修学旅行に行くはずが異世界に着いた。〜三種のお買い物スキルで仲間と共に〜

長船凪

文字の大きさ
上 下
44 / 108

44話: 冬支度の時期。

しおりを挟む
 昨日は厨房の片付けに疲れて翌日のメニューの相談をせずに寝てしまい、ラウルさんを送り出して朝から緊急ミーティング。


「やっぱ休憩所、だいぶ涼しくなってきたし、ホットのメニューがいるかな。
紅茶とホットドッグとか。パンに焼いたウインナーソーセージ挟むだけとかどうかな」


フルーツをカットしてサイダーを入れるだけの休憩所が楽だったなぁって、意識が楽な方向に流れがちな私はそんな事を提案した。
ホットドッグは紅葉見る時も作ったけど。


「パンに挟むのはソーセージとレタスで良いのは楽だよね。
でもケチャップと……前回は節約で省略したけど、マスタードはそろそろ欲しいかな。
サヤ、実はピリッとしたのも好きだし」


 胡椒の売り上げで金貨が入って気が大きくなっている気がする。


「小さくていいならロールパンに挟む? 
マーガリン入りのやつスキルで買ってさ」

「あれ、でも冷静に考えたら作業は簡単だけどウインナーソーセージの原価はけっこうするんじゃないか? 
前回はたまたまソーセージがこっちで安く売ってて良かったけど」


 コウタは日本でのウインナーソーセージの価格を思い出しているみたい。
魚肉ソーセージなら割と安いけど、良いウインナーソーセージってそこそこ良いお値段するよね。


「そこはやっぱ商人として長期契約か大量購入で値切るとか腕の見せ所じゃない」

「それはそうだけど、一度に沢山作るのならカレーとかも良くないか?
パンは安いの買えばいい」

「もしかしてコウタはカレーが食べたいだけじゃない?」
「え、確かにカレーは食べたいけど、ワイルドボアのカレーはリックさんやラウルさん達にも好評だったし」

「じゃーさ、いっそ、おでんとかどう? 
サヤ、出汁が滲みっしみの大根食べたい」


 紗耶香ちゃんから急におでん案が出て来た。


「俺、なんとなくおでんは冬まで取っておきたい」
「取っておきたいって、コンビニだって秋には肉まんとおでんを解禁するだろうに」


 私はやや呆れて反論したんだけど、コウタは微妙にズレた話をしだした。


「そういや俺、泊まりの時にラウルさんに聞いたけど、そもそも冬支度の季節なんだよ、保存の効く塩漬け肉とか貯蔵するんだって」


 ねえ、会話が飛んだと言うか、とっ散らかってない?
 次の休憩所のメニューを何にするかって話じゃなかった?
 

「……あー、ベーコンとか? ベーコンは良いよね、スクランブルエッグに混ぜて焼くやつならサヤでもたまに作ってた」

「じゃあとりあえず予算の問題なら肉屋に行って決める?」
「でもとりあえず今日の仕込み時間内に間に合うのにしないとだぞ」


 あ、朝から市場で肉屋寄って探す時間があんまり無いんだわ。


「スキルショップでウインナー買うと、セールでも無いとそこそこ高いから、いっそコウタの言う通りカレーにしようか、玉ねぎとひき肉のカレーなら牛肉オンリーより節約出来る」


 私はラウルさんがカレーを美味しく食べていた事を思い出したのでカレーでいい気がして来た。


「じゃあ今回は玉ねぎとひき肉カレーで、冬になったらおでんにしよ! 
大根と餅巾着必須でネ!」


 紗耶香ちゃんがおでんの大根と餅巾着が好きなのは分かった。


 *

 市場でカレーを煮込むと、香りに誘われて、人が集まって来た。
 本日は休憩所兼、軽食の日って事にした。


「本日はカレーとパンです。
カレーがやや辛いので、パンにつけて食べると良いですよ。
ライスが良い人はカレーとライスでお召し上がりください。
お子様には少し辛いので、オヤツのビスケットかパンをどうぞ!」


 本日は私が呼び込みをして、声を張った。

 カレーは念の為、中辛にしておいた。
 パンは食パンが安かったからそれにした。
 カレーとセットで二枚付ける。


 子供用には安売りしてたビスケットを私がスキルショップで仕入れた。
 

「飲み物は冷たいアイスティーと温かい紅茶の二種アリマース」

 紗耶香ちゃんが飲み物の説明係。


「今日はけっこう涼しいから温かい紅茶とビスケットを」
「かしこまり!」

「カレーとパンで、飲み物は水でいい」
「かしこまりました」


「このカレーっての、美味いな。リックに話は聞いていたんだが」
「あ、リックさんのお知り合いですか、ありがとうございます」


 そう言えばこのお客様、冒険者系の服装だなと私は気が付いた。


「このカレーっての、パン付きで持ち帰りできるか?」


 う! ヤバイ! 
 休憩所は食べて行く所なので持ち帰りの用意が無いのよ。
 でもせっかく味を気にいってくれたし、無下にも出来ない。


「申し訳ありません、カレーは容器の用意がありません、何かご自分でお持ちですか?」
「えーと、コップでもいいか?」


 冒険者さんは鞄からコップを出した。


「蓋がありませんが、大丈夫ですか?」


 私はカレーを溢さないように気をつけて持ち運べるか不安になった。
 さらに片手は確実に塞がるんだけど。


「油紙で蓋して紐で縛れば、手に持って行く分は大丈夫だとは思いますが、鞄に入れるのは倒れた時が危険です」


 コウタが油紙を蓋にと、知恵を出してくれた。


「ああ、近い場所にいる友達の差し入れにするから、手で持っていくよ、油紙で蓋してくれるか? パンは手持ちの布に包んで行く」


 友達が近場にいるならなんとかなるか。


「かしこまりました」


 コウタがお客様からコップを受け取り、カレーを注ぎ、油紙で蓋をした。
 安売りしてた柔らかい食パンはお客様が自分で手持ちの布に包んだ。

 安売り食パンでもこの世界の安いパンは硬いのが多いのでこちらでは上等な部類。


「カレーとライス」
「へい! カレーライス一丁!」


 突然食堂のにーちゃん口調になるコウタ。


「アイスティーとビスケット」
「かしこまり!」

「温かいのと軽く食べられるビスケットをお願いしようかねえ」


 お、年配の女性だ。


「はい、ただいま。紅茶とビスケット入りまーす」
 

 * *


 本日の休憩所も好評で、私達は胸を撫で下ろした。


「紙コップやラップが仕入れられたら良かったんだけどね」


 持ち帰りを希望されて焦ったわ。
 市場内を雑談しつつ、更に安売り食材をも探しつつ、移動する私達。


「スキルショップに雑貨屋が入ればいいけどな。さてこれからの話だが……」


「食堂開店する時はちょっとお値段するかもだけどコウタの金物枠で圧力鍋とか買う? 時短用に」

「それを買うならサヤ、角煮食べたい! どっちか作れる?」


 紗耶香ちゃんは期待に満ちた眼差しで私とコウタを見た。


「ああ、角煮美味いよね、買うと高いから俺はいつも自分で作ってた」
「私も作れるよ」
「やった! 二人とも優秀!」


「あ、鮮度も良さそうな豚肉の安売りあったぞ。
冬支度にも良いし、買っておくか」

「いいね」
「ベーコンと角煮用!」


 雑談しつつも周囲をしっかり見ていたコウタはお得なお肉屋を見つけた。
しおりを挟む
感想 113

あなたにおすすめの小説

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

処理中です...