上 下
1 / 51

01.序章

しおりを挟む
 はぁー、息切れる!
 なんで図書館が二階とか別館とかじゃなくて六階なのよ。
 普通は上の階じゃなく下の階にあるものでしょ。

 下野美野里したのみのりはひとめがないのをいいことに今どき珍しくなった白いセーラー服の胸元をバサバサと仰ぎながら普通の教室に本棚を揃えた教室の引き戸を開けると部屋に入った。

  途端にほこりが舞った。
 いつも通り掃除が行き届いていない。
 「ふぅー。」
 美野里みのりはセーラー服の胸元から手を離すと傍の本棚に視線を移した。
 真剣に書棚の本を順番に眺める。
 ちょうど半分ぐらいの位置に目線がいった所でそこに一冊分だけ空いた空間を見つけた。
  持っていた本をそこに戻すとその周囲をさらに丹念に見ていく。
 「おかしいなぁ。普通次巻がすぐそばにあるはずなんだけど・・・?」

 美野里みのりは上の段から下の段に視線を移していく。

 しかしその本の次巻は見つからない。
 あきらめずに窓際まで視線を丹念に這わせ今度は窓際からユウターンして後ろ側に並んでいる本棚に視線を戻した。

 根気よくその教室いっぱいに並べられている本棚をゆっくりと見ながら捜していく。
 何度も丹念に見るが読みたい本の次巻が見つからない。
 とうとう最後の本棚を見たが見つからなかった。
 ガックリしてふと視線をグランドに向けるとそこではサッカー部が練習をしていた。
 風が強いせいかほこりが舞って茶色の模様を上空に描いていた。

 よくこんな風が強い中、ボールなんか蹴っていられるものだ。

  呆れながらもその光景をボウーと見ているとそのサッカーを練習していいる部員を応援する黄色い歓声が風の音に乗って聞こえてきた。

 「風祭先輩ステキー。」
 ボールがゴールに入ってそれを見ていた誰かが叫んだようだ。

 「キャーア!先輩がこっち見たわ。」
 それと共にそんな声が聞こえた。

 「ちょっとあなたたち練習の邪魔よ。それ以上グランドに入ったら・・・。」
 たくさんの黒髪の少女たちとジャージを着たサッカー部のマネジャーが下でそんな会話をしていた。

 もう、そんなのどうでもいいじゃない。
 美野里みのりは彼女たちの会話を聞いている自分にそう突っ込みを入れた。

 それより次巻よ。
 現実逃避している場合じゃない。

 さっきまで読んでいた本の次巻を何が何でも見つけたい。
 美野里みのりは握り拳を固めると窓から目線を外しもう一度本棚を見た。
  前巻がここにあったなら次巻もここにあるはず。
  彼女はもう一度、目線を本棚の下に移した。
  今度は下段から上段に見て行けば見つかるかもしれない。

  視線を下段から順にあげていくとふと窓にある本棚に気がついた。

 あれここって見たっけ?

 美野里みのりは屈みこむと窓下の低い位置に置いてあった本に手を伸ばした。
 ボロボロでほこりをかぶって真っ白になっている。
 なんだかそれに心を惹かれてほこりを払ってその本を開いた。

 その瞬間、風に乗ってガス臭い匂いが窓から強烈な勢いでなだれ込んで来た。

 「うっ・・・。」
  思わず本を抱えたまま視線を窓に向けると風圧が自分を押し潰す勢いで迫って来た。

  何も身動きが取れずに固まった。

 ボッワーン!!!

 ガァーー!!!

 12月12日、午後12時12分。

 その高校の周囲で起こったガス爆発によりその近辺一帯は一瞬にして何もなくなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...