英雄たちのその後は?

しゃもん

文字の大きさ
上 下
10 / 30
第二章

10.王子とメグと王妃様

しおりを挟む
 トリノの恋人である文官のおかげでメグは二人だけでセドリックと向かい合っていた。
「それにしてもなんで娼館に呼び出されなければならないんだ。」
「別に私は王宮でもよかったんですがアンジェに疑われるから嫌だとごねられたのはそちらです。」
「だがもう少しまともなところはなかったのか。」
「ここでセドリック王子を見た貴族がいてもお互い様ですから誰も何もいいませんよ。」
「もういい。それで話とは何だ。」
「もうアントワネット様に言われていませんか。」

「何のことだ。」
「愛妾のことです。」
「私は断った。」
「でもダメだったんじゃないんですか。」
「なんで知ってる。」
「当事者だからです。」
「くそっ。なんでお前なんだ。」
「同じ魔王を討伐した仲間だからじゃないんですか。」

「はあぁー母上もなんでこんな厄介なことを考えるんだ。」
 セドリックがあんな人災を起こさなければこんなめにならなかったんですよ。
 メグは心な中で思いっきり目の前にいる今回の元凶を罵った。
 しかしまったく心は晴れなかった。

「何かいったか?」
「いえ、独り言です。それよりセドリック王子にもう一人文官を増やすようにアントワネット様に提案してください。」
「文官だと?」
「ええ、女性の文官です。」
「それはいいがそれと今回の愛妾の件がどう絡んでくるんだ。」
「アントワネット様はセドリック王子がアンジェがらみで暴走しないようにしたいのが目的なんです。」
「はあぁ?そんなことは言われなかったぞ。」

 わかってなかったんかい、こいつ。
 まあいい。

「じゃあ私の言うとおりにしてみて愛妾の件がなかったことになったらいかがですか。」
「もちろんお前を愛妾にするなんてアンジェに嫌われる要因にしかならんから絶対に嫌だ。」
「じゃ文官ならどうですか。」
「うむ。文官なら・・・問題ない。」
「ではそれで話を進めてください。」
「まあ、上手くいくとは思わないが言われたことは提案してみよう。」
 セドリックはそれだけ言うと出された菓子をすべて平らげてから一緒にここまで来たトリノの恋人である文官を連れて帰っていった。
「さて、種は蒔いた。あとは実りを待つだけよ。」

 セドリックが帰って行ってから数日後。

 メグはアントワネットから養父経由でドレスの注文を受けて王宮を訪れた。
「お久しぶりです。王妃様。」
「本当に久しぶりね、メグ。私からの提案は気に入らなかったかしら。」
「大変ありがたい提案ですが私には荷が重すぎます。」
「魔王を倒した英雄なのにあなただけ冷遇してるような噂があるのは知っているかしら。」

 いきなり話題をそらされた。
 何が言いたいの?

「まったく市井では聞いたことがありません。」
「まあそうなの。ではデマだったのね。もしかして恋人でもいるのかしら。確かレリックとこの間辺境まで食料を届けに行ったそうね。」

 なんでここであの話が出てくる。

「はい。」
 メグはとりあえず素直に返事をした。
「ではレリックがそのお相手なのかしら。」

 目を見開きそうになったが何も言わなかった。
 相手の真意がわからない。

「あらこれもだんまり。でもいいわ。恋人がいる人にセドリックの相手を進めるわけにはいかないから・・・。」
 王妃は小首をかしげて少し考えてから口を開いた。
「そうね。そのレリックの傍にいられるようにあなたがセドリックの文官になることは認めるわ。これでどうかしら。」

 流れが気に入らなかったが最初の”王子の愛妾”という役割なんかよりは数百倍ましだ。
 メグは黙って頭を下げた。
「ありがとうございます。」

 そのあとメグは王妃に献上するために持ってきた養父から預かった衣装を数点おいて王妃がいる客間から下がった。

 それからすぐに王宮のメイドに案内され長い廊下を歩いていると物凄い表情をしたアンジェに出くわした。

「メグ!」
 アンジェはメグだけを傍にあった控室に引っ張り込んだ。
「どうかしたのアンジェ?」
「わ・・・わたし聞いたのよ。あなたがセドリック様の愛妾になるって・・・。で・・・でも負けないわ。セドリック様を好きな気持ちは私のほうが大きいんだから・・・ぜったいに負けない。」
 アンジェは一方的に宣言すると控室を去って行った。

「お嬢様。大丈夫ですか。」
 アンジェが控室を出て行ったのを確認した後トリノがおずおずと控室に入って来た。
「別に問題ないわ。まだ通路に案内のメイドはいるの?」
「いえ、先ほど現れたアンジェ王子妃を追って行かれました。」
「はあぁー疲れた。なんで今回の件だけ本人の耳にこんなに早く入ったのかしら。誰かに囁かれ・・・。」
 メグは呟いた瞬間に先ほど出てきた部屋の主を思い浮かべた。
 王妃様は何を考えてわざわざこの件をアンジェの耳に入れたの?
 嫉妬に狂ったアンジェが何か失敗するのを待っている。
 いや失敗してもセドリックが出てくればそれだって・・・。

 じゃあなんで?
 他になにがあるの?

 しばらく考えてみたが理由は思い浮かばなかった。

「あのーお嬢様。そろそろ行きませんか。」
「そうね。とりあえず帰りましょう。」
 二人は案内のないまま控室を出ると廊下を出口に向かって歩き出した。

 途中、どこで聞きつけたのかトリノの恋人である文官が駆けつけて彼に案内されメグたちは無事に王宮を出てその日は商家に戻って来た。

「お嬢様、どうかしましたか。」
「そのうち王宮から使いが来るでしょうから準備をしておいて頂戴。」
 メグはそれだけトリノに告げると自分の部屋に引き上げた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ピンクブロンド男爵令嬢の逆ざまあ

アソビのココロ
恋愛
ピンクブロンドの男爵令嬢スマイリーをお姫様抱っこして真実の愛を宣言、婚約者に婚約破棄を言い渡した第一王子ブライアン。ブライアンと話すらしたことのないスマイリーは、降って湧いた悪役令嬢ポジションに大慌て。そりゃ悪役令嬢といえばピンクブロンドの男爵令嬢が定番ですけれども!しかしこの婚約破棄劇には意外な裏があったのでした。 他サイトでも投稿しています。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

私の恋が消えた春

豆狸
恋愛
「愛しているのは、今も昔も君だけだ……」 ──え? 風が運んできた夫の声が耳朶を打ち、私は凍りつきました。 彼の前にいるのは私ではありません。 なろう様でも公開中です。

帰らなければ良かった

jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。 傷付いたシシリーと傷付けたブライアン… 何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。 *性被害、レイプなどの言葉が出てきます。 気になる方はお避け下さい。 ・8/1 長編に変更しました。 ・8/16 本編完結しました。

【完結】優しくて大好きな夫が私に隠していたこと

恋愛
陽も沈み始めた森の中。 獲物を追っていた寡黙な猟師ローランドは、奥地で偶然見つけた泉で“とんでもない者”と遭遇してしまう。 それは、裸で水浴びをする綺麗な女性だった。 何とかしてその女性を“お嫁さんにしたい”と思い立った彼は、ある行動に出るのだが――。 ※ ・当方気を付けておりますが、誤字脱字を発見されましたらご遠慮なくご指摘願います。 ・★が付く話には性的表現がございます。ご了承下さい。

処理中です...