山奥で巡り合ったあなたと〜 「運命的」な出会いの果てに……

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二、

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 アーケディア西部の乾いた風が吹き抜ける町に、ある五十代の男が住んでいた。彼は人当たりが良く、町の誰からも親しまれていたが、特別に親しい友人というものがほとんどいなかった。仕事をする必要がないほど裕福な家庭に恵まれたが、若い頃に両親を亡くして天涯孤独だったせいかもしれない。

 そんな男の唯一の趣味が、山登りだった。少年の頃から彼は山に登り、自然の中で自分を取り戻すことが何よりも心地よかった。アーケディア西部の広大な山岳地帯には、静かで険しい峰がいくつもあり、彼にとっては格好の逃げ場だった。人の少ない登山道を歩き、標高が上がるごとに景色が変わっていく様子を楽しむのが彼の生き甲斐だった。

 ある秋の朝、男はいつものように登山の準備を整え、古びたトラックに乗り込んだ。目的地は、彼が若い頃から何度も訪れている山だ。頂上からはどこまでも続く山々が一望でき、特に秋の澄み切った空の下では、景色が一層美しく感じられた。

登山道に足を踏み入れると、男は肩の力が自然と抜けていくのを感じた。風が木々の間を通り抜け、鳥たちのさえずりがどこからともなく聞こえてくる。静かで穏やかな時間が、彼の心を満たしていった。

 山道を進むうちに、ふと遠くの小道に若い女性が見えた。彼女もまた登山を楽しんでいるらしく、リュックを背負いながら真剣な顔つきで足元を見つめていた。男はすれ違いざまに軽く挨拶を交わし、心の中で「いい登山日和だな」と思いながら歩みを進めた。

 彼にとって、登山道での偶然の出会いは特別なものだった。見知らぬ人とすれ違い、互いに短い挨拶を交わすだけでも、それが何となく心に残る。日常生活の中で人との距離感に悩まされる男にとって、山の中でのそうした一瞬の交流は、孤独を抱えたままでも温かいものだった。

 頂上に着いた男は、リュックからサンドイッチと水筒を取り出し、いつものように昼食を取り始めた。風が吹き、遠くの景色が陽に照らされて美しく輝いている。その時、ふと、先ほどすれ違った女性がまた近くに現れたのが視界に入った。
 きれいな女性だけどまだ若いな。二十歳を過ぎていないようにも思える、と男は思った。

 薄茶色の長い髪に焦茶色の肌、豊満な体つき。
 夢見るような瞳に長いまつげ、艶やかな唇。長い髪はリボンで一つに結ばれており、チェックシャツとジーンズというラフな格好にスニーカーをはいている。

 彼女は、うーんと伸びをして黄色に染まった木に視線を移し、ふと微笑んだ。愛らしい人形のような顔に、生命が宿ったような、そんな輝き。

 その瞬間、男の中からすべての音がふっと消えた。山のざわめきも、風の音も、遠くに響く鹿の鳴き声も、一瞬で霧の中に消えてしまったように感じた。

 秋の日差しが彼女の髪を淡く輝かせている。目に飛び込んできたその光景は、まるで映画のワンシーンのように、彼の記憶に焼きついた。

 彼女は周りを見回してから、ふわりとした動きでそこに腰を下ろした。軽く手で髪を直す仕草、何かを探すように鞄の中を覗き込む様子、その全てが、男の目には驚くほど愛おしく映った。

男は目をそらすことができず、無意識にその場に釘付けになっていた。心臓が鼓動を打つのを感じる。初めて会ったのに、まるでずっと探していた誰かを見つけたような、不思議な懐かしさが胸に広がった。

「一度話しかけるだけ、でも。そうだ、ここは山の中なのだから、軽い挨拶くらい誰でもするさ」
 そう思う一方で、男は臆病にもその場から動けなかった。ただただ、彼女の存在を遠くから見つめるしかできなかった。

その短い時間は、彼にとって永遠のように感じられた。そして、彼女がふと立ち上がり、ペットボトルの水を一気に飲み干すとその場を颯爽と立ち去った。男はふと自分の中に空いた穴のような感覚に気づいた。

それは、彼がこれまでに感じたことのない切なさだった。

その日、男は自分でも理由のわからない気持ちのまま、ひたすら山を歩き続けた。心に浮かんだのはただひとつの願いだった。

「どうか、もう一度だけでも会えますように」

その日の帰り道、男の心には穏やかな温かさが残っていた。長年抱えてきた孤独の感覚は変わらなかったが、どこか満たされたような気持ちもあった。

 男は再びトラックのエンジンをかけると。駐車場の少し離れた場所に、リボンをつけた女性が現れた。

 男の胸がどくん! と高鳴った。それからのことはまるで夢のようで思い返せなかったが、気がつくと男は女性が運転する車から少し距離を起きながら、女性の後をつけたのだった。
 そうして女性の住む家を突き止めた男は、それからはまるで取り憑かれたかのように女性のことを調べる毎日だった。わかったのは、女性がキンバリー・ペレス、愛称キムという、まだ17歳の女子高生だということ。学校の成績は優秀でスポーツも万能の人気者だということ。親一人子一人で、孤独を紛らわすため週末はいつも山登りをしており、母親がそんなキムのために懸命に働いて古いジープを買い与えたということ。

 美しく、自分と同じように孤独な少女。僕の手で守って、そして大人の女として花開かせてやりたい。
 男は孤独の中、もはや妄想を抑えることができなかった。

 ある金曜日、業者のようにツナギを身にまとった男はキムの家に堂々と向かい、駐車場に停められたキムのジープに向かう。車の修理は得意だ。特に、このようなボロ車をいじることは男の趣味と言ってよかった。

 やることは簡単だ。キムが車の運転をできるよう、けれど山に到着したあと何らかの不調が起きる程度にイジってやればいい。あとは男の登場である。キムの車を修理してやり、ヒーローとしてキムの心に刻むのだ。

 それ以上の望みはないはずだった。だが……。

「念のためだ。万が一、チャンスがあれば後悔したくないからな」

 深夜男はスタンガンを、女性や子どもなら気絶するほどの威力が出るように改造し自分のトラックに放り込んだ。
 男の家は広く、そして広い庭と強盗避けの高い塀に囲まれている。

 キム、もしも……。
 彼女がこの家で、自分の最愛の恋人として過ごす姿を想像した男は、抑えきれない興奮を宥めるべく、自慰を何年かぶりに何度も行ったのだった。

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