきではない」
「ありがとうございます」
「それで、話しは、それだけか?」
「……これからも、仲良くしていただけますか? 私達は、面倒くさい連中かもしれません」
「とっくに、覚悟は出来てた」
「すみません、ありがとうございます」
「もう、謝るな」
カタンと、ラウルさんは、椅子から立ち上がった。
私もつられて立ち上がった。
右手が、私に差し伸べられてた。
私はその右手を、両方の手で。そっと包み、自分の頬に、引き寄せた。
一瞬、頬にラウルさんの手が触れてから、私は手を離した。
その後に、そっと抱きしめられた。
温かい。
目を閉じて、眠ってしまいそうなほど、心地良くて、私は……。
──そのまま、どうやら、気絶した。
墜落睡眠。
急に、戦争が始まりそうだとか、クラスメイトが魔王だとか、王族に黙って勝手に交渉したとか、けっこう大変な事が立て続けにあって、極度の緊張と疲労があったみたいだ。
それで、目が覚めた後に、紗耶香ちゃんが言った。
「えっとね、サヤの鑑定によると、精神的にかなりの疲労状態だって。
しばらくゆっくりしたほうがいいよ」
「ごめん、そうする。ところで、ラウルさんは?」
「仕事に行ったよ、何かあれば鳥でも飛ばして呼んでくれってさ」
「そっか」
「でも、しばらく前の家の、今はコータ君の両親の家の離れ、二段ベッドがせっかくあるから冒険者に安く貸すことにしたし、あそこにいるよ」
「安宿に……ラウルさん、お金ないのかな?」
「違うでしょ、カナデっちになんかあれば、すぐに駆けつけられるように、近くに寝床を確保して、待機してくれてんでしょ」
「紗耶香ちゃんは、告白って、したことある?」
「サヤは、された事しかない」
「流石」
ふふっと、思わず笑いが出た。
「カナデっちが読んで来た少女漫画ではどうしてた?」
物語には、山があって、谷があって、それから……
「えっと……色々あったはずなんだけど、どうだったか……多分、なんか、ロケーションのいいとこで、告白? 好きですって、言うとか」
頭が……思考がうまく回らない。
「それでいいんじゃん?」
「春を待てば、いいかな?」
「まあ、喪中の冬よりも、春はなんか祭りとかあると思う、あ、新国王の即位の後だし、あるでしょ、イイ感じのイベント」
じゃあ、春を、待とうか。
新しく、始めるのには、いい季節だし。
「てもカナデっちが嫁に行くと寂しいから、ここにラウルさんも呼んで、同居希望だよ」
「あはは、それ告白したらOK貰える前提?」
「サヤ的に確信に近い、大丈夫だよ、自信持って。
他に、今はラウルさんの側に、カナデっち以上に、素敵な女の子はいないと思う」
紗耶香ちゃんの言葉を信じて、私は、春を待つことにした。
* *
喪が明けてから、新国王の即位式は、無事に行われた。
前国王がいないので、王太子に新たな王冠を授ける役を担うのは、大神官だった。
大神殿では厳かに儀式は行われた。
神官や巫女の歌も流れた。
その後、城下町では盛大なパレードが行われた。
街道には寒さにも負けず、多くの人がいた。
おめでたいので、国からお酒や食事が振る舞われるし、皆嬉しそう。
「新、国王陛下万歳! 新王妃殿下とお幸せに! 長く御世が続きますように!」
新年を迎える前には、電子レンジならぬ魔石レンジの素材も集まった。
錬金釜に素材を投入したら、光が満ちて来て、釜の中に、バラバラのパーツが出て来た。
バラバラでも、魔法陣付き布の上に置いて、『セット、コンプリート』と唱えると、勝手に組み上がってくれる、便利設計だ。
「魔道レンジ! 完成!」
我々三人は、伯爵邸の広く豪華なサロンに通された。
既に人払いはされていて、ソフィアナ様の側には、最低限の護衛騎士が三人いるだけだった。
「あなた達、何かしたでしょう?」
「何か……とは?」
「スキア伯爵領の商人用通行証を使って、魔王領最寄り神殿まで転移した記録があるのよ。
転移陣は希少な魔法を使うから、絶対に記録に残すの」
うっ!!
「それから進軍途中のダヴォーラシ軍に、突如現れた魔王軍が攻撃を加えた。
魔王軍は我々バルド軍には攻撃を加えないのに、ダヴォーラシにだけ、おかしいじゃない?
まるで魔王軍と秘密裏に協定でも結んだかのようじゃない?」
「流石ソフィアナ様の慧眼には参りました。お察しの通り、戦争を回避したく、秘密裏に貢ぎ物を持ち、当方が魔王と交渉致しまして、敵陣に派手な魔法でもぶちかまして戦意を削いで欲しいとお願いしました。
私の一存で勝手な事をして申し訳ありません」
私は白状した。
「……その、貢ぎ物とは?」
「食べ物です。それと飲み物」
「そんなに凄い物ですか? 妖精の里の果実や神酒のような?」
「……いいえ。特殊ルートでしか手には入りませんが、普通の人間が食す物です」
「何故そんな物で……」
ソフィアナ様は解せぬといった表情だ。
紗耶香ちゃんが辛抱たまらず、会話に入って来た。
「ぶっちゃけると、魔王が知り合いだったので、懐かしい故郷で食べていた物やジュースをあげたら、人間同士の殺し合い回避のお手伝いして貰えるよう、交渉成立してしまいました。
異世界召喚された勇者一行が、新しい魔王です」
「な……っ!!」
驚愕するソフィアナ様。
最側近の騎士のみ側にいる状況のサロンに、異様な緊張が走る。
「──ああ、紗耶香ちゃんったら、全部バラしちゃった……」
「だってもう、ぶっちゃけた方が話、早くない!?」
紗耶香ちゃんの淑女演技も、もはや消えている。
「勝手に異世界召喚された勇者一行は、魔王相手に突撃しろなんて、頭に来たので、魔王に復讐を願ったそうです。
魔王は話せば分かるタイプの方だったので、その精神を三つに分け、三人の勇者の中に入り、魔王の力で国王夫妻は討たれましたし、今回は我々の希望で敵軍にも攻撃してくれました」
「勇者は……魔王の方に交渉を……」
ソフィアナ様は頭を抱えた。
私も観念してぶっちゃける事にした。
ソフィアナ様の人柄を信じて。
「魔王と戦ったはずの勇者の遺体は見つからなくて、国王夫妻を襲撃した魔王は仮面をかぶっていたと聞いて、私はピンと来ました」
「……」
「実は私達も異世界召喚の魔力の余波を受けて、魔力の歪みに落ちてしまい、知らない山中に来てしまった異世界人です。
平民の私には、王族よりは、かつて同じ学校に通っていた彼等の方が、話しやすかったんです」
「あの、精巧で美しいレースや、私の知らない料理、食べ物……なるほど、だいたいは理解しました」
「異世界人ならいくら死んでもいいみたいに、前国王に使い捨ての道具のように戦場に駆り出される、我らの同胞の気持ちを、分かっていただきたいです。
そして、二度と繰り返して欲しくない」
「繰り返せば、魔王と同化した元勇者が敵になるという訳ですね、分かりました。私がなんとかしましょう」
え、伯爵令嬢にどうにかできるんだ!? 強い!
今まで静かにしていたコウタは口を開いた。
「具体的に、なんとかとは?」
「こちらも新しく王妃になる王太子妃に、貢ぎ物で」
「はっ! もしや!」
「美しいレース、ありったけ出して下さい」
「な、なるほど……」
やっぱりそう来たか!!
「王太子は、新国王は王太子妃を溺愛していますので、王太子妃の機嫌を取れば、勝手に交渉した事も、国を思ってした事だと、ねじ伏せることも可能でしょう。何しろ魔王は倒せるような相手ではないようですし、魂を三つに分裂可能だなんて、どれだけ攻撃しても、きっとキリがないわ」
そうです!! 魔王を倒すのは諦めましょう!
「懸命な判断だと思います。魔王は話せば分かる方なので、倒すより、共存の道を選ぶ方が良いのです。
差し当たり、カナデが生きている間は、貢ぎ物で機嫌も取れますから」
「その魔王の機嫌取りの品、カナデしか、用意出来ない物なのです?」
「はい。我々、それぞれ買える物が違いまして」
「あ! 化粧品や美容用品ならアタシ、いえ、私に任せて下さい」
紗耶香ちゃんが挙手した。
「ああ、化粧品や美容用品もいいわね。王太子妃はとても美しい方なので、長く美しさを維持したいでしょうし」
そんな訳で、伯爵令嬢が新国王夫妻に、話をして、間を取り持ってくれるというか、上の方に話をつけてくれる事になった。
上位貴族とお知り合いになってて良かった。
我々の顧客にはアーシェラ侯爵令嬢もいるし、きっと守って下さるでしょう。
だってレースがこれからも欲しいだろうし。
* *
ソフィアナ様にかなりぶっちゃけたおかげで、私も覚悟を決めた。
ラウルさんにも、私が、この世界の者じゃないって、はっきり言っておこうって。
さんざん迷惑……お世話かけてて、今更かもしれないけど、これは、私だけの秘密ではなくて、三人の秘密だったから。
まだ屋敷内で待機して貰っていたので、私は話をするため、ラウルさんの滞在中の部屋に行った。
時刻は、夕刻。
暖炉の火は温かく、部屋を温めてくれている。
「カナデ」
私の大好きなイケボで出迎えてくれた。
「私の話を聞いて下さいますか?」
「ああ、何でも話してくれ。そして、座れ」
暖炉の前に、椅子が二つ並んだ。
「私は、私達三人は、異世界から、勇者召喚の巻き添え……余波で、この世界に来ました」
「予想していた。あの見知らぬ料理とかでな。それに、なにより、纏う空気も、全く違う」
「そうでしたか」
「たまに魔力のヒズミに落ちてくる迷い人がいる、冒険者の中でも聞く話だ」
「黙っていて、すみません」
「謝る事はない。出自や弱みになりそうな事を無防備に、誰にでも話すのは、生まれが特殊なら、してはいけない。すべきではない」
「ありがとうございます」
「それで、話しは、それだけか?」
「……これからも、仲良くしていただけますか? 私達は、面倒くさい連中かもしれません」
「とっくに、覚悟は出来てた」
「すみません、ありがとうございます」
「もう、謝るな」
カタンと、ラウルさんは、椅子から立ち上がった。
私もつられて立ち上がった。
右手が、私に差し伸べられてた。
私はその右手を、両方の手で。そっと包み、自分の頬に、引き寄せた。
一瞬、頬にラウルさんの手が触れてから、私は手を離した。
その後に、そっと抱きしめられた。
温かい。
目を閉じて、眠ってしまいそうなほど、心地良くて、私は……。
──そのまま、どうやら、気絶した。
墜落睡眠。
急に、戦争が始まりそうだとか、クラスメイトが魔王だとか、王族に黙って勝手に交渉したとか、けっこう大変な事が立て続けにあって、極度の緊張と疲労があったみたいだ。
それで、目が覚めた後に、紗耶香ちゃんが言った。
「えっとね、サヤの鑑定によると、精神的にかなりの疲労状態だって。
しばらくゆっくりしたほうがいいよ」
「ごめん、そうする。ところで、ラウルさんは?」
「仕事に行ったよ、何かあれば鳥でも飛ばして呼んでくれってさ」
「そっか」
「でも、しばらく前の家の、今はコータ君の両親の家の離れ、二段ベッドがせっかくあるから冒険者に安く貸すことにしたし、あそこにいるよ」
「安宿に……ラウルさん、お金ないのかな?」
「違うでしょ、カナデっちになんかあれば、すぐに駆けつけられるように、近くに寝床を確保して、待機してくれてんでしょ」
「紗耶香ちゃんは、告白って、したことある?」
「サヤは、された事しかない」
「流石」
ふふっと、思わず笑いが出た。
「カナデっちが読んで来た少女漫画ではどうしてた?」
物語には、山があって、谷があって、それから……
「えっと……色々あったはずなんだけど、どうだったか……多分、なんか、ロケーションのいいとこで、告白? 好きですって、言うとか」
頭が……思考がうまく回らない。
「それでいいんじゃん?」
「春を待てば、いいかな?」
「まあ、喪中の冬よりも、春はなんか祭りとかあると思う、あ、新国王の即位の後だし、あるでしょ、イイ感じのイベント」
じゃあ、春を、待とうか。
新しく、始めるのには、いい季節だし。
「てもカナデっちが嫁に行くと寂しいから、ここにラウルさんも呼んで、同居希望だよ」
「あはは、それ告白したらOK貰える前提?」
「サヤ的に確信に近い、大丈夫だよ、自信持って。
他に、今はラウルさんの側に、カナデっち以上に、素敵な女の子はいないと思う」
紗耶香ちゃんの言葉を信じて、私は、春を待つことにした。
* *
喪が明けてから、新国王の即位式は、無事に行われた。
前国王がいないので、王太子に新たな王冠を授ける役を担うのは、大神官だった。
大神殿では厳かに儀式は行われた。
神官や巫女の歌も流れた。
その後、城下町では盛大なパレードが行われた。
街道には寒さにも負けず、多くの人がいた。
おめでたいので、国からお酒や食事が振る舞われるし、皆嬉しそう。
「新、国王陛下万歳! 新王妃殿下とお幸せに! 長く御世が続きますように!」
新年を迎える前には、電子レンジならぬ魔石レンジの素材も集まった。
錬金釜に素材を投入したら、光が満ちて来て、釜の中に、バラバラのパーツが出て来た。
バラバラでも、魔法陣付き布の上に置いて、『セット、コンプリート』と唱えると、勝手に組み上がってくれる、便利設計だ。
「魔道レンジ! 完成!」
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