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四章 条件
九話 試作
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蒼天堂が開いているのに、『パティスリーチェリーブロッサム』を閉めるわけにはいかず、現世への買い物は、やや不安はあるものの、翡翠と穂高に頼むことにした。
バターや生クリーム、アーモンドプードル、チョコレート等、大量に材料を買ってきてもらい、湖月たちが仕事を終え、厨房の空く夜に、茶会用の菓子作りの試作に入った。
まずは、マドレーヌとフィナンシェを作り、へたながらも抹茶を点て、合わせてみる。
「うーん、悪くはないけど……」
美桜は首を傾げた。マリアージュ、というほどではない。
「和菓子って、なんていうか、もっと甘くてなめらかだよね。それに、見た目も可愛いし……」
(なめらかな舌触りで、可愛い洋菓子ってどんなものがあるだろう)
腕を組んで、調理台の上に並べた材料を眺める。
しばらくの間、考え続けていたが、良い案が浮かばないままに深夜になり、今日のところは諦めることにした。
翌日の夜も、美桜は菓子の試作に励んだ。今日はガトーショコラにチャレンジをする。焼き上がったガトーショコラと抹茶を合わせ、
「んっ? チョコレート、抹茶に合うかもしれない」
美桜は目を瞬いた。チョコレートの甘みが、抹茶のほろ苦さと相まって、なかなか良い感じだ。けれど、ガトーショコラではない気がする。
「……そうだ! チョコレートそのままにしてみよう! 生チョコとか!」
良い案だと思い、美桜は、パンと両手を合わせた。
早速、生チョコを作ってみる。
「あっ、おいしい。いいかも!」
強い甘みとなめらかさがあり、抹茶と合わせても良い感じだ。
「でも生チョコだと、見た目があまり可愛くないかなぁ」
和菓子は季節ごとにデザインが変わるが、素朴な見た目の生チョコには、可愛げがない。今夜も悩んでいるうちに遅い時間になり、美桜は厨房を後にした。
「遅くなっちゃったけど、お風呂に入らなきゃ」
(お風呂に入るとリラックスして頭が整理されそう。何か良い案が浮かぶかも)
桜の間へと戻り、入浴の準備をして浴場へと向かう。脱衣所で着物を脱いで扉を開け、いつもどおり髪と体を洗うと、湯船に身を沈めた。岩にもたれ、天に輝く月を見上げる。
「綺麗なお月様。今日は満月かぁ……」
異世界の空にも、月や星がある。そのことが少し不思議に思える。
(龍穴を通ることによって、次元の違う世界に入る……って、翡翠が言っていたっけ。日本のようでいて、少し違う。古いところもあれば、新しいところもある、不思議な世界)
美桜はぼんやりと幽世について考えた。
(まんまるお月様……まるで、お菓子みたいなおいしそうな色)
そう思った時、唐突に頭の中に一つの菓子が閃いた。
「丸いお菓子……マカロン!」
強い甘さがあり、見た目も可愛く、ほろほろと崩れる。あの繊細な食感は、落雁に似ている気がする。
美桜は、ざばっと湯の中から立ち上がった。いても立ってもいられない。今すぐ試作をしてみたいが、
「しまった。私、マカロン、作ったことがない。作り方も分からない!」
と、頭を抱えた。
「持って来たレシピ本にも載っていなかったし……新しい本がいる」
翡翠にお使いを頼むにしても、さすがに菓子の本は分からないだろう。
「どうしよう。明日、お店を休む?」
美桜は迷ったが、ふと、以前、湖月が「まわりの者を頼ればいい」と言っていたことを思い出した。
「申し訳ないけれど、湖月さんの言う通り、助けてもらおう」
そう決心すると、美桜は翡翠に相談するために、浴場を出た。
――翌日。美桜は翡翠と共にバルコニーに立っていた。
「ありがとう、翡翠。付き合ってくれて」
「なんのこれしき。美桜のためなら、いつでも飛ぼう」
翡翠が美桜の髪に指を絡め、愛しそうに口づける。
今日は翡翠と共に現世へレシピ本を買いに行く。『パティスリーチェリーブロッサム』の店番は、紬と木綿に頼んでいた。
翡翠の姿が青銀の龍へと変わる。美桜がその背に乗ると、翡翠は、現世へ向かうために、空へと飛び立った。
バターや生クリーム、アーモンドプードル、チョコレート等、大量に材料を買ってきてもらい、湖月たちが仕事を終え、厨房の空く夜に、茶会用の菓子作りの試作に入った。
まずは、マドレーヌとフィナンシェを作り、へたながらも抹茶を点て、合わせてみる。
「うーん、悪くはないけど……」
美桜は首を傾げた。マリアージュ、というほどではない。
「和菓子って、なんていうか、もっと甘くてなめらかだよね。それに、見た目も可愛いし……」
(なめらかな舌触りで、可愛い洋菓子ってどんなものがあるだろう)
腕を組んで、調理台の上に並べた材料を眺める。
しばらくの間、考え続けていたが、良い案が浮かばないままに深夜になり、今日のところは諦めることにした。
翌日の夜も、美桜は菓子の試作に励んだ。今日はガトーショコラにチャレンジをする。焼き上がったガトーショコラと抹茶を合わせ、
「んっ? チョコレート、抹茶に合うかもしれない」
美桜は目を瞬いた。チョコレートの甘みが、抹茶のほろ苦さと相まって、なかなか良い感じだ。けれど、ガトーショコラではない気がする。
「……そうだ! チョコレートそのままにしてみよう! 生チョコとか!」
良い案だと思い、美桜は、パンと両手を合わせた。
早速、生チョコを作ってみる。
「あっ、おいしい。いいかも!」
強い甘みとなめらかさがあり、抹茶と合わせても良い感じだ。
「でも生チョコだと、見た目があまり可愛くないかなぁ」
和菓子は季節ごとにデザインが変わるが、素朴な見た目の生チョコには、可愛げがない。今夜も悩んでいるうちに遅い時間になり、美桜は厨房を後にした。
「遅くなっちゃったけど、お風呂に入らなきゃ」
(お風呂に入るとリラックスして頭が整理されそう。何か良い案が浮かぶかも)
桜の間へと戻り、入浴の準備をして浴場へと向かう。脱衣所で着物を脱いで扉を開け、いつもどおり髪と体を洗うと、湯船に身を沈めた。岩にもたれ、天に輝く月を見上げる。
「綺麗なお月様。今日は満月かぁ……」
異世界の空にも、月や星がある。そのことが少し不思議に思える。
(龍穴を通ることによって、次元の違う世界に入る……って、翡翠が言っていたっけ。日本のようでいて、少し違う。古いところもあれば、新しいところもある、不思議な世界)
美桜はぼんやりと幽世について考えた。
(まんまるお月様……まるで、お菓子みたいなおいしそうな色)
そう思った時、唐突に頭の中に一つの菓子が閃いた。
「丸いお菓子……マカロン!」
強い甘さがあり、見た目も可愛く、ほろほろと崩れる。あの繊細な食感は、落雁に似ている気がする。
美桜は、ざばっと湯の中から立ち上がった。いても立ってもいられない。今すぐ試作をしてみたいが、
「しまった。私、マカロン、作ったことがない。作り方も分からない!」
と、頭を抱えた。
「持って来たレシピ本にも載っていなかったし……新しい本がいる」
翡翠にお使いを頼むにしても、さすがに菓子の本は分からないだろう。
「どうしよう。明日、お店を休む?」
美桜は迷ったが、ふと、以前、湖月が「まわりの者を頼ればいい」と言っていたことを思い出した。
「申し訳ないけれど、湖月さんの言う通り、助けてもらおう」
そう決心すると、美桜は翡翠に相談するために、浴場を出た。
――翌日。美桜は翡翠と共にバルコニーに立っていた。
「ありがとう、翡翠。付き合ってくれて」
「なんのこれしき。美桜のためなら、いつでも飛ぼう」
翡翠が美桜の髪に指を絡め、愛しそうに口づける。
今日は翡翠と共に現世へレシピ本を買いに行く。『パティスリーチェリーブロッサム』の店番は、紬と木綿に頼んでいた。
翡翠の姿が青銀の龍へと変わる。美桜がその背に乗ると、翡翠は、現世へ向かうために、空へと飛び立った。
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