魔法が生きる世界で

やっさん

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第一章 魔法が生きる世界

サバンの領主、ザヘル

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【サバンの領主、ザヘル】




「これは黒龍の皆様、わざわざお越しいただきありがとうございます。私、ここサバンの領主をやっています、ザヘルと申します」


重々しいレンガ造りの門を背後に、サバンの領主と名乗るザヘルが恭しく頭を下げながら出迎えてくれた。

年齢は50代後半ほど。
無造作に伸ばされた髪を一つに束ね、薄汚れた布切れを肩に羽織るその姿は、10年前まで栄えてきた街の領主とは思えないほどの身なりである。


「月影軍、第十二部隊黒龍の副隊長、イクトです。なんでも、ここに多くの魔獣が出没しているとか」


イクトの言葉に、ザヘルの浅黒い顔が曇りを見せた。

10年前の大爆発から、人々はどんどんこの街を離れていき、そして野蛮な者達の集まりどころとなってしまったサバン。


「見えます通り、海域からちょうど真正面に森があります。昔から魔獣の住処となっておりますが、彼らはこちらから手を出さぬ限り襲っては来なかった。
しかし・・・・・・」
「・・・最近この街に侵入し、人を襲うよになったと?」


ザヘルは力なく頷いた。

ただでさえこの寂れた街を支えるため、身を削る思いをしているというのにさらに魔獣被害とは・・・。


「ここで話をしても仕方がねぇ。たったと中に入って状況を見ねぇと先に進まないだろ」


突然ヌウッと現れた長身で威圧感のあるグレンに一瞬ギョッとした表情を見せたザヘルは、慌てたように身を低くした。


「こ、これは失礼致しました。
どうぞ、10年前とは程遠い街になってしまいましたが・・・」
「いえ、とんでもない。
我々も昔ここに訪れたことがありますが、とても素晴らしい街でした」


イクトとグレンがまだ軍の候補生の時、何度か先輩隊士に同行して連れてきてもらったことがある。
当時の街の様子も、そして僅かではあるが領主の姿も覚えてはいる。


(だからこそ、どうしてこんな事になってしまったのか知りたいのだが・・・)


一度調査済みとされた事柄を、再び掘り起こして調べ直すのはかなりの時間と、それ相応の理由が必要になる。

月影軍はアルファ大国屈指の軍であるため、なかなか時間を取れないのが現状だ。


一行はザヘルの後に続きながら、まじまじと街の様子を伺った。

とても大きく、しかし劣化してしまった建物ばかりが残されている。
街のチンピラ共の仕業か、至る所に落書きや人為的破損物が転がっていた。


「10年前っていっちゃぁ、俺たちまだ10にも満たないガキだぜ?
まだ軍学校にも入ってねぇよなぁ。
・・・・・・おーい、ルイス?聞いてるかぁ?」


キリクは隣を歩くルイスのの顔を覗きこんだ。


「・・・なに」


不機嫌な顔を隠そうともせず、ぶっきらぼうに返事をしたルイス。


あぁ・・・これは寝起きが悪い時の彼そのものだ。


車内での睡眠を、強制的に、そして強引に叩き起されたルイスは、軍帽を深く頭にかぶり、ムスッとした態度を貫き通す。

なにより、その原因であるグレンの方を、顔さえ向けようとしないのだ。


「・・・隊長も、どうしてこうルイスの癇に障ることをするのかね。ま、昔からだけど」

「・・・・・・」


ふと、キリクはルイスの様子を見て首を傾けた。

不機嫌なのには変わりはないが・・・軍帽から除く目がゆっくりと瞬きをした。
もしやコイツ・・・・・・


「なんだ、ルイス。もしかしてまだ眠いのか?」

「・・・・・・」


どうやら肯定のようだ。
彼が眠そうなのはいつもの事だし、特に気にすることは無い。
だが。


「おいおい、一応任務中なんだからな?
機嫌が悪いのか眠いのか知らねぇけど、ボーッとして任務に失敗しましたなんて笑えないぜ?」


声は明るめに言ったが、これは半分忠告でもあった。

ルイスが任務に失敗するなど、キリクが知る限りはない。
むしろ期待以上の仕事をこなすのが彼だ。

けれどわざわざこんな事を言ったのは、キリクの直観的な感が働いたからだ。

なんというかこう・・・今のルイスは任務中なのに任務に居ないというか・・・集中力がないというか・・・・・・。

正直、こんな彼は珍しいわけで。


(まぁ、コイツのことだ、魔獣との戦いになれば本領発揮するだろう)






























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