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6 恐るべし魔獣豚

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 翌朝、メイが起こしに来た。
「おはようございます。お嬢様。とても良いお天気ですよ。」
 メイは私の寝室にある大きな窓ガラスにかかっているカーテンを開けてくれた。
 私はまぶしさに目はしばたたきながらも起き上がるとベットを出て浴室で洗顔を済ませてからメイが用意しているドレスに着替えると食堂に向かう。

「おはようございます。お嬢様。」
 セバスチャンがサッとメインテーブルにセッティングされたカトラリー前の椅子を引いてくれる。
「おはよう、セバスチャン。早速だけどわかっている範囲で教えてほしいわ。」

   私がセバスチャンが引いてくれた椅子に座るとメリンダが朝食をすぐに持って来てくれた。
「ありがとう、メリンダ。」
「昨日は大変でしたね、お嬢様。本当にご無事でようございました。今日はお嬢様のお好きな胡椒をきかせた烏骨鶏の目玉焼きをご用意しました。」
「さすがメリンダね。すっごく美味しそうだわ。」
 私は半熟の目玉焼きにナイフを入れながらセバスチャンの報告を聞いた。

 メリンダの目玉焼きは最高だが状況は最悪だった。
 まず一番近い村はほぼ全滅。
 何人かご先祖様の肖像画を持っていて助かった人間がいたようだが昔ほど信じていた人間がいなかったようでかなりの数の死者が出ているようだ。

 それどころか村の近くにあった砦は瓦礫の山になってしまい、生存者もいないようだ。

「セバスチャン、魔獣豚はその後どうなったの?」
「真っ直ぐ東を目指して進んでいるようですね。」
「東というと・・・まさか王都!」

「それは分かりません。」
 どうやらセバスチャンが調べられた範囲はここまでのようだ。

 だが昨日の夜半に頼んで今日の朝には、これだけの情報を掴んでくるなんて流石セバスチャンだ。

「セバスチャン、この別荘には後どれだけの食料があるの?」
「当初からこの別荘は村に何かあった時の避難場所としても想定されておりますので、村人全員を最低三か月は、食べさせられるだけの備蓄がございます。」

「私の一言でここまで理解できるなんて流石ね、セバスチャン。
 早速だけどもう一度村まで行って、村人をここに避難させてちょうだい。」
「畏まりました。」
 セバスチャンは頷くだけで、なぜかまだその場を去ろうとはしない。
 何か聞き忘れたことがあっただろうか。

 魔獣豚以外・・・。
 あっあの男ふたりか。

「うっ、えっと・・・ゴホン。セバスチャン。二人の男もとい武人たちについては何かわかったかしら?」

 セバスチャンはにやりと笑うと
「砦の隊長と副隊長で、隊長の名前がケイン・バイス・シュタット・アインハルト。副隊長の名前がブライアン・レッド・ドライデンです。」

「ちょっと、その二人って白の天使と赤い悪魔!!」
「よくご存じですね、お嬢様。」

『何てこと!赤い悪魔はいいとして、白の天使って、白の天使って・・・』

「白の天使って、母が襲った少年の兄だったんじゃ・・。なっ・・・な・・な・・なんてこと。」
 私は思わず叫んでいた。

「厳密には異母兄弟ですがその通りです。」
 セバスチャンはしれっと現実を突きつけてくれた。

 この言い方だといまだに私とメイの無茶ぶりを怒っているようだ。

 まっ、そりゃそうか。
 でも、一体あの男たちをどう扱ったらいいのかしら。

 私は思案しながらも取り敢えずセバスチャンには、すぐに近隣の村に向かってもらうことにした。

「畏まりました。すぐに村人を保護するように手配しましょう。」
 セバスチャンは今度こそ一礼すると食堂から下がって行った。

「うーん。」
 私が唸っていると、昨晩、男たちを運び込んだ寝室から物が砕ける音が響いてきた。
 私が考え込んでいるうちにだんだんと音が大きくなっていった。
 私は食後の紅茶を入れてくれているメイと顔を見合わせると、思考を中断して寝室に向かった。

 メイが何度かノックをするが中から返事はなく、先ほどより何かが砕けるような音が酷くなっていくので仕方なく、私はメイにドアを開けて中に入るように命令した。
 メイは頷くと躊躇なく扉を開いた。
 メイが開いた部屋の中では真っ裸の男二人が暴れていた。

『 『 キャー。 』 』

 メイが大きくドアを開いたせいで私もしっかり見てしまった。
 慌てて目線を外すがメイはしっかり二人の男を凝視していた。

 私たち二人が真っ赤になったところにメリンダが駆けつけてくれた。

 メリンダは暴れる二人の男に目をカッと見開くと一言。

「お黙り。騎士が淑女の前で裸になるのがドライデン家の常識ですか。」
 二人の男はピタッと動くのを止めた。

 メリンダはそれを見て、男たちに落ちていた毛布を手渡した。

「お嬢様。もうこちらを見ても問題ありませんよ。それとメイはじろじろ見過ぎです。」
 私が視線を戻すとメイはじろじろ見過ぎてメリンダにお尻をパシンと叩かれていた。
 二人を見て思い出したが、そう言えば魔法をかけっぱなしだった。
 私は指を鳴らして解除した。

 アイ様の魔法書の魔法はかける時だけ魔力が必要で、その後は解除するまでまったく魔力を必要としない優れものだ。

 男たちが急に足に体重がかかったようで床にドスンと倒れっ込んで目をパチクリしている。

「あー、まっ、そのーー。」
 男たちはまだ体力的に立ち上がれないようで、気まずそうに腰に毛布をかけ直しながら床に座り込んでいた。

 私はこの気まずい状況をどうにか打破しようとしたがどうすることも出来ずに無言を貫いた。
 さてどうしようか。
 今更、助けた彼らを殺すことも出来ないし、考えてもわからない。
 こういう時は行動あるのみよね。

「私はこの別荘の主人でレイチェル・シュバルツ・ホルン・ツバァイです。こちらが私のメイドのメイと侍女長のメリンダです。」
 私はブライアンに自分の素性を明かした。
 どうせわたしがツバァイ家の人間だとすぐにバレる。

 隠しても意味がない。

 今度はブライアンが慌てた様子で腰にまいた毛布が落ちないように、座ったままだが背筋を伸ばすと正式名であいさつを返してきた。
「俺はブライアン・レッド・ドライデンといいまして、砦の副隊長をやっています。」
 彼は正式にあいさつした後ハッとした表情を浮かべた。

「えっ、ちょっ・・・ツバァイ家! ツバァイ家って、たしか・・・。」

 私は呆然としている彼を無視すると、
「食事は食べられますか?」 
 すぐに質問を発した。

「あっ、はい。大丈夫です。」

「メリンダ。」
 私はメリンダに目線で食事を持ってくるように言いすぐに踵を返した。
「では、何かあればメリンダに言ってください。」
 部屋の扉まで急いで戻ると唖然としているブライアンたちを無視して、メイを促してその部屋を後にした。

『さて、彼らはこの後どうでるか。食事の後に彼らがどうしたのか、メリンダに様子を聞いてみなくっちゃ。』 

 相手がどうでるかをみてから慎重に次の策を考えなければならないわ。 
 今は二人の男について、これ以上考えてもどうしようもない。
 きっと出たとこ勝負が一番だと結論付けた。
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