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1巻
1-3
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面談が終わり、撫子さんが帰った後、私はすっかり手持ち無沙汰になってしまった。仕事を教わる前に九重さんが出ていってしまったので、何をしたらいいのかわからない。
そういえば、登録スタッフや得意先の確認をしてほしいって言われていたっけ。
私はパソコンに向き直ると、九重さんに教えてもらったフォルダをクリックした。まずは「スタッフ一覧」のフォルダを開ける。すると、
「『スタッフ登録票(人間)』『スタッフ登録票(狐)』……?」
さらに二つのフォルダが出てきて、首を傾げた。
スタッフ登録票って、さっき撫子さんに書いてもらったものだよね。狐って何?
私は『スタッフ登録票(狐)』のフォルダをクリックした。五十音順に名前が並んでいる。「葵」という名の文書を開いてみる。文書は撫子さんに書いてもらった登録票と同じフォームになっていたけれど、内容を見るなり、私は首を傾げてしまった。
「んんっ? 何これ」
氏名:葵
年齢:三百五十歳ぐらい
生年月日:不明
またすごい年齢が出てきたなぁ。
他の文書も確認することにした。適当に選び、開いてみると――
氏名:白藤
年齢:四百歳ぐらい
生年月日:不明
なんで皆、わけわからない年齢なの? 他には何も書かれていないし……。
一体、ここの登録スタッフはどうなっているのだろう。その後もいくつかの文書を確認してみたものの、どれも似たような内容だった。
もしかして、もう一つのフォルダもこんな感じなのかな?
私は今度は『スタッフ登録票(人間)』のフォルダをクリックし、中の文書を開いてみた。
氏名:青山薫
年齢:二十六歳
生年月日:一九××年×月××日
「あ、こっちは普通だ……」
青山薫さんの登録票には「メーカーの経理事務を三年」「簿記検定二級」と、ありふれた職歴と資格が書かれていた。年齢も生年月日も普通だ。変なスタッフばかりいるのかと思った。
少しほっとして、文書を閉じる。
その後「得意先一覧」「求人票一覧」を眺めているうちに正午になった。
お腹が「ぐ~」っと鳴ったものの、まだ九重さんは戻らない。
お昼ご飯、どうしよう。コンビニかどこかに買いに行くつもりだったから、何も持ってきていないんだよね。事務所を空けるわけにはいかないし……。
そわそわしていると、町家の戸が開いて、九重さんが帰ってきた。
「かんにん。七海さん。遅くなってしもて」
手にバラ柄の紙袋を持っている。四条河原町にあるデパートの紙袋だ。
「お昼どうしはったん? 何か食べはった?」
私の席に近付いてきた九重さんに、「まだです」と、答える。
「やっぱりそうやったんや。ほんまかんにん。デパートでお弁当買うてきたし、よかったら食べて」
目の前に差し出された紙袋を受け取り、中を覗き込んで、思わず「わぁ!」と声を上げた。おばんざいのお弁当が二つ入っている。貼られている値札のお値段は、結構お高い。
「おいしそう! いただいていいんですか?」
「ええよ。僕も食べるし」
「ありがとうございます!」
私はいそいそとお弁当を取り出し、デスクの上に置いた。「お茶を淹れますね」と言って、給湯室へ向かう。
高級弁当付きの仕事なんて、最高! 待遇が良すぎて涙が出そう。
鼻歌を歌いながら丁寧にお茶を淹れ、お盆を持って事務スペースへ戻る。
「お茶が入りました。どうぞ」
九重さんのデスクに湯呑みを置こうとしたら、九重さんも手を伸ばし、指と指が触れあった。思いがけない接触にびっくりして手を引っ込めたけれど、九重さんがしっかりと湯呑みを掴んでくれたので、こぼさずにすんだ。
「おおきに」
九重さんが私の顔を見上げ、にこりと微笑む。そのまなざしが色っぽくて、私の心臓が、ドキンと音を立てた。
「どうかしはったん? 七海さん。顔赤いで」
「あ、いいえ……なんでもないです」
思わずときめいてしまった。美形の所長の笑顔は攻撃力が高い。
この間失恋したばかりなのに、一緒に働き始めて一日目の上司にドキドキするなんて、私、尻軽すぎない?
「そう? ほんならええんやけど。しんどいんやったら言うてな」
内心で頭を抱えていたら、私の体調が悪いと勘違いしたのか、九重さんが心配そうな顔をした。
ううっ、所長、超優しい!
感動のあまり、本当に泣きそうになった。この会社はいいところだ。試用期間なんてすっ飛ばして、今すぐ正社員になりたい。
「ご飯、食べよ?」
「あっ、はい、そうですね」
お盆を持って立ち尽くしていた私は、九重さんに声をかけられ、慌てて自分のデスクの椅子に腰かけた。
「いただきます」と言って、お弁当のプラ容器の蓋を開ける。中には、里芋や人参、ひろうすの煮物や、菜の花の胡麻和え、豆腐のミニハンバーグ、ゆかり・ごま塩・ひじきのおむすびが入っていた。
まずは豆腐のハンバーグを口に入れる。
「おいしい! 幸せ~!」
ほっぺたが落ちそうなおいしさに思わず左手で頬を押さえると、そんな私を見て、九重さんが微笑んだ。
「こないだタルトを食べてはった時も思ったけど、ほんまに、七海さんはおいしそうにものを食べはるね。見てると、こっちも幸せな気持ちになるわ」
「そうですか?」
「うん」
「食いしん坊」と言われているような気もしたけれど、九重さんの口調から嫌みは感じられない。褒め言葉だと受け取っておこう。
湯呑みに手を伸ばしたら、ぷかぷかと茶柱が浮かんでいた。私はいい気分になり、茶柱を倒さないように、そうっと湯呑みの縁に口をつけた。
「あ、そういえば、所長」
私は湯呑みをデスクに置くと、九重さんに話しかけた。
「所長がいらっしゃらない間『スタッフ登録票』を確認してたんですけど、あれ、なんで人間と狐に分かれているんですか? 狐ってなんですか? そっちのファイルに登録されているスタッフの経歴、ちょっとおかしいし……」
戸惑っている私を見て、九重さんが苦笑する。
「驚かせてしもた? かんにん。その説明をするよりも先に、撫子さんが来はったからね。順番に説明したほうがびっくりしはらへんかなって思ってたんやけど、先に見はったんやったら言うとこかな。――実は、人材派遣会社『セカンドライフ』の登録スタッフの大半は狐やねん」
九重さんはごく自然に、軽い口調でそう言った。
「は?」
私は、間抜けな声を出した。
「それは、あの、どういう意味でしょうか……?」
「言葉通りの意味やで。午前中に訪れた撫子さんも狐やね。彼女は稲荷山の霊狐や」
稲荷山の霊狐?
伏見稲荷大社の神使は狐だと言われているので、稲荷山と狐は縁があるけれど、霊狐とはどういうことなのだろうか。
わけがわからず混乱している私を見て、九重さんが悩ましそうな顔をする。
「びっくりしはるよね。新しく入社してくれた従業員さんにこの話をすると、皆さん、馬鹿にされているとでも思わはるんか、翌日には仕事に来なくなってしまわはるねん」
九重さんと初めて会ったのはつい昨日のことで、今日を含めても、まだトータル数時間しか接していないわけだけれど、彼が人を馬鹿にする人だとは、私には思えない。でも冗談を言って、私をからかっているようにも見えなかった。
「あのう……霊狐って、どういう意味なんですか? 何かのたとえですか?」
私はできるだけ冷静に尋ねた。
「たとえとちゃうで。撫子さんは正真正銘の霊狐やし、うちに登録してるスタッフの大半が狐やていうのもほんま」
九重さんは、驚いている私が面白いのか、「ふふふ」と笑う。
「狐たちの中には好奇心旺盛な子がいて、人間の住む世界で生活してみたいと思う者がいてるねん。けど、人間界で暮らそうと思うと、住居がいるし、お金もいる。人間のふりもしなあかん。そんな悩める狐たちを助けてあげよ、と思って、僕は人材派遣会社『セカンドライフ』を設立してん」
狐を助ける……。
私は眉間に皺を寄せ、人差し指でこめかみをぐりぐりと押した。――駄目だ、意味がわからない。
九重さんは、そんな私を見て、困ったようにつぶやいた。
「うちで働くの、嫌にならはった? 七海さんが辞めてしもたら、また求人かけなあかんなぁ……」
「えっ? あっ、いえ、そんなことは、全然! 働かせてください、これからも!」
よくわからないけれど、九重さんがいい人で、この会社の勤務条件が好待遇なことには変わりない。働くなら、こういう職場がいい。しかも、寮に入ることができれば、実家を出られる。
私は両手を大きく振り、退職の意志がないことを示した。
「ほんま? ああ、よかった」
ほっとした様子でふわりと微笑んだ九重さんの顔を見たら、また胸がドキンと鳴った。なんだろう、この人は。美人というだけではなく、妙に人を惹き付ける魅力がある。
所長はイケメンだし、給料もいいし、お弁当も買ってくれるし……ここはいい職場!
心の中で自分に言い聞かせ、最後に「……の、ハズ」と頼りなく付け足す。
九重さんは、私が仕事を続ける意志を表明したので、安心したようだ。
「ああ、そうや。せっかくやし、撫子さんの担当、七海さんにお願いしよかな」
「担当?」
「一度経験してみはったら、今後の仕事のやり方もわかると思うし。よろしゅうお願いします」
こうして、私の初仕事が決まった。
*
昨日の出来事は、結局、よくわからなかったなぁ……。
撫子さんが訪れた翌日。私は腑に落ちない気持ちのまま、出勤した。今日は昨日よりも早めに行こうと思って気合いを入れて家を出たら、始業時間の四十分も前に事務所に着いてしまった。事務所の鍵が開いているか心配しながら戸に手をかける。
「あ、開いた。よかった」
戸はすんなりと開いた。九重さんはもう出勤しているのだろうかと思い、事務所内を見渡した。
「誰……?」
私は目を瞬かせた。応接コーナーのソファーに、見知らぬ青年が横になっている。眠っているのか、呼吸に合わせて体が上下に揺れている。
登録スタッフの誰かだろうか。
「所長は……いない」
どうやらまだ出勤していないようだ。
私はスプリングコートを脱いでポールハンガーに掛け、バッグをデスクに置いた後、応接コーナーの青年のそばへ歩み寄った。
グースカと寝ている青年の顔を覗き込む。夢でも見ているのか、長い睫毛が時折ぴくっと動く。年は二十歳過ぎといったところだろうか。
「あのう……もしもし」
私は眠っている青年に声をかけた。青年が起きる気配がなかったので、トントンと肩を叩く。
「なんでこんなところで寝ているんですか?」
トントン、トントン。
数回叩くと、「うーん」と唸った後、青年が目を覚ました。ぼんやりとした様子で私を見上げた青年は、ぱちぱちと瞬きをした。
「君、誰?」
「私は昨日からここで働き始めた七海結月です。あなたは、登録スタッフさん?」
小首を傾げて問いかけると、青年は体を起こし、両手を上げて、大きなあくびをした。
「うん、そう。俺はここの登録スタッフ」
「事務所の鍵を持っているんですか?」
一スタッフがどうして所長よりも早く事務所に入れたのだろうと不思議に思って尋ねたら、青年は悪戯っぽい表情で笑った。
「それはまあ……ちょちょいと開けたんだよ」
ちょちょい?
そう言われて、スパイ映画のようにヘアピンで鍵を開ける様が思い浮かぶ。この事務所の鍵は旧式だし、もしかすると可能かもしれない。
勝手に開けて入れちゃうなんて、鍵を替えたほうがいいんじゃないかな……。
そんなことを考えていたら、
「葵」
青年が自分の顔を指差し、人好きのする笑みを浮かべた。
「俺、葵っていうんだ」
んんっ? 葵っていう名前、聞いたことがあるような……。
そういえば、昨日、クレームの電話で怒鳴られた時のスタッフ名が「葵」だった。それに、確か『スタッフ登録票(狐)』にも名前が載っていた。
名簿の内容を思い出し、私は、葵君の顔をまじまじと見つめた。「スタッフの大半が狐」という九重さんの言葉を信じるなら、彼も狐ということになる。栗色の髪に、色素の薄い茶色の瞳。アイドル歌手のような美青年は、どこからどう見ても人間だ。
じっと見つめていると、葵君が、にこっと笑った。
「結月、よろしく!」
突然、抱きつかれ、私は「うひゃっ!」と変な声を上げた。
葵君は、私の首筋に鼻を寄せ、すんすんと匂いを嗅いでいる。
「さっきから思ってたんだけど、結月っていい匂いがするね」
「な、な、な――」
私が「何するのよっ」と叫ぶよりも早く、事務所の戸が開く音がして、
「葵……」
呆れたような九重さんの声が聞こえた。
「何をやってるん? 七海さんに」
急いで振り返ると、九重さんが事務所の入り口で、額を押さえて溜め息をついている。
「助けてください、所長っ!」
私が悲鳴を上げて泣きつくと、九重さんは大股で応接コーナーへやって来て、葵君の服の襟を掴み、私から引きはがした。
「蓮、何するんだよ。乱暴だなぁ」
「君のそういうところが、問題を引き起こすねん。ええ加減にしよし」
唇を尖らせた葵君の額を、九重さんが、ぺちんと叩く。
「痛っ」
葵君はオーバーに声を上げ、額をさすっている。
「かんにん、七海さん。びっくりしたやろ? この子、葵っていうて、うちの登録スタッフなんやけど、問題児でな。仕事先で女性問題起こしては、クビになるねん。昨日も派遣先の飲食店で、社員の女性とバイトの女の子に二股かけていたことがばれて、刃傷沙汰一歩手前になってな……」
九重さんの説明を聞いて、私は唖然として葵君の顔を見た。
「だって、人間の女の子って可愛いじゃん」
葵君は悪びれた様子もなく笑っている。
あの電話って、そんな内容だったんだ!
三角関係で刃傷沙汰なんて、ドラマみたいだ。
「それに、蓮が今回もなんとかしてくれたんだろ?」
何やら思わせぶりににやにやしている葵君の額を、九重さんがもう一度叩いた。
「今回は丸く収めたけど、あの力は気軽に使うもんやない。そうそう何度も尻拭いできひん。反省しよし」
二人の会話の意味がわからない。あの力ってなんだろう? 九重さんが、先方に土下座でもしたのかな?
「で、今日は何しに来たん? 君に紹介する仕事は、もうあらへんよ」
九重さんが腰に手を当て、葵君を睨む。葵君は唇を尖らせた。
「ええ~っ。そんなこと言わないで何か仕事を紹介してよ。今月も女の子と遊びに行く予定が詰まってるんだから、デート資金が必要なんだってば」
「……はぁ」
九重さんは、やれやれというように溜め息をつくと「この子は本当に懲りひんなぁ」とつぶやいた。
「さすがにもう、一般の会社は紹介できひん。葵、これからは僕の手伝いをしよし」
「蓮の手伝い? お給料が出るなら、それでもいいよ」
「ちゃっかりしてるわ。僕の手伝いは給料安いし、覚悟しとき」
「ええ~……」
葵君は不満そうだけれど、九重さんは何か思いついたのか、「そうや」と手を打った。
「ちょうどええわ。初仕事や。葵、七海さんを稲荷山に連れていってあげてくれへん?」
「稲荷山? なんで?」
葵君が小首を傾げる。口調は若干嫌そうだ。
葵君を無視し、九重さんが私に声をかける。
「七海さん。昨日、撫子さんに紹介する仕事ピックアップしてはったやろ? 撫子さんのところに行って、提案してきてくれへん? 彼女、スマホがないし、直接訪ねるしか連絡取る手段がないねん。葵と一緒に行ったら、会えるし」
確かに、撫子さんの連絡先はあやふやだ。昨日、私は撫子さんのために、取引先の中から、英会話スクールの求人を探し出した。撫子さんに連絡を取りたいと思っていたのだけれど、スタッフ登録票に電話番号が書かれていなかったので、どうすればいいのか困っていた。
葵君と一緒に行ったら会えるって、どういう意味なのかな?
不思議に思ったものの、とりあえず「はい」と答える。
「稲荷山かぁ~。気が重いよ~」
葵君はぶつぶつ言っていたけれど、九重さんが、「古巣やろ? そんなこと言うてええの」と目を細めたので、しぶしぶ頷いた。
「まあいいか。結月とデートできると思えば」
すぐに気を取り直して、にこっと笑う。
「デートって……」
困惑していると、九重さんが葵君の頭を軽くこづいた。
「七海さん、葵の言うことは気にしいひんといて。この子、誰にでもこういうこと言うねん」
「誰にでも……」
どうやら、葵君が女たらしだというのは本当らしい。
私は自分のデスクの引き出しから、撫子さんのために用意しておいた求人票を取り出し、クリアファイルに挟んでバッグに入れた。
「じゃーね、蓮」
「行ってきます」
九重さんに会釈をし、葵君と連れ立って事務所を出る。木屋町通を三条通方面に向かって歩き出した。
稲荷山に行くことになるのなら、朝、直接寄ったほうが近かったんだけどな。
出社したばかりなのに、家に帰るような気持ちでいると、隣を歩く葵君が、興味津々といった様子で問いかけてきた。
「ねえねえ、結月。結月はなんで、『セカンドライフ』に入ったの?」
ぶらぶらしていたら偶然『セカンドライフ』を見つけ、九重さんに誘われるままに事務所に入り、いつの間にか勤める話になっていた――と説明すると、葵君は難しい顔をして腕を組んだ。
「ふ~ん、なるほど……」
「不思議な経緯でしょう?」
「――結月、蓮には気を付けてね」
葵君に注意されて、きょとんとする。
「気を付ける? なんで?」
「理由は言えないけど……とりあえず、気を付けて」
どういうこと?
怪訝な気持ちで葵君を見つめる。彼はすぐに笑顔に戻り、私の顔を覗き込んだ。
「蓮、美形だから、誘惑されたりしないでよ。もし好きになるなら、俺にしときなよ。ね、結月」
冗談なのか本気なのか。私は半眼になると、葵君の肩をバシンと叩いた。
そういえば、登録スタッフや得意先の確認をしてほしいって言われていたっけ。
私はパソコンに向き直ると、九重さんに教えてもらったフォルダをクリックした。まずは「スタッフ一覧」のフォルダを開ける。すると、
「『スタッフ登録票(人間)』『スタッフ登録票(狐)』……?」
さらに二つのフォルダが出てきて、首を傾げた。
スタッフ登録票って、さっき撫子さんに書いてもらったものだよね。狐って何?
私は『スタッフ登録票(狐)』のフォルダをクリックした。五十音順に名前が並んでいる。「葵」という名の文書を開いてみる。文書は撫子さんに書いてもらった登録票と同じフォームになっていたけれど、内容を見るなり、私は首を傾げてしまった。
「んんっ? 何これ」
氏名:葵
年齢:三百五十歳ぐらい
生年月日:不明
またすごい年齢が出てきたなぁ。
他の文書も確認することにした。適当に選び、開いてみると――
氏名:白藤
年齢:四百歳ぐらい
生年月日:不明
なんで皆、わけわからない年齢なの? 他には何も書かれていないし……。
一体、ここの登録スタッフはどうなっているのだろう。その後もいくつかの文書を確認してみたものの、どれも似たような内容だった。
もしかして、もう一つのフォルダもこんな感じなのかな?
私は今度は『スタッフ登録票(人間)』のフォルダをクリックし、中の文書を開いてみた。
氏名:青山薫
年齢:二十六歳
生年月日:一九××年×月××日
「あ、こっちは普通だ……」
青山薫さんの登録票には「メーカーの経理事務を三年」「簿記検定二級」と、ありふれた職歴と資格が書かれていた。年齢も生年月日も普通だ。変なスタッフばかりいるのかと思った。
少しほっとして、文書を閉じる。
その後「得意先一覧」「求人票一覧」を眺めているうちに正午になった。
お腹が「ぐ~」っと鳴ったものの、まだ九重さんは戻らない。
お昼ご飯、どうしよう。コンビニかどこかに買いに行くつもりだったから、何も持ってきていないんだよね。事務所を空けるわけにはいかないし……。
そわそわしていると、町家の戸が開いて、九重さんが帰ってきた。
「かんにん。七海さん。遅くなってしもて」
手にバラ柄の紙袋を持っている。四条河原町にあるデパートの紙袋だ。
「お昼どうしはったん? 何か食べはった?」
私の席に近付いてきた九重さんに、「まだです」と、答える。
「やっぱりそうやったんや。ほんまかんにん。デパートでお弁当買うてきたし、よかったら食べて」
目の前に差し出された紙袋を受け取り、中を覗き込んで、思わず「わぁ!」と声を上げた。おばんざいのお弁当が二つ入っている。貼られている値札のお値段は、結構お高い。
「おいしそう! いただいていいんですか?」
「ええよ。僕も食べるし」
「ありがとうございます!」
私はいそいそとお弁当を取り出し、デスクの上に置いた。「お茶を淹れますね」と言って、給湯室へ向かう。
高級弁当付きの仕事なんて、最高! 待遇が良すぎて涙が出そう。
鼻歌を歌いながら丁寧にお茶を淹れ、お盆を持って事務スペースへ戻る。
「お茶が入りました。どうぞ」
九重さんのデスクに湯呑みを置こうとしたら、九重さんも手を伸ばし、指と指が触れあった。思いがけない接触にびっくりして手を引っ込めたけれど、九重さんがしっかりと湯呑みを掴んでくれたので、こぼさずにすんだ。
「おおきに」
九重さんが私の顔を見上げ、にこりと微笑む。そのまなざしが色っぽくて、私の心臓が、ドキンと音を立てた。
「どうかしはったん? 七海さん。顔赤いで」
「あ、いいえ……なんでもないです」
思わずときめいてしまった。美形の所長の笑顔は攻撃力が高い。
この間失恋したばかりなのに、一緒に働き始めて一日目の上司にドキドキするなんて、私、尻軽すぎない?
「そう? ほんならええんやけど。しんどいんやったら言うてな」
内心で頭を抱えていたら、私の体調が悪いと勘違いしたのか、九重さんが心配そうな顔をした。
ううっ、所長、超優しい!
感動のあまり、本当に泣きそうになった。この会社はいいところだ。試用期間なんてすっ飛ばして、今すぐ正社員になりたい。
「ご飯、食べよ?」
「あっ、はい、そうですね」
お盆を持って立ち尽くしていた私は、九重さんに声をかけられ、慌てて自分のデスクの椅子に腰かけた。
「いただきます」と言って、お弁当のプラ容器の蓋を開ける。中には、里芋や人参、ひろうすの煮物や、菜の花の胡麻和え、豆腐のミニハンバーグ、ゆかり・ごま塩・ひじきのおむすびが入っていた。
まずは豆腐のハンバーグを口に入れる。
「おいしい! 幸せ~!」
ほっぺたが落ちそうなおいしさに思わず左手で頬を押さえると、そんな私を見て、九重さんが微笑んだ。
「こないだタルトを食べてはった時も思ったけど、ほんまに、七海さんはおいしそうにものを食べはるね。見てると、こっちも幸せな気持ちになるわ」
「そうですか?」
「うん」
「食いしん坊」と言われているような気もしたけれど、九重さんの口調から嫌みは感じられない。褒め言葉だと受け取っておこう。
湯呑みに手を伸ばしたら、ぷかぷかと茶柱が浮かんでいた。私はいい気分になり、茶柱を倒さないように、そうっと湯呑みの縁に口をつけた。
「あ、そういえば、所長」
私は湯呑みをデスクに置くと、九重さんに話しかけた。
「所長がいらっしゃらない間『スタッフ登録票』を確認してたんですけど、あれ、なんで人間と狐に分かれているんですか? 狐ってなんですか? そっちのファイルに登録されているスタッフの経歴、ちょっとおかしいし……」
戸惑っている私を見て、九重さんが苦笑する。
「驚かせてしもた? かんにん。その説明をするよりも先に、撫子さんが来はったからね。順番に説明したほうがびっくりしはらへんかなって思ってたんやけど、先に見はったんやったら言うとこかな。――実は、人材派遣会社『セカンドライフ』の登録スタッフの大半は狐やねん」
九重さんはごく自然に、軽い口調でそう言った。
「は?」
私は、間抜けな声を出した。
「それは、あの、どういう意味でしょうか……?」
「言葉通りの意味やで。午前中に訪れた撫子さんも狐やね。彼女は稲荷山の霊狐や」
稲荷山の霊狐?
伏見稲荷大社の神使は狐だと言われているので、稲荷山と狐は縁があるけれど、霊狐とはどういうことなのだろうか。
わけがわからず混乱している私を見て、九重さんが悩ましそうな顔をする。
「びっくりしはるよね。新しく入社してくれた従業員さんにこの話をすると、皆さん、馬鹿にされているとでも思わはるんか、翌日には仕事に来なくなってしまわはるねん」
九重さんと初めて会ったのはつい昨日のことで、今日を含めても、まだトータル数時間しか接していないわけだけれど、彼が人を馬鹿にする人だとは、私には思えない。でも冗談を言って、私をからかっているようにも見えなかった。
「あのう……霊狐って、どういう意味なんですか? 何かのたとえですか?」
私はできるだけ冷静に尋ねた。
「たとえとちゃうで。撫子さんは正真正銘の霊狐やし、うちに登録してるスタッフの大半が狐やていうのもほんま」
九重さんは、驚いている私が面白いのか、「ふふふ」と笑う。
「狐たちの中には好奇心旺盛な子がいて、人間の住む世界で生活してみたいと思う者がいてるねん。けど、人間界で暮らそうと思うと、住居がいるし、お金もいる。人間のふりもしなあかん。そんな悩める狐たちを助けてあげよ、と思って、僕は人材派遣会社『セカンドライフ』を設立してん」
狐を助ける……。
私は眉間に皺を寄せ、人差し指でこめかみをぐりぐりと押した。――駄目だ、意味がわからない。
九重さんは、そんな私を見て、困ったようにつぶやいた。
「うちで働くの、嫌にならはった? 七海さんが辞めてしもたら、また求人かけなあかんなぁ……」
「えっ? あっ、いえ、そんなことは、全然! 働かせてください、これからも!」
よくわからないけれど、九重さんがいい人で、この会社の勤務条件が好待遇なことには変わりない。働くなら、こういう職場がいい。しかも、寮に入ることができれば、実家を出られる。
私は両手を大きく振り、退職の意志がないことを示した。
「ほんま? ああ、よかった」
ほっとした様子でふわりと微笑んだ九重さんの顔を見たら、また胸がドキンと鳴った。なんだろう、この人は。美人というだけではなく、妙に人を惹き付ける魅力がある。
所長はイケメンだし、給料もいいし、お弁当も買ってくれるし……ここはいい職場!
心の中で自分に言い聞かせ、最後に「……の、ハズ」と頼りなく付け足す。
九重さんは、私が仕事を続ける意志を表明したので、安心したようだ。
「ああ、そうや。せっかくやし、撫子さんの担当、七海さんにお願いしよかな」
「担当?」
「一度経験してみはったら、今後の仕事のやり方もわかると思うし。よろしゅうお願いします」
こうして、私の初仕事が決まった。
*
昨日の出来事は、結局、よくわからなかったなぁ……。
撫子さんが訪れた翌日。私は腑に落ちない気持ちのまま、出勤した。今日は昨日よりも早めに行こうと思って気合いを入れて家を出たら、始業時間の四十分も前に事務所に着いてしまった。事務所の鍵が開いているか心配しながら戸に手をかける。
「あ、開いた。よかった」
戸はすんなりと開いた。九重さんはもう出勤しているのだろうかと思い、事務所内を見渡した。
「誰……?」
私は目を瞬かせた。応接コーナーのソファーに、見知らぬ青年が横になっている。眠っているのか、呼吸に合わせて体が上下に揺れている。
登録スタッフの誰かだろうか。
「所長は……いない」
どうやらまだ出勤していないようだ。
私はスプリングコートを脱いでポールハンガーに掛け、バッグをデスクに置いた後、応接コーナーの青年のそばへ歩み寄った。
グースカと寝ている青年の顔を覗き込む。夢でも見ているのか、長い睫毛が時折ぴくっと動く。年は二十歳過ぎといったところだろうか。
「あのう……もしもし」
私は眠っている青年に声をかけた。青年が起きる気配がなかったので、トントンと肩を叩く。
「なんでこんなところで寝ているんですか?」
トントン、トントン。
数回叩くと、「うーん」と唸った後、青年が目を覚ました。ぼんやりとした様子で私を見上げた青年は、ぱちぱちと瞬きをした。
「君、誰?」
「私は昨日からここで働き始めた七海結月です。あなたは、登録スタッフさん?」
小首を傾げて問いかけると、青年は体を起こし、両手を上げて、大きなあくびをした。
「うん、そう。俺はここの登録スタッフ」
「事務所の鍵を持っているんですか?」
一スタッフがどうして所長よりも早く事務所に入れたのだろうと不思議に思って尋ねたら、青年は悪戯っぽい表情で笑った。
「それはまあ……ちょちょいと開けたんだよ」
ちょちょい?
そう言われて、スパイ映画のようにヘアピンで鍵を開ける様が思い浮かぶ。この事務所の鍵は旧式だし、もしかすると可能かもしれない。
勝手に開けて入れちゃうなんて、鍵を替えたほうがいいんじゃないかな……。
そんなことを考えていたら、
「葵」
青年が自分の顔を指差し、人好きのする笑みを浮かべた。
「俺、葵っていうんだ」
んんっ? 葵っていう名前、聞いたことがあるような……。
そういえば、昨日、クレームの電話で怒鳴られた時のスタッフ名が「葵」だった。それに、確か『スタッフ登録票(狐)』にも名前が載っていた。
名簿の内容を思い出し、私は、葵君の顔をまじまじと見つめた。「スタッフの大半が狐」という九重さんの言葉を信じるなら、彼も狐ということになる。栗色の髪に、色素の薄い茶色の瞳。アイドル歌手のような美青年は、どこからどう見ても人間だ。
じっと見つめていると、葵君が、にこっと笑った。
「結月、よろしく!」
突然、抱きつかれ、私は「うひゃっ!」と変な声を上げた。
葵君は、私の首筋に鼻を寄せ、すんすんと匂いを嗅いでいる。
「さっきから思ってたんだけど、結月っていい匂いがするね」
「な、な、な――」
私が「何するのよっ」と叫ぶよりも早く、事務所の戸が開く音がして、
「葵……」
呆れたような九重さんの声が聞こえた。
「何をやってるん? 七海さんに」
急いで振り返ると、九重さんが事務所の入り口で、額を押さえて溜め息をついている。
「助けてください、所長っ!」
私が悲鳴を上げて泣きつくと、九重さんは大股で応接コーナーへやって来て、葵君の服の襟を掴み、私から引きはがした。
「蓮、何するんだよ。乱暴だなぁ」
「君のそういうところが、問題を引き起こすねん。ええ加減にしよし」
唇を尖らせた葵君の額を、九重さんが、ぺちんと叩く。
「痛っ」
葵君はオーバーに声を上げ、額をさすっている。
「かんにん、七海さん。びっくりしたやろ? この子、葵っていうて、うちの登録スタッフなんやけど、問題児でな。仕事先で女性問題起こしては、クビになるねん。昨日も派遣先の飲食店で、社員の女性とバイトの女の子に二股かけていたことがばれて、刃傷沙汰一歩手前になってな……」
九重さんの説明を聞いて、私は唖然として葵君の顔を見た。
「だって、人間の女の子って可愛いじゃん」
葵君は悪びれた様子もなく笑っている。
あの電話って、そんな内容だったんだ!
三角関係で刃傷沙汰なんて、ドラマみたいだ。
「それに、蓮が今回もなんとかしてくれたんだろ?」
何やら思わせぶりににやにやしている葵君の額を、九重さんがもう一度叩いた。
「今回は丸く収めたけど、あの力は気軽に使うもんやない。そうそう何度も尻拭いできひん。反省しよし」
二人の会話の意味がわからない。あの力ってなんだろう? 九重さんが、先方に土下座でもしたのかな?
「で、今日は何しに来たん? 君に紹介する仕事は、もうあらへんよ」
九重さんが腰に手を当て、葵君を睨む。葵君は唇を尖らせた。
「ええ~っ。そんなこと言わないで何か仕事を紹介してよ。今月も女の子と遊びに行く予定が詰まってるんだから、デート資金が必要なんだってば」
「……はぁ」
九重さんは、やれやれというように溜め息をつくと「この子は本当に懲りひんなぁ」とつぶやいた。
「さすがにもう、一般の会社は紹介できひん。葵、これからは僕の手伝いをしよし」
「蓮の手伝い? お給料が出るなら、それでもいいよ」
「ちゃっかりしてるわ。僕の手伝いは給料安いし、覚悟しとき」
「ええ~……」
葵君は不満そうだけれど、九重さんは何か思いついたのか、「そうや」と手を打った。
「ちょうどええわ。初仕事や。葵、七海さんを稲荷山に連れていってあげてくれへん?」
「稲荷山? なんで?」
葵君が小首を傾げる。口調は若干嫌そうだ。
葵君を無視し、九重さんが私に声をかける。
「七海さん。昨日、撫子さんに紹介する仕事ピックアップしてはったやろ? 撫子さんのところに行って、提案してきてくれへん? 彼女、スマホがないし、直接訪ねるしか連絡取る手段がないねん。葵と一緒に行ったら、会えるし」
確かに、撫子さんの連絡先はあやふやだ。昨日、私は撫子さんのために、取引先の中から、英会話スクールの求人を探し出した。撫子さんに連絡を取りたいと思っていたのだけれど、スタッフ登録票に電話番号が書かれていなかったので、どうすればいいのか困っていた。
葵君と一緒に行ったら会えるって、どういう意味なのかな?
不思議に思ったものの、とりあえず「はい」と答える。
「稲荷山かぁ~。気が重いよ~」
葵君はぶつぶつ言っていたけれど、九重さんが、「古巣やろ? そんなこと言うてええの」と目を細めたので、しぶしぶ頷いた。
「まあいいか。結月とデートできると思えば」
すぐに気を取り直して、にこっと笑う。
「デートって……」
困惑していると、九重さんが葵君の頭を軽くこづいた。
「七海さん、葵の言うことは気にしいひんといて。この子、誰にでもこういうこと言うねん」
「誰にでも……」
どうやら、葵君が女たらしだというのは本当らしい。
私は自分のデスクの引き出しから、撫子さんのために用意しておいた求人票を取り出し、クリアファイルに挟んでバッグに入れた。
「じゃーね、蓮」
「行ってきます」
九重さんに会釈をし、葵君と連れ立って事務所を出る。木屋町通を三条通方面に向かって歩き出した。
稲荷山に行くことになるのなら、朝、直接寄ったほうが近かったんだけどな。
出社したばかりなのに、家に帰るような気持ちでいると、隣を歩く葵君が、興味津々といった様子で問いかけてきた。
「ねえねえ、結月。結月はなんで、『セカンドライフ』に入ったの?」
ぶらぶらしていたら偶然『セカンドライフ』を見つけ、九重さんに誘われるままに事務所に入り、いつの間にか勤める話になっていた――と説明すると、葵君は難しい顔をして腕を組んだ。
「ふ~ん、なるほど……」
「不思議な経緯でしょう?」
「――結月、蓮には気を付けてね」
葵君に注意されて、きょとんとする。
「気を付ける? なんで?」
「理由は言えないけど……とりあえず、気を付けて」
どういうこと?
怪訝な気持ちで葵君を見つめる。彼はすぐに笑顔に戻り、私の顔を覗き込んだ。
「蓮、美形だから、誘惑されたりしないでよ。もし好きになるなら、俺にしときなよ。ね、結月」
冗談なのか本気なのか。私は半眼になると、葵君の肩をバシンと叩いた。
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