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「……アレックスのバカ。やめてって言ったのに」
 恨みがましそうなエイミーにアレックスが、ごめんとまた謝った。

 優しさというよりは、アレックスの中に少し後ろめたさがあったからだった。

「でもアレックスが、私のためにならないことするはずがないもんね。許してあげる」
「それはよかった」

 そう言ったアレックスが、エイミーにキスしながら、そっと指を先ほどまで舌が触れていた場所に持っていった。中にすんなりと入ったことに、アレックスは少しホッとした様子で安堵の息を吐いた。

「痛くないか?」
「ううん、平気。少し変な感じするけど」
「動かすぞ」

 指を中で動かしながら、エイミーの反応を見る。

「んんっ、ん、ああっ、あっ」

 良い反応を見せた場所を重点的になぶりながら、アレックスはそっと指を増やす。
 時間を掛けてエイミーの力が抜け、三本の指を飲み込めるようになり、アレックスはそっと体を起こした。

 アレックスの下履きを脱ぎ捨てると、硬く反り上がった陰茎が現れ、なんの気もなしに顔を見上げたエイミーは、ひっと声をあげた。

「な、なにそれ!?」
 ぱっと顔を逸らしたエイミーに苦笑し、エイミーの頬を撫でた。
「これを、お前の中に入れて、それで俺たちは夫婦になれる」
「む、むり、無理、無理! だって大きすぎるじゃん! 入るわけないよ!」

 本能的に恐怖を感じて、怯えきったエイミーの姿が、愛おしくて、愛おしくて。アレックスはエイミーのつむじにキスをした。

「大丈夫」
 たぶん、と心の中で付け加えた。

「さっきもちゃんと感じてただろ?なるべく痛くないようにするから」

 すでに涙目のエイミーは、覚悟を決めたようにギュッと瞳を閉じた。
 アレックスは内心で、詐欺師になった気分だと思いながら、エイミーの入り口にそっと自身を触れさせた。

「うっ、ぐっ」
 エイミーの薔薇のような口元から、堪えるような声が漏れる。
 宥めるようにアレックスがエイミーにキスを降り注ぎ、アレックスにも耐え難いほどにきつかった入り口が、ほんの少し緩んだ瞬間、ぐっと中に収めた。
「痛いっ! アレックス、ほんとに痛い、やめて!」
 アレックスは困り切って、動きを止めエイミーの頬を指で撫でた。眉間の皺が少し和らいだのを見て、エイミーの額にキスをする。

「もうちょっと、がんばれそうか?」
 その眼差しがとても甘く感じられて、エイミーは薔薇色の頬を真っ赤に染めた。
「………うん」
「ありがと」

 そう言うと、アレックスは動きを再開した。

「んっ!」
 痛みとも、快感ともつかない不思議な声をあげたエイミーに、アレックスはうれしそうに微笑みかけた。
「少し楽になってきた?」
「うん、なんか、ちょっとだけ」
 気持ちいい、と小さな小さな声でエイミーがつぶやいた。

 なぜか一瞬固まったアレックスは、気を取り直したようにエイミーの手を右手で握りしめる。

「痛くない?」
「まだ、だいぶ痛いけど。でも大丈夫」
「そっか。もうしばらくこのままでいようか」
「……ううん。アレックスの好きなようにしていいよ。私、アレックスにも気持ちよくなってほしい」

 ふいに、髪を撫でていたアレックスの左手が止まった。

「どうしたの?」
「いや、なんていうか、幸せすぎてどうしようかと」
 思いがけないアレックスの言葉に、ふふっとエイミーが笑った。

「そう? うれしいな。私も、アレックスとこうしてるの、すごく幸せ」
「痛くして、ごめんな」
「ううん。アレックスなら平気」

 大好きなアレックスならば。エイミーの奥まで、来て欲しいとさえ思う。痛みさえ、今のエイミーにとっては一つの勲章だった。
 性的に無知なエイミーが、なぜこんな感覚に辿り着いたのか、これはほとんど本能と言ってよかった。
 
 ゆっくりと動き始めたアレックスに、エイミーは声を出すのを堪えるのが精一杯だった。

「エイミー、こっち」

 アレックスが、エイミーの体をくるりとひっくり返し、その上にそっとのしかかった。エイミーがアレックスの頬に手を置くと、アレックスの顔にまた笑顔が弾ける。

「ちょっと、ごめん」
 そう言って、エイミーの腰に両手を添えた。そのままぐっとエイミーの腰を持ち上げる。

「この方がまだ、もしかしたら」

 そう言うとアレックスは、ずっ、ずっ、とエイミーの腰を打ちつけた。
 ぬちゃ、と何度も音を立てて、湿った匂いが部屋中に広がった。だんだんとアレックスの動きは激しくなり、

「んんっ、んあっ、ああ、いや、」
 エイミーは声をこらえることさえできなくなっていった。

「エイミー、愛してる!」
「アレックス、私、だけの、アレックス! 私っ、これでアレックスの、奥さん!?」
「ああ!」
 ずっとエイミーを気遣っていたことが嘘のように。返事することすら惜しいと言わんばかりに、アレックスはエイミーを揺らし続けた。
「ああっ!」
「うっ」
 ほとんど同時に、二人は倒れ込んだ。はあ、はあ、と荒い息を隠さず、二人は微笑みを交わす。






「疲れたー! でも、すっごく幸せだった!」
「もう一回、って言ったら怒るか?」
「それはもう無理!」

 だよな、とアレックスが苦笑すると、体を起こして、エイミーを抱き上げ、ベッドボードにもたれかかった。

ベッドボードの奥には、専門書らしい本がずらりと本棚に並んでいた。好奇心旺盛なアレックスらしい部屋に、エイミーも瞳を大きく見開き本の背表紙を眺める。

「本がいっぱい並んでるね」
「エイミー、お前だって本好きだろ?」
「うん、好き。そこはアデルおばさまじゃなくて、パパとママに似たみたい。アレックスは? 最近どんな本を読んでるの?」
「遺伝子学に関する本かな。面白いんだよ。読んでると、俺が両親や親戚に似ている理由がなんとなく見えてくる」
「へえ。私は一番アデルおばさまに似てるけど、それも遺伝子が理由なのかな?」
「じゃないか? でも、見えないだけで、エズノさんやクレアさんに似てるところもきっと、もっとあるはずだよ」

 エズノの黒髪とも、クレアのブロンドの髪とも違う、艶やかに赤い髪をもてあそびながら、アレックスは言った。

 二人はまだ知らないことだったが、エズノの遺伝子を引き継いでいなかったエイミーは、それでも確かに父エズノの心を、魂を引き継いでいたのだった。無論、エイミーが幼い頃に殺された、母の一部も。

「進化論も面白かったけど、あれはなんとなく気に食わなくて、一回しか読んでない」
「私もあの本は大嫌い。白人以外の人種を劣等な人種って言ってるんだもん。そんなの、パパ見てれば絶対うそってわかるのに、私だって半分は先住民族なのに、腹が立つ」
「進化論の理論自体は興味深かったけど、理論を組み立てるには正義ジャスティス良識コモンセンス、つまり人類愛ヒューマニズムが必要なんだと俺も思ったよ」

 ジャスティス、コモンセンス、ヒューマニズム。エイミーがつぶやいた。

 二人の会話は尽きなかった。体だけでなく、心でつながることのできる関係性が、男女の仲においてどれだけ貴重なものなのだろうか、とアレックスはエイミーをそっと抱きしめた。


 エイミーの名は、エイミー・ウィズウルブス・トンプソン。
 アレックス・トンプソン夫人となった今も、父エズノの「狼と共に歩む」という姓を、誇りを引き継いでいる。

 その誇りと、エイミーの心と体で培った愛は、その後に待ち受けるあらゆる人生の困難を乗り越えるための糧となるということを、若い二人はまだ、知る由もなかった。
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