おばさんですが何か?

しゃもん

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15.腕輪はなんとか無事に外れました

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 アランは確かに腕輪を外してくれた。
 レイは浴室にある姿見で腕輪が無事に外れた後を凝視した。
 日に焼けていない為腕輪の後がくっきり白く浮き出ていた。
 そしてそこには黒い色をした唐草模様がぐるりと腕を一周して巻き付いていた。
 なんでこんなものがあるかは今朝判明した。

 戦勝パーティーの翌朝。
 アランに起こされたレイは腕輪を外してみろと言われ、恐る恐る腕輪に触ると今までどんなに試しても外れなかった腕輪がカチリと良い音を立てて外れた。
「は・・・はずれた!」
 レイの腕には腕輪が嵌っていた白い跡がくっきりと見て取れた。
「は・・・外れた!けどこの唐草模様見たいなのはナニ?」
 アランは嬉しそうにレイの腕に浮かび上がった唐草模様をゴツゴツした手で撫で上げた。
「ああ、いいなぁ。一巻きか。ウーンだがこの力強さからみて男だな。」
「えっ、力強さ?男?何のこと?」
「うーん、この模様の具合からいって冬場くらいか。」
「はぁあ冬場?何が?」
「そりゃ出産だ。この模様から見て冬場だと言ってるんだ。」
「出産?誰の?」
 アランにレイは指差された。
「えっ、なんで?」
「そりゃレイが早く腕輪を外したいっていうから俺としては出血大サービスして頑張ったんだからな。」
 恩着せがましいアランの言葉にレイは固まった。
「ちょ・・・ちょっと待って、もしかして腕輪を外す条件って・・・。」
「ああ、決まっている死ぬかそれよりも強い呪いを受ければいい。」
「この呪いって?」
「当然、武国の王族の呪いだ。俺の右腕にもある。」
 アランはそういうと腕にある黒い竜の紋章を見せた。
「でもそれって竜の紋章でしょ。」
 ただ単に武勇を誇るために入れている入れ墨じゃなかったの。
 呪い?
「ああ、竜の紋章を持つものの子を宿せばその唐草模様が腕に浮かぶんだ。そして俺の子を産めばレイの腕にある模様は俺の竜が持つ黒い玉の模様に変わる。」
「それで?」
「俺と一体になれたわけだからこれからは全てのものから俺が直接守ってやる。」
「でも、でもアランだって執務とかあるでしょ。常に一緒にいられる訳じゃないよね。」
「大丈夫だ。その唐草模様には転移魔法もついているから危険になれば俺にはすぐわかる。一瞬でレイの傍に転移してやるから心配するな。」
「転移・・・。」
 それって追跡魔法の上をいかない。
 それも時間的に一瞬とか言わなかった。
 追跡されて居場所がバレることを考えて腕輪を外そうと行動したはずが前の腕輪をしていた時以上に枷が強まった感が・・・。
 あれ?
 レイはあまりの事態に呆けているうちに時間に流され、気がついたら寒い冬にアランに似た男の子を出産していた。
 アランの子を産んだ後に腕を見ると確かに黒い唐草模様がなくなり、アランの竜が腕に抱いている黒い玉と全く同じ模様の玉がレイの腕に浮かんでいた。

 なんでこんなことに!

 思わず涙が浮かぶと赤ん坊の泣き声に起き上がった。
 どうやら疲れてうたた寝していたようだ。
「まあ奥様。お疲れであれば私が授乳しますので、もう少しくらいお休みになられて大丈夫ですよ。」
 レイはあれから元魔国の王都近くにアランが作った砦に”できちゃった婚”をしたサンの奥様を息子の乳母にして一緒に住んでいた。
「ムーンさん、ありがとう。」
 レイは乳母であるムーンから息子を受け取ると出産でちょっぴり大きくなった胸で授乳し始めた。
 ムーンが気遣って掛けてくれた毛布をひざ掛けにしてソファーに座っているとアランが部屋に入って来た。
「どうだ、ゼロの飲み具合は?」
「とてもよくお飲みになりぐっすり眠られますので大変助かっておりますわ。」
 レイが口を開く前にムーンが淀みなく説明していく。
「そうか。ムーンも少し下がってあちらの控室にいるサンと交流を深めろ。俺も執務が一段落したので少し家族だけで過ごす。」
「畏まりました。」
 ムーンは自分の息子を抱き上げると控え室にいるサンの所にさがった。
「どうした?焼きもちか?」
「別に?」
 レイはなんだか先程の夢を見たせいでモヤモヤした気持ちで授乳を終えると剥き出しにしていた胸を隠すと、息子を縦抱きにしてソファーから立ち上がろうとした。それを見たアランは立ち上がろうとしたレイをそのまま捕獲すると自分の上に乗ったままソファーに座った。
「何が不満なんだ?」
「特には。」

 そうだ。
 別に不満はない。
 妊娠したての頃に開き直って前世知識を使ってチートをしようとして気がついたことを想い出したくらいだ。
 まずは食事で一攫千金しようとしたが前世はレンチンばかりでその知識は役に立たなかった。
 ではモノづくりだと思ったがほとんどの品物はすでにあり、逆に作ろうと思ったものはそれを作れるほど深い知識がなく思うように前世と同じものは出来なかった。
 では政治改革だと意気込んでみればそれらの政策はアランの頭の中にすでにあり、逆にこんなことを考えついたがどう思うと聞かれるくらい彼の方が進んでいた。
 なんとか前世知識を駆使しても求められた意見についてすこーしばかり付け加えられたくらいだ。

 ホント情けない。

 今の呪いがなくて腕輪が外れていても昔王宮の外で畑を耕していた自分と同じような生活を”自由にお一人様で”していたくらいか・・・。
 はぁあー。
 他の転生者の皆々様は色んなものを作り出して世間様に貢献し大富豪とか内政チートとかしているのに私は・・・。

「おい、聞いてるのかレイ。」
 アランが何か言っていたようだが全く聞いていなかった。
 聞いていなかったレイにアランは溜息を吐きながら再度語ってくれた。
「お前、前に卵の腐った匂いがするお湯があるかと聞いていたろ。」
「あっ温泉ね。それがナニ?」
「ここから大分北にある高い山の中腹にどうやらそれがあるらしい。」

 おんせん。
 オンセン。
 温泉があるぅー。

「ああ、ただし雪が少なくなる夏場ではないと難しいらしい。息子の授乳も終わってレイの体力が回復した頃なら執務も減っているし連れて・・・。」
 アランの嬉しい知らせにレイは彼に抱き付いた。
「本当。ほんとうに連れて行ってくれるの!」
 レイは嬉しさのあまり後ろにいるアランにキスをした。
 アランは初めてのレイからのキスに顔を真っ赤に染めた。
 それを見ていたレイはアランの反応に自分も顔を赤らめた。

「おい、後ろを向くな。ゼロを落とすぞ。」
「そ・・・そうよね。うん。」
 二人の意味不明な会話は別室からムーンが戻って来るまで続いた。

 それからしばらくたってからレイは約束通りアランに連れられ卵臭いニオイのする熱い湯が沸くところに連れて行ってもらった。
 そこは源泉であまりにも温度が高かったのでレイは少し離れた山間にアランが連れていた部下を扱き使って浴槽を作らせると同じくその木の端材で作った管で源泉からお湯を引き真新しい浴槽にそれを流し込んだ。
 いわゆる源泉かけ流しだ。
 新しく作った浴室から硫黄の匂いが漂って来る。
 アランの部下たちは全員悲しそうな顔でレイを見た。
 なんでこの人は真新しい浴槽に卵の腐った匂いのお湯を流し込むんだ。

「おんせん。オンセン。温泉!」
 彼らの考えとは反対にムーンに息子を預けたレイは喜々としてその後温泉を全力で堪能した。
 レイはお礼とばかりにその時連れて行ったアランと彼の部下たちにその温泉を振る舞ったが彼らにはかなり不評だった。
 しかし後日、レイが帰った後にその温泉を使った地元の腰痛持ちである夫人たちがたちまち元気になったことでその温泉は薬湯として後世に名を轟かせた。

 レイの名は武国に最初に薬湯温泉を広めた人物として後世で知られている。
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