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38.僕の不幸はそれから始まった。
しおりを挟むフレッドは全身埃まみれになりながらも、
魔法騎士科で行われた大学対抗戦の選抜試合で、最有力候補筆頭から見事に優勝をもぎ取った。
(まあ、あとで兄貴からは「高位貴族に勝つとか、お前は兄貴の立場を考えろ」とかお小言を食らうだろうけど……
僕が直接文句を言われるわけじゃないし、まあいいよな)
それにしても、見事に優勝者へのインタビューがなかった。
もう少し情報端末に映っていれば、「婿に来ないか」なんて話も来るかもしれないのに、
流されたのは、準優勝した大貴族の御子息の“悲哀”ばかり。
(ひどすぎだろ……)
ぶつぶつ文句を言いながら、フレッドはシャワーを浴び、
高位貴族の子息や取り巻きに絡まれる前に、さっさと独身寮へ戻ろうと更衣室を出た。
一応、安全のために剣を携え、周囲に人の気配がないか確認してから出たはずだった。
……なのに。
背後から、知らない女性の声がした。
「フレッド=ミートさんですね?」
肩がビクリと跳ねる。
振り返ると、そこには白髪で凹凸の少ない顔立ちの、年配の女性が立っていた。
洗練された立ち姿だが、見覚えがない。
(どこの貴族に仕えてるんだ?)
フレッドは、王宮警護の魔法騎士を目指していたため、
王宮に出入りする高位貴族の使用人――特に女性――の顔はある程度把握していた。
だが、この女性にはまったく見覚えがなかった。
用心深く相手を観察するが、女性もまた、じっとフレッドを見つめている。
数分の沈黙の後、ようやく再び口を開いた。
「あなたが、先ほど魔法騎士科で行われた対抗戦出場選抜試合で優勝した、フレッド=ミートで間違いないわね?」
「……そうですけど?」
疑問形で返すと、女性は落ち着いた様子で挨拶を続けた。
「私、ルービック家の血筋に連なる方から命を受け、お迎えに上がった者です。」
「ルービック家!?」
あの大貴族、ルービック家――
(でも、なんで僕に?)
「もうすでに登録されているはずです。」
「登録……あっ、パートナー登録!」
フレッドはリュックからカードを取り出し、大学対抗魔法戦の選手登録画面を開いた。
そこには、はっきりと書かれていた。
**フレッド=ミート パートナー:花子=ルービック**
(そうか……僕のパートナーは、あの花子=ルービックか)
(運が……向いてきたかも!)
嬉しそうに画面を見つめるフレッドに、女性が再び問いかけた。
「フレッド様は、花子様のことをご存知ですか?」
「直接の面識はないけど、噂なら聞いてますよ。」
フレッドは、相手の機嫌を損ねないようにと、素直に花子を褒めた。
「ありがとうございます、フレッド様。」
呼び捨てから“様”付けに変わったことで、どうやら好感を持ってもらえたようだった。
「では、よろしければ対抗戦のことも考えて、主人のもとへご案内したいのですが……これから少し、お時間よろしいでしょうか?」
「そうですね。対抗戦前に練習は必要ですから。もちろん、かまいませんよ。」
フレッドは素直に応じた――
**それが、彼の不幸の始まりだった。**
「では、こちらへ。」
構内を出ると、そこには高級な車と、若い男性が立っていた。
「やあ、フレッド。久しぶりだね。優勝おめでとう。」
「えっ、ツヴァイ先輩!? なんでここに?」
「今はルービック家に仕えてるんだ。」
にっこりと笑うツヴァイ。
兄の同級生でもある彼の姿に、フレッドはすっかり油断してしまった。
「ツヴァイ殿のお知り合いですか?」
年配の女性がツヴァイの運転する車の後部座席にフレッドを乗せながら尋ねた。
「はい。彼の一番上の兄と、魔法騎士科で同期だったんです。」
「まあ、そうでしたか。」
フレッドは、最初こそ警戒していたが、
長兄の知人という安心感から、周囲への注意をすっかり怠っていた。
車が郊外の港に到着したことに気づいたのは、車を降りてからだった。
「えっ……なんで港に?」
「フレッド。近しい人や、よく知っている人がいるほど、警戒することをお勧めするよ。」
ツヴァイはそう言うと、笑顔のままフレッドの鳩尾に拳を叩き込んだ。
「ぐっ……なんで……」
フレッドはそのまま意識を失った。
ツヴァイは、頼まれていた通り、フレッドを船へと運び入れた。
「ツヴァイ様、ありがとうございます。
それと、こちらをブラウン様と“白の宮殿”にいらっしゃるマリア様にお渡しください。」
年配の女性は、和紙の手紙をツヴァイに手渡した。
「ブラウン様とマリア様で、お間違いありませんか?」
「はい、間違いありません。
それと、こちらは主からの伝言です。
“五日間は海が大荒れし、大学対抗戦は延期されます。
それが終わってから、こちらにお越しください”とのことです。」
「分かりました。」
ツヴァイは頷くと、船を降りた。
その瞬間、船はすぐに港を離れていった。
「“白の宮殿”の当主宛の手紙を、私に託してくるなんて……
花子様のお祖母様って、一体何者なんだ……」
ツヴァイは遠ざかる船を見つめながら、ぽつりと呟いた。
そして、学生時代によく知っていたフレッドの境遇に、少しだけ同情した。
(まあ……あの兄貴なら、何も言わないだろうな。
“長いものには巻かれろ”が信条の人だし)
ツヴァイはそう呟くと、手紙を届けるべく、“白の宮殿”へと向かった――。
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