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一章 幽世へ

二十二話 雪女

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 その後、着物に着替えさせてもらうと、早雪は一旦部屋を出て行き、朝食の膳を持って戻ってきた。
 座卓の上に置かれた盆には、湯豆腐に焼き魚、味噌汁にご飯に香の物がのせられている。

「おいしそう……」

 思わず美桜が漏らすと、早雪が、

「冷めないうちに、どうぞ」

 とすすめた。「いただきます」と手を合わせ、小鍋で温められている湯豆腐を小鉢によそう。出汁醤油をかけて、口に入れ、思わず「熱っ」と声を上げた。

「熱かったですか?」

 問いかけてきた早雪に、

「私、猫舌なんです」

 と答えると、

「そうですか。では、少し冷やします」

 早雪は美桜の持つ小鉢の上に手をかざした。その途端、ふわりと冷気を感じ、美桜は目を瞬いた。

「これで食べやすくなったかと思います」

 再度、湯豆腐を口に入れると、早雪の言う通り、良いあんばいにぬるくなっている。

「早雪さんが冷やして下さったのですか?」

 一体どういうことだろうと、不思議に思って尋ねた美桜に、早雪は何でもないことのように、

「はい。私は雪女ですので、冷やすのは得意です」

 と答えた。

「ええっ! 雪女?」

「ここは幽世です。住まうのはあやかしたち。翡翠様にお聞きになりませんでしたか?」

「すごいですね、早雪さん。冷気を出せるなんて!」

 思わず美桜が感心して大きな声を上げると、早雪は面食らった様子で、

「そんなことはありません。ただの体質です」

 と、謙遜をした。 

「さあ、早く食べてしまって下さい。翡翠様がお待ちです」

 早雪が早口で美桜を急かす。美桜に褒められた早雪の頬は、ほんのりと赤くなっていた。
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