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第一章
第7話 因縁というかもはや言いがかり
しおりを挟むバァァァンッッ!!!!!
「……ッふざけてんじゃねぇぞゴルァァァッ!!!」
力任せに叩かれた机は小さく跳ね上がり、ガタガタとけたたましい音を鳴らす。
ついに早乙女がキレた。
激しい怒りによってか、早乙女は小刻みに体を震わす。
この男にはまだかろうじて理性が残っていた。
ただでさえ暴力に訴えれば不利な立場になるのは先に手を出した人間なのだ。
いろんな意味で攻撃的ではあるが、決して自分たちからは先に手を出さない天文部を相手に冷静さを欠いてしまえば命取りになる。
暴力はダメだ。柔道有段者であろうと武力行使はダメだ。ここは学園内。先に手を出した方が負けだ。
そういう思いで、わずかながらに残っていた理性を必死に手繰り寄せて、早乙女は耐えていた。
学年的に言えば早乙女は一学年上。天文部の面々にとっては先輩にあたる。
にも関わらず都も橘も、ついでに言えば桐野も、敬語を使ってはいるがその言葉遣いに反して敬う心はまるでない。
むしろゴリラだなんだと完全に舐めている。
そんな慇懃無礼な二年生たちを前に、やはり今日も早乙女は忍耐力と自制心を試されているのだった。
「……ダメだぞ俺、落ち着け、落ち着け……ックソが!! ……いや、ダメだ……気張れ俺の自制心ッ!!」
「ひとりで騒がしい人ですね」
「誰のせいだと思ってやがんだテメェ!!」
年下相手に吠えながらも深呼吸を繰り返し、なんとか落ち着きを取り戻そうとしている早乙女を都はなんとも冷めた目で見ていた。
(そもそもの前提として。あんたが絡んでこなければそのなけなしの自制心をかき集める必要もないというのに……ほんとゴリラ。ほんと単細胞。脳筋こわ……)
自らを落ち着かせることに必死だった早乙女は幸か不幸か、そんな都の視線には気づいていなかった。
もし気づいていたのなら、間違いなくこめかみの血管が二本と言わず三本も四本も切れていたことだろう。
「……テメェらな、よーく胸に手を当てて聞いてみろや。去年の十二月、冬休み前。テメェら言ったよなァ? 『冒険部? なにそれ人生の冒険とかしてるんですか? 人生ゲームじゃダメなんですか? 活動実体が謎な部活ですね、意味わかんないです』ってよォ。忘れたとは言わせね、」
「忘れました」
「覚えてないです」
「オイイイィィィィッ!!!」
芸人さながらの素早いツッコミを披露されたところで当事者としてはやかましいの一言に尽きる。
もっとTPOをわきまえた声量で会話を成立させてほしいものだが、この男相手にそれを求めたところで無駄な時間を浪費するだけだということはこれまでの経験から学習済みである。
「あの時の、俺らを馬鹿にした血も涙もない言葉は忘れねえからな! 一生根に持ってやるよ! 何よりテメェらみてえな意味わかんねえ部活に活動実体が謎とか言われたくねえんだよっ!!」
「はあ? 心外ですね。私たちはその名の通り天体を観測する天文部ですよ。あなた方の冒険部よりはずっと明瞭でしょう」
「そういうとこが馬鹿にしてるっつってんだよ。見下してんのか?」
「そんなつもりはまったくありませんでしたが……なるほど、先輩がそう感じるということはご自身でも謎の部活だと自覚しているということでしょうか」
「…ッ、テメ……!」
「先輩がどう思おうと勝手ですけど、ただひとつの事実としては、天文部はあなた方冒険部のことを馬鹿にしてませんし見下してもいないということです。つまりは目の敵にする理由もないということになりますね」
「……………」
「ご理解いただけましたら今日はどうぞお引き取りください。そろそろ部活の活動時間も終わりますし、冒険部の皆さんも部長が帰ってくるのを待っているんじゃないですか?」
外を見ればすでに日も暮れかけていた。
一部の運動部や大会の近い部活はもう少し時間を延長させることもあるが、文武両道を掲げるこの学園では基本的に部活動の終了時刻は定められている。
かくいう天文部も夜の天体観測などがなければ定時で部活を切り上げているし、桐野情報によると冒険部も大体は活動時間内に終えるらしい。
時間も味方につけて退出を勧めれば、早乙女はその顔にありありと不服を滲ませながらも仕方なしといった様子で立ち上がった。
「……今日はこれくらいで勘弁してやるが、次はねえから覚えてろよ」
「騒がしくして悪かったな」
話のわかる飼育員がゴリラを連れ帰ってくれたことでやっと部室内にも平穏が戻った。
そろそろこの部室にも調教用のバナナを置いておいたほうがいいのかと真剣に検討しつつ、天文部の部員たちにも下校を促す。
「さて、ゴリラも無事に檻に帰ったことだし今日はここまでのようね。念の為に周囲には気をつけて帰るように」
「ええお疲れ様。佑宇、ゴリラの残党に遭遇したら危ないわ。一緒に帰りましょう」
「うん! じゃあね、都ちゃんたちも気をつけて」
「では僕は工業科の方に用事があるのでそちらに寄ってから帰ります。お先に失礼します」
数分前までの騒がしさはどこへやら。
あっという間に部室からは人がいなくなり、残されたのは都と橘だけになった。
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