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43.決勝戦は嫉妬の香り(後編)

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 ひじりは窮地に陥っていた。
 まずい。
 いや、不味いを通り越して死ぬ。
 ひじり大海おおみから”会場には絶対に来るな!”と強く言われていたが孫可愛さでつい決勝戦を唯一見れる会場に来てしまい、現在ただいま、大画面いっぱいに映し出された第一皇子の顔を見て固まっていた。

 自分の若い頃に瓜二つだった。
 バレていると大海おおみに何度も言われていたが現実にここまで似ているとは思っていなかった。
 ひじりがいる一般席からは強化ガラスで覆われた特別室で応援しているはずの大海おおみと実娘の信子のぶこの様子は分からなかった。
 分からなかったがこの第一皇子の顔を見れば二人の心境がどんなものかは想像しなくてもわかる。
 ここはあいつらが気付かないうちに退散しなければ。

 ひじりはサッと一般席を離れると通路に出ようとして通路で大王に仕える元部下に捕まった。
「お久しぶりです。」
 四方を囲まれ強行突破をすることも出来ず、そのまま特別室に連行された。
 周囲を囲まれながら歩いているうちにだんだんと自分が歩いている足元が固い床からフカフカの絨毯に変わり、豪華な扉が目の前に現れた。

 しかしその扉は地獄への扉だ。
 ひじりは全身に冷や汗をかきながらも抵抗むなしく特別室の中に放り込まれた。

ひじり!」
 第一皇子の生母である煌びやかな衣装に身を包んだ女性が目を輝かせてひじりを見た。

「・・・。」
 もう一人その生母の反対側の席に座っていたひじりの妻は一瞬鬼の形相を見せた後、すぐに無表情になった。

ひじりこちらに・・・。」
 第一皇子の生母である女性が嬉しそうに彼を隣の席に誘った。

 ひじりは第一皇子の生母である女性より無表情になった大海おおみを見て、真っ青を通り越してこの場で倒れそうになった。

「なんでいるの?」
 そこに実娘である信子のぶこの声が彼を現実に引き戻してくれた。
 そして、その実娘の横に座っていた憎たらしい男に助け舟を出された。
 ブランは特別室の状況にすぐに気がついてサッと席を立つとひじりに自分が座っていた席を譲ってくれた。

 それを見た大海おおみが何かを言おうとしていた口を閉じる。
 そこに大歓声が上がった。

「第二ブロック優勝はルービックとミートペア!」
 実況の声に観客席が祝福の嵐に揺れた。

「さすが花子はなこちゃんね。」
 大海おおみは満足げにそう呟くと席をたった。

「なんてこと!」
 大海おおみの横にいる第一皇子の生母は持っていた扇を握り手をワナワナと震わしていた。

 大海おおみはそのまま怒りで声も出せずに震えている第一皇子の生母を残してそのまま廊下に出た。
 すぐに娘夫婦と夫のひじりも彼女の後ろからついて出て来た。
 大海おおみはブランに花子はなこを本社である八百万やおよろず神社に連れてくるように言うとそのまま夫のひじりを連れ、乗り物に乗り込んだ。

 乗り物が動き出しても大海おおみは一言もしゃべらなかった。
 ひじりは隣に座っている大海おおみをチラチラと気にしながらも結局何も言えずに座っていた。

 異様に重い沈黙が続く中、乗り物は本社である八百万やおよろず神社に続く階段の前に到着した。
 大海おおみは何も言わずに乗り物を降りた。
 ひじりもそれに続いた。
 二人はそのまま無言で階段を登り、本殿前に来た。
 ここでひじりが沈黙に堪えられずに妻である大海おおみに声をかけた。
「あの第一皇子の件は大王に言われて仕方なく・・・。」
「私がそのことを知ったのは第一皇子を産んだ生母から直接会って言われたからです。」

 絶句して固まるひじりにさらに追い打ちがかけられた。
「さらに最近は第一皇子は神力を操れる力を持っているのでこの八百万やおよろず神社の神主の資格があると皇家より何度も訴状が来ています。」
「な・・・な・・・。」
「なので大巫女の立場から神力を使えるものが神主になれるのであれば私の血筋よりそのものが優秀であると私に示せと今回はお返事させていただきました。」
 ひじりはあまりのことに目を見開いて固まった。
 あの時、当時の大王には彼の第一皇女が無事懐妊すればこの八百万やおよろず神社には手を出さないと密約したからだ。
 それなのに実際はその約束を反故にされていたとはまったく考えなかった。
 あまりの事態に憤っているひじりをその場に残して大海おおみは本殿に行ってしまった。
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