転生してもオタクはなおりません。

しゃもん

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01.異母兄とご対面

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「じゃ、仕事行って来るわね。」
 ボサボサの黒髪を後ろで無造作に束ねぽっちゃりとした体形を着古した服で誤魔化した母、信子のぶこはボロアパートのドアを開けると娘に声を掛けすぐに出て行った。

「行ってらっしゃい。ほどほどにかんばってね。」
 娘の花子はなこは通っている中学のジャージを脱ぎながら黒髪を無造作にアパートの一室にあるトイレに掛けられている鏡の前で束ねながら玄関を出て行く母に声をかけた。
 二人が暮らす部屋には家具らしきものは何もなく、壁際に畳まれた布団と母娘が普段来ている洋服がこれも壁際に折りたたんだ状態で積み上げられていた。

 花子はなこは節約の為、髪も切らないのでそれを後ろに一纏めに括ると学校指定のジャージを脱いで壁に掛けられていた制服に着替えた。

 今日は花子はなこが通っている学校を卒業する日だ。本当なら母も卒業式に出るはずだったが急に仕事が入り行けなくなったと昨晩頭を下げられた。別に花子はなことしては卒業式にも学校にも別段思い入れはない。むしろあのつまらない学校に行かなくてすむ喜ばしい記念日だくらいに考えていた。母は花子はなことは違って学校というものに思い入れがあるようだったが彼女は違った。唯一良かったのは図書館が常設されていた点くらいだ。もっとも蔵書は呆れるくらいくだらないものが多かったがそれでも前世も含め活字中毒者の花子はなこをそれは少しばかり慰めてくれた。

 ブーブーブー。
 花子はなこが生まれ変わったこの世界でも三世代くらい前の時計が振動した。
 ヤバイ時間だ。
 卒業式に遅れる。

 花子はなこは玄関で靴を履こうとしてカバンを持っていないことに気づいた。
 取りに戻るにはまた靴を脱がなければならない。一応ここは異世界だがこの部屋は土足厳禁だ。
 花子はなこは目を瞑って手を前に出すと壁際に置いてあるカバンを思い描いた。

 来い!

 強く花子はなこが願うと彼女の念に応えてカバンが宙に浮いて彼女の手の中に飛び込ん来た。

 パシッと勢いよく飛び込ん来たカバンを掴むと花子はなこはドアを開け部屋から飛び出した。直ぐにギシギシと鳴る階段を勢いよく下まで降りるとそのまま中学校に向かった。学校はボロアパートから徒歩一時間もかかる。バスなら15分だが花子はなこはそのまま人通りの少ない裏路地に飛び込んだ。

 路地裏で周囲に人がいないのを確認すると透明な壁を思い浮かべてそれを自分の周りに展開する。その壁が光学迷彩服のような効果を発揮してこれから花子はなこがやろうとしていることを隠匿してくれる。
 花子はなこはその壁を纏ったまま前世記憶で習った無重力状態を思い描くと体がふわりと浮かび上がった。

 ヨシ、出来た。

 花子はなこはそのままもうスピードで学校に向かった。バスと同じ時間で学校に着くとそのまま人込みに紛れながら徐々に周囲に張り巡らせていた魔法を解けば魔力を持たない周囲の人間には気づかれない。

 これで今日で通わなくなる中学校の卒業式には間に合った。花子はなこは明日から家の近くある大型スーパーで働き始める予定だ。他の生徒たちはこの周囲にある高校に通うものがほとんだが花子はなこの家にはそこまでの学費を払う余裕がなかった。ごめんなさいと謝る母に花子はなこは笑顔で大丈夫と笑った。

 どうせ高校に行けたとして前世で大学まで行った花子はなこにはこの世界での教育は簡単すぎてつまらなかった。もっとも前世でなかった魔法教育が行われる高校に行けるなら是非とも習って見たかったが・・・。花子はなこがそんな脈略もないことを考えているうちに式は終わっていた。全員が体育館の外に向かって移動していた。花子はなこも同じように外に行くと両親や友人と別れを惜しむ人たちの合間を縫って徐々に朝来た時とは逆に自分の周囲に光学迷彩を掛けるとそのまま学校の外に出た。すぐにその後無重力状態を作り上げると朝と同じように家に向かった。15分ほどで裏路地に着くと無重力状態を解除して歩きながら先程自分の周囲に張り巡らせた光学迷彩を解除する。裏路地を出て歩いているとついぞこの界隈では見かけない高級車が路地の傍に止まっていた。なんでこんなところにと思わなくなかったがそのままその高級車の横を通ってボロアパートに向かった。ギシギシという音をさせながら階段を上がってドアに手を掛けると一応朝出掛けに掛けたはずの鍵がかかっていなかった。盗まれるほど高級なものはないが念にため花子はなこは自分の周囲に防御魔法をかけてからドアを開けた。

 そこには土足で部屋に上がった金髪碧眼の男がちゃぶ台の上に腰掛け、その傍に執事らしき男がお茶を差し出しているというなんとも非現実的な絵柄が目に飛び込んで来た。
 いかん。疲れすぎて白昼夢を見てるようだ。
 もう一度ドアを閉めてから息を吐き出して再度扉を開けるがその光景は変わらなかった。

「どうした。早く入れ。」
 白昼夢にそう命令され花子はなこの頭が怒りで膨れ上がった。
「土足で人んち上がった人間に命令される覚えはないんだけど。」
 花子はなこがそう口にすると彼の隣で給仕をしていた白髪の男からとてつもない圧力が放たれた。
 ドワッと押し寄せて来た圧力を花子はなこは防御魔法の周囲に風の流れを作って外に押し流した。
 そこで始めて金髪碧眼の男に給仕をしていた壮年の執事らしき男が口を開いた。
「これは驚きました。さすがルービック家の血を引いているだけはありますね。」
「お前大人げないぞ。」
「仕方ありません。これから御主人様の異母妹になる方ですので実力を試すのは当然かと。」
「あーん、まあ仕方ないか。でも驚いたな。お前の力を受けて平然と立っている人間を見たのは始めてだぞ。」
「私も初めてでございます。昏倒くらいはさせられるはずでしたが驚きです。」
 ちょっと待て。今昏倒させるとはなんかいただけない単語が交わされてるけどそれ以上になんでこいつらここにいるの?
「あのーですね。話が盛り上がってるところなんですがあなたたちは何者なのでしょうか?部屋間違ってませんか?」

 花子はなこの素朴な疑問に隣で給仕をしていた執事でいいんだろうな。そいつにカップを戻すと優雅な仕草で立ち上がった。

「お前の名前が山田花子はなこなら間違いではない。」
 きっぱり断言されたがこんなありふれた名前、探せばそこらじゅうにあるんじゃない?
 花子はなこの心の中とは関係なく男はもっとすごい爆弾を投下した。
「ちなみに数時間前にお前の実母は交通事故で亡くなった。」

「はぁあー。」
 花子はなこは非現実な言葉に玄関先で固まった。
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