上 下
5 / 40
第一章 天上界

05.女王と騎士

しおりを挟む
王宮に戻るとそこにはアン女王がいた。



 なぜかアン女王はヒューを驚いた顔で凝視した。

「ヒュー、東方の討伐はどうしたの?」



「すでに終わりました。こちらで反乱が起こったと聞きましたので急遽戻ってきたところです。」



「そう。」

 ヒューはアン女王を睨んだ。

 彼女はヒューの視線をサラリと受け流す。



 今にも何かが起きようとしていた時にヒューの父でありこの国の宰相が二人の間を遮るように現れた。



 そして二人の間でのやり取りをものの見事に粉砕するとアン女王に話かけた。

「女王街で黒龍を見たものが大勢いたおかげでパニックになっています。急ぎそれを修めるためにも、街へお出ましください。」



「わかったわ。」

 女王は宰相にそう言うと王の間を近衛兵を引きつれて去って行った。



 ヒューは父を睨んだ。



 そこに彼の従兄が現れた。

「話があるヒュー。ちょっと来てくれ。」



 ヒューは頷きながら目の前にいる父に視線を投げると憎々しげに睨んでからその場を後にした。

「なんの話だ、リチャード。」



「俺が女王に言われてメリルたちを地上に連れていった。」

 ヒューの拳がリチャードの鳩尾に入る。



「おい、少しは手加減してくれ。メリルは自分の異母兄が治める国に向かったはずだ。それと宰相に言われ地上に連れて行った時マッケンジー家に伝わる剣と当座のお金を渡した。」

 ヒューはジッと従兄の話に耳を傾けた。



 聞き終わると翼を広げ飛び立とうとして、リチャードに押さえ付けられた。

「なんで止める、リチャード。」



「よく聞け、ヒュー。メリルたちは黒龍の血を浴びたんだ。」

 ヒューは目を見開いて従兄が言いたかったことに思い当たった。



「長寿か!」

 竜の死ぬ間際の血を浴びると浴びたものの寿命はそれこそ倍以上に伸びる。

 もともと翼を持つものの寿命は長い。



 でも今までメリルは半分人間の血が流れていた為、寿命がヒューよりだいぶ短かかったのだ。

 だがこれでメリルの寿命は・・・。


 そこにいきなり隣に控えていたクリスが叫び声を上げた。

「うそだろ。じゃあ俺がよぼよぼになった最後の瞬間でも若いジェシカのムニムニの巨乳に・・・グフフ。」

 二人は隣でニヤケ下がっているヒューの副官が今、何を想像しているかを察してげんなりした。


「クリス、竜の血を浴びても純血の翼を持つものの寿命は変わらんぞ。」

 両翼の種族で竜の血を浴びた時の特徴と言えば、肉体がかなり強固になることくらいだろうか。

 賢明にも二人はその事をクリスには告げなかった。


「あいつが今の言葉を言ったら、ジェシカに潰されるな。」


 ヒューはニヤケ下がっているクリスを見た。

「ああ、やられるな。」


 ヒューとリチャードは将来起こるクリスの不幸を思って面白半分で黙っていることにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

【完結】王太子妃の初恋

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。 王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。 しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。 そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。 ★ざまぁはありません。 全話予約投稿済。 携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。 報告ありがとうございます。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

処理中です...