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危険なコウモリ肉と友情

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 本日の営業の反省。


「胡椒の値段設定をどうやら間違えたようだ」


 コウタもやらかしたって顔をしてる。


「でもカナデっち、咄嗟に雨の日の今日限定価格って言っておいてくれて良かったじゃん!」


 紗耶香ちゃんがフォローくれた。

 おにぎりとドーナツがまだ残っていたけど、もうじき無くなりそうって頃に、何と推しのラウルさんが来てくれた!

 しかし、紐で縛って吊るして持ってる物を見て、私はギョッとした。


「わ、コウモリだ、それ、どうしたんですか?」
「具合の悪い知り合いの所に見舞いにポーションを届けてやったら、お返しにくれた」


 お見舞いに行ったんだ! ラウルさんは優しい! 


 しかし、返礼品がコウモリか……。
 ここらの人にとってはこんなコウモリのようなブッシュミートでも貴重なタンパク源かもしれない。

 でも、地球じゃコウモリは危険な病原菌の宿主説があるので、私は念の為、鑑定眼を使った。

【危険ウイルス有り! 食べると病気になる危険性が高い。
ウイルスに侵されれば高確率で死に至る」

 いけない! 
 これをラウルさんが食べたら病気になってしまう!

「あの、ちょっと、お時間いただけませんか、お話したい事が、すぐ終わります!」

 私は濡れるのも構わず、人の多い所から離れる為にラウルさんの腕を外套の上から引っ張って行った。


「おい、お嬢ちゃん!?」

「お!?」
「ワオ」

 コウタと紗耶香ちゃんが何か勘違いしてるっぽいけど、そんなの気にしてる場合じゃない。


私は人から離れた所で、アイテムボックスから折り畳み傘を出して、ラウルさんの耳元で、小声で囁いた。

「あの……私の手持ちのお肉か、甘味かおにぎりをさしあげますから、そのコウモリ肉は焼却処分しませんか?」
「は? 何でだ? 見た目は悪いが一応食えるぞ」

「それ、私の鑑定眼で見たら危険な病原菌が……病気になるって出てます」


 正確には病気になる危険性が高い。
 であり、絶対じゃないけど、危険だから……。


「え!? まさかあいつ、知らずにコレ食ってそれで具合悪くしてたのか!?」

 急に顔色を悪くするラウルさん。

「その人の事は存じ上げませんので、その方の状態は分かりませんが、そのコウモリ肉が危険である事は分かっています」

 バシャバシャと足音が聞こえた。
 何故か追って来たコウタと紗耶香ちゃん。
 私は自分が着てるシャツの襟元を掴んで口元を覆った状態で叫んだ。


「二人とも! そこで止まって! そこからコウモリを鑑定して!」

 今、二人からは3メートルは距離がある。

「え!? わ、分かった! 見る!……鑑定! あ、ダメだ、これ、ヤバイ」

「わ、マジヤバイじゃん、コレ食べたら病気になって死ぬやつ。
お客さん! それ燃やして、すぐに燃やして!」

「雨なんだが!」
「そうだわ! 誰かお知り合いに炎の魔法使いはいませんか!?」

「お、呼んだか!? 俺は炎の魔法使えるぞ!」

「あ! いつもの冒険者のお客様! いい所に!
この肉を跡形もなく燃やして欲しいのです!」

 通りかかったお客様にお願いしてみた。

「リック! 俺からも頼む!」
「おっと、ラウルじゃねえか! お前も来てくれたんだな、こいつらの店の食べ物美味かったろ?」

「今はそれより! この肉をどっかで燃やしてくれ!」

 ラウルさんは真剣に叫んでから、肉を人から離れた場所、地面の上に移動させた。
 リックさんは雨にもかかわらず、雨に濡れたコウモリ肉を燃やしてくれた。
 魔法の火は雨にも強いのかな?



「ね、コウモリ肉さ! 食べたら危険てあったけど、触るだけで危険とは出て無かったよ! カナデっち!」

「分かんないけど、万が一って思ったら! 私、後でお風呂のお湯ぶっかけて! 
家の前の庭で! 高濃度アルコール飲料も買う! 消毒用に!」

「わ、わかった! そこまで言うなら!」
「それと、しばらく家に入らずに、テント生活するから!」
「え!? そこまでするのか!?」
「だって、二人とも巻き込めないし! 家主さんの家も汚染出来ない!」

「奏はコウモリ肉を直接は触って無いだろ!?」
「そうだけど、コウモリ肉にせいか病気になってる人のお見舞いに行ったラウルさんに、私はだいぶ近寄ったし」

「何でそこまで警戒するのに近寄ったんだよ! 離れたとこから警告しろよ!」

「人多いあの場では、色んな人の耳に入って、悪い噂が立ったら、ラウルさんに迷惑かかると思って!
 近くに来て小声で言うしかなかった!」


「君、俺の為にそこまで……すまない、迷惑をかけた」
「いいえ、ただ、コウモリは基本的に危険な気がするので、食べるのは止めて欲しいです」

「分かった。俺は今からくれたやつの所に行って、まだコウモリ肉が残っていたら、全部処分してくる」

「は、はい、でもなるべく人に合わないようにした方が賢明です。
14日間くらいは様子見で、食べ物などは知り合いに扉前に置いて貰うとかして。お気をつけて……」

「14日も!?」
「念の為です。着てる洋服は熱湯で消毒をして下さい」
「分かった……」

 ラウルさんは真剣な様子の私を見て、ただ事では無い雰囲気を感じとったらしい。

「ちょい待ち! 鑑定!」

「どうしたの? 紗耶香ちゃん!」

 紗耶香ちゃんが突然鑑定眼を使ったらしい。

「今、カナデっちを鑑定したんだケド! コウモリのウイルスに侵されてるとは出て無い!」

「あ! そうか! 鑑定! ……ラウルさん、手袋だけ! 燃やすか煮沸消毒して下さい!」

「!! 手袋だけで良いのか! ありがとう!!」

 ラウルさんはすぐさま皮の手袋を外し、リックさんに魔法で燃やして貰った。

 潔い。貴重な装備だったかもしれないのに。

 それと、手袋だけどうにかすれば、今の所ラウルさん自身は大丈夫なら……と、私はまた口を開いた。

「ラウルさん! 気の毒ですが、病気のお友達にはもう直接会わずに、扉越しに手紙とかでコウモリと病気の件をお知らせしたらどうでしょう!? 扉の隙間から手紙を差し込むとかで」

「分かった! ギルドを通して神官にも浄化を頼む事にする!」
「浄化! そういう魔法もあるんですね! 良かった!」

「鑑定眼とか凄いスキルを持ってる割にあまり物を知らんのだな、君。
チグハグで不思議だ」


 ──ギクリ。


「えへへ」


 私が笑って誤魔化していたら、リックさんが話を逸らしてくれた。


「ラウル! ギルドへ報告、俺も付き合ってやんよ」
「リック、俺は子供じゃないぞ」
「いいから、いいから、行くぞ!」


 どちらも仲間思いなんだろうな。
 二人は雨の中、ギルドへ報告に向かった。


 私はドキドキしながら、自分の手を自分でも鑑定した。

 私がここに引っ張って来るまでにラウルさんに触れたのは、雨避けの外套越しの二の腕だ。
 手袋より上の方。
 だから、セーフだったみたい。


「カナデっち、雨に濡れ過ぎ! 帰ってお風呂に入って温まった方がいいよ!」

「あ、は~~い!」


 それは確かにそうなので、興奮状態でよく分からなかったけど、少しずつ寒さを感じて来た私は、家に帰ってからすぐにお風呂に入った。

 翌日も雨だったので、お店はお休みにした。
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