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一章 幽世へ
二十六話 本当にお嫁さんにするつもり?
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「翡翠は自分のお店の上に住んでいたんだね」
「そうだ。蒼天堂の上が、居住区の蒼天城だ。蒼天堂は一階から四階が店舗。五階は従業員食堂などになっている。蒼天城はその上の三階分だ。六階が蒼天城で働く使用人たちの部屋、七階が客間、最上階が俺の部屋だ。ちなみに、蒼天堂で働く従業員たちは、通いの者ばかりだ」
蒼天堂で買い物をし、エレベーターで居住区へと戻ってきた美桜と翡翠が、話をしながら廊下を歩いていると、
「翡翠様。どちらへ行っておられたのですか?」
穂高が二人を見つけて歩み寄って来た。
「美桜と下に買い物に行っていた」
「婚約者殿と?」
穂高にじろりとした視線を向けられ、美桜は思わず翡翠の背中に隠れた。穂高は、美桜に対して、良い感情を持っていない。彼の冷たい視線を受けると、千雅と真莉愛のことを思い出し、美桜の胸が苦しくなる。
「今晩の夕食に出してくれ」
翡翠が惣菜の入った紙袋を差し出した。穂高が受け取り、紙袋の中に視線を落とし、めずらしいものを見るような顔をして、
「……支配人直々に、惣菜を購入されたのですか」
と、言った。
「久しぶりに客としてまわったが、楽しかった。いつもは視察だからな」
「かしこまりました。では、夕食の際にお出し致します」
「俺の分も桜の間に運んでくれ。美桜と食べたい」
翡翠に肩を抱き寄せられ、美桜の頬が赤くなる。穂高が険のあるまなざしで美桜を見ているので、びくびくしていると、翡翠が、静かな声で使用人頭の名を呼んだ。
「穂高。美桜のことは丁重に扱えと言ったはずだ」
「……失礼しました」
穂高が慇懃無礼な態度で美桜にお辞儀をする。美桜もぺこりと頭を下げた。
惣菜の袋を持って穂高が去って行くと、美桜は思わず、ふぅと息を吐いた。
「美桜、怖がらせてしまったな。穂高には後でよく言っておく」
翡翠が美桜の頭を優しく撫でた。美桜は「ううん」と首を振り、微笑んだ。
「穂高さん、きっと、私が急に人間の世界からやって来たから、困っているんじゃないかな」
「美桜はそう捉えてくれるのか」
翡翠が胸元に美桜の頭を引き寄せた。そのまま髪に口づけられ、美桜の息が止まりそうになる。
「翡翠……」
「うん?」
「ち、近い……。離して……」
真っ赤になりながらお願いすると、翡翠は「そうか?」と、残念そうに美桜を離した。
(翡翠、私をお嫁さんにするって言ってから、スキンシップが多くなったみたい。戸惑っちゃう……)
ドキドキしていると、
「さあ、桜の間へ行こう。買った商品も届いているはずだ。着せて見せてくれ」
近いと言ったのに、翡翠は美桜の肩を抱いたまま歩き出す。
翡翠に触れられることは嫌ではないが、今ひとつ、本音が見えなくて困ってしまう。自分はからかわれているのではないだろうか。
(翡翠は、本当に私をお嫁さんにするつもりなのかな……? 私なんて、貧相で、頭が悪くて、取り柄のない女の子なのに……。翡翠には釣り合わないよ)
美桜は、隣を歩く翡翠の綺麗な横顔を盗み見て、ひっそりと落ち込んだ。
「そうだ。蒼天堂の上が、居住区の蒼天城だ。蒼天堂は一階から四階が店舗。五階は従業員食堂などになっている。蒼天城はその上の三階分だ。六階が蒼天城で働く使用人たちの部屋、七階が客間、最上階が俺の部屋だ。ちなみに、蒼天堂で働く従業員たちは、通いの者ばかりだ」
蒼天堂で買い物をし、エレベーターで居住区へと戻ってきた美桜と翡翠が、話をしながら廊下を歩いていると、
「翡翠様。どちらへ行っておられたのですか?」
穂高が二人を見つけて歩み寄って来た。
「美桜と下に買い物に行っていた」
「婚約者殿と?」
穂高にじろりとした視線を向けられ、美桜は思わず翡翠の背中に隠れた。穂高は、美桜に対して、良い感情を持っていない。彼の冷たい視線を受けると、千雅と真莉愛のことを思い出し、美桜の胸が苦しくなる。
「今晩の夕食に出してくれ」
翡翠が惣菜の入った紙袋を差し出した。穂高が受け取り、紙袋の中に視線を落とし、めずらしいものを見るような顔をして、
「……支配人直々に、惣菜を購入されたのですか」
と、言った。
「久しぶりに客としてまわったが、楽しかった。いつもは視察だからな」
「かしこまりました。では、夕食の際にお出し致します」
「俺の分も桜の間に運んでくれ。美桜と食べたい」
翡翠に肩を抱き寄せられ、美桜の頬が赤くなる。穂高が険のあるまなざしで美桜を見ているので、びくびくしていると、翡翠が、静かな声で使用人頭の名を呼んだ。
「穂高。美桜のことは丁重に扱えと言ったはずだ」
「……失礼しました」
穂高が慇懃無礼な態度で美桜にお辞儀をする。美桜もぺこりと頭を下げた。
惣菜の袋を持って穂高が去って行くと、美桜は思わず、ふぅと息を吐いた。
「美桜、怖がらせてしまったな。穂高には後でよく言っておく」
翡翠が美桜の頭を優しく撫でた。美桜は「ううん」と首を振り、微笑んだ。
「穂高さん、きっと、私が急に人間の世界からやって来たから、困っているんじゃないかな」
「美桜はそう捉えてくれるのか」
翡翠が胸元に美桜の頭を引き寄せた。そのまま髪に口づけられ、美桜の息が止まりそうになる。
「翡翠……」
「うん?」
「ち、近い……。離して……」
真っ赤になりながらお願いすると、翡翠は「そうか?」と、残念そうに美桜を離した。
(翡翠、私をお嫁さんにするって言ってから、スキンシップが多くなったみたい。戸惑っちゃう……)
ドキドキしていると、
「さあ、桜の間へ行こう。買った商品も届いているはずだ。着せて見せてくれ」
近いと言ったのに、翡翠は美桜の肩を抱いたまま歩き出す。
翡翠に触れられることは嫌ではないが、今ひとつ、本音が見えなくて困ってしまう。自分はからかわれているのではないだろうか。
(翡翠は、本当に私をお嫁さんにするつもりなのかな……? 私なんて、貧相で、頭が悪くて、取り柄のない女の子なのに……。翡翠には釣り合わないよ)
美桜は、隣を歩く翡翠の綺麗な横顔を盗み見て、ひっそりと落ち込んだ。
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