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二章 洋菓子作り
七話 家電量販店
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「ほう。ここが家電量販店か」
明るい音楽が鳴り響くフロアを歩きながら、翡翠が感心したように、周囲を見回している。
「美桜、これは何だ? 板の中で人が動いている」
「それはテレビだよ」
「こちらには何がある? 心地よい音楽が鳴り響いているな」
高級スピーカーが展示されたブースを見つけた翡翠が、クラシック音楽に耳を傾けながら問いかけてくる。穂高も興味深そうにきょろきょろしているところをみると、彼が幽世に移住したのは、この時代ではないのかもしれない。
(幽世には冷蔵庫みたいなものとか、IH調理器みたいなものはあったけど、テレビやスピーカーはないんだなぁ)
美桜は、新たな発見をしつつ、子供のようにすぐにあちこちに行ってしまう翡翠に「ついて来てる?」と確認をしながら歩く。
(翡翠って、落ち着いた大人の男性って感じなのに、今日はなんだか可愛い)
意外な姿を見られて、得をした気分だ。
「ええと、調理家電は……すみません、オーブンってどこにありますか?」
通りがかった店員にオーブンの在処を尋ねると、一階上だと教えてくれる。三人はエスカレーターで上の階へと上った。蒼天堂にはエレベーターはあるが、エスカレーターはないので、ここでも翡翠は興味津々だった。
一つ上の階は家電のフロアになっており、大きなものでは、エアコンや、冷蔵庫、洗濯機、小さなものでは、炊飯器、電気ポット、オーブントースターなどが陳列されていた。その中にオーブンのコーナーを見つけ、美桜は、
「あっ、あった!」
と、駆け寄った。
「過熱水蒸気を使って油を使わない調理ができる……揚げ物をカラッと温められる……レシピサイトの料理がオートで作れる……。うーん、色んな機能があるなぁ」
美桜がいくつかのオーブンの前を行ったり来たりしている間、翡翠と穂高は、
「この箱の中に食材を入れると調理ができるのか?」
「そのようですね。私も現世出身ですが、私の時代にはこのようなものはありませんでした」
オーブンの蓋を開けたり閉めたり、ボタンを押したりと、あちこち触って遊んでいる。
美桜は再び近くにいる店員に声をかけると、オーブンの性能について尋ねた。
「お菓子作りに使われるとのことですか。それでしたら、こちらのものがおすすめです。フラット庫内で、かつ、二段になっておりますし、一度にたくさん焼けますよ。温度も300度まで出ますから、使い勝手が良いと思います」
「なるほど……」
美桜が真剣に説明を聞いていると、遊んでいた翡翠がいつの間にか美桜の隣に立っていて、店員の話に耳を傾けていた。
「このオーブン、良さそう……。でもお値段が……」
高い値段に怯んでいる美桜に、翡翠が、
「これが良いのか? では、これを買おう。俺には正直よく分からないが、美桜が良いと言うのなら、きっと良いものなのだろう」
と言って、オーブンを撫でる。
「いいの? 結構高いよ?」
遠慮がちに尋ねると、
「大丈夫だ。そこの者。これをくれ」
翡翠が店員に注文をした。店員が「ありがとうございます」と笑顔になる。
その後、翡翠は黒龍の元で両替をしてきたというお金でしっかりと代金を払い、商品を受け取った。紐と把手が掛けられた段ボール箱は、翡翠によって、当然のように穂高へと渡される。
「重い……」
穂高の小さな声が聞こえたが、翡翠はしれっと聞き流した。
「す、すみません。穂高さん。私が持ちます」
申し訳なく思った美桜はそう申し出たが、
「あなたの細腕で、この荷物が持てますか」
と、冷たくあしらわれてしまった。
明るい音楽が鳴り響くフロアを歩きながら、翡翠が感心したように、周囲を見回している。
「美桜、これは何だ? 板の中で人が動いている」
「それはテレビだよ」
「こちらには何がある? 心地よい音楽が鳴り響いているな」
高級スピーカーが展示されたブースを見つけた翡翠が、クラシック音楽に耳を傾けながら問いかけてくる。穂高も興味深そうにきょろきょろしているところをみると、彼が幽世に移住したのは、この時代ではないのかもしれない。
(幽世には冷蔵庫みたいなものとか、IH調理器みたいなものはあったけど、テレビやスピーカーはないんだなぁ)
美桜は、新たな発見をしつつ、子供のようにすぐにあちこちに行ってしまう翡翠に「ついて来てる?」と確認をしながら歩く。
(翡翠って、落ち着いた大人の男性って感じなのに、今日はなんだか可愛い)
意外な姿を見られて、得をした気分だ。
「ええと、調理家電は……すみません、オーブンってどこにありますか?」
通りがかった店員にオーブンの在処を尋ねると、一階上だと教えてくれる。三人はエスカレーターで上の階へと上った。蒼天堂にはエレベーターはあるが、エスカレーターはないので、ここでも翡翠は興味津々だった。
一つ上の階は家電のフロアになっており、大きなものでは、エアコンや、冷蔵庫、洗濯機、小さなものでは、炊飯器、電気ポット、オーブントースターなどが陳列されていた。その中にオーブンのコーナーを見つけ、美桜は、
「あっ、あった!」
と、駆け寄った。
「過熱水蒸気を使って油を使わない調理ができる……揚げ物をカラッと温められる……レシピサイトの料理がオートで作れる……。うーん、色んな機能があるなぁ」
美桜がいくつかのオーブンの前を行ったり来たりしている間、翡翠と穂高は、
「この箱の中に食材を入れると調理ができるのか?」
「そのようですね。私も現世出身ですが、私の時代にはこのようなものはありませんでした」
オーブンの蓋を開けたり閉めたり、ボタンを押したりと、あちこち触って遊んでいる。
美桜は再び近くにいる店員に声をかけると、オーブンの性能について尋ねた。
「お菓子作りに使われるとのことですか。それでしたら、こちらのものがおすすめです。フラット庫内で、かつ、二段になっておりますし、一度にたくさん焼けますよ。温度も300度まで出ますから、使い勝手が良いと思います」
「なるほど……」
美桜が真剣に説明を聞いていると、遊んでいた翡翠がいつの間にか美桜の隣に立っていて、店員の話に耳を傾けていた。
「このオーブン、良さそう……。でもお値段が……」
高い値段に怯んでいる美桜に、翡翠が、
「これが良いのか? では、これを買おう。俺には正直よく分からないが、美桜が良いと言うのなら、きっと良いものなのだろう」
と言って、オーブンを撫でる。
「いいの? 結構高いよ?」
遠慮がちに尋ねると、
「大丈夫だ。そこの者。これをくれ」
翡翠が店員に注文をした。店員が「ありがとうございます」と笑顔になる。
その後、翡翠は黒龍の元で両替をしてきたというお金でしっかりと代金を払い、商品を受け取った。紐と把手が掛けられた段ボール箱は、翡翠によって、当然のように穂高へと渡される。
「重い……」
穂高の小さな声が聞こえたが、翡翠はしれっと聞き流した。
「す、すみません。穂高さん。私が持ちます」
申し訳なく思った美桜はそう申し出たが、
「あなたの細腕で、この荷物が持てますか」
と、冷たくあしらわれてしまった。
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