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一章 幽世へ
十八話 露天風呂にて
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部屋を出て、再び、赤い絨毯が敷かれた廊下を進む。
美桜がいるのは蒼天城の上部のはずだが、まるで旅館のような造りだった。美桜が通された桜の間がある階の部屋数は少なそうだったが、階下へ下りると、たくさんの扉が並んでいた。
しばらく歩くと、暖簾の掛かった扉の前に着いた。早雪が、
「こちらが女湯です」
と言いながら、扉を開ける。「どうぞ」と促され、中に入ると、広い脱衣所があった。棚がいくつもあり、それぞれにカゴが置かれている。
(温泉……みたいな感じ?)
美桜は、幼い頃、両親と行った温泉のことを思い出した。
入り口のそばで立ち尽くしていると、早雪に、
「美桜様の貸し切りです。自由にお使い下さい。さあ、中へ」
と急かされた。
「貸し切りだなんて……」と、申し訳なく思いながら、脱衣所に上がり込む。早雪がすぐに小さな手ぬぐいと大きな布を持って来た。タオル代わりということだろうか。大きな布は、ガーゼのような素材をしている。
早雪が美桜の準備が整うのを待っているようだったので、慌てて裸になると、
「湯船はこちらです」
と、案内された。扉を開けて中に入った途端、湯気が美桜を包み込んだ。
「わぁ……!」
(露天風呂だ……!)
湯気の間から、岩で囲まれた湯船と、空が見えた。屋根もあるが、湯船の半分ほどを覆っているだけだ。雨よけなのかもしれない。
(すごい、すごい……!)
内心で興奮していると、早雪が着物の裾をたくし上げ、たすきをして、美桜に近づいてきた。
「お背中をお流し致します」
当然のように言われたので、美桜はびっくりして、
「ええっ! い、いいです、そんな!」
と両手を振った。早雪が、
「でも……」
と、困惑した様子を見せたので、
「だ、大丈夫です。一人で洗えます」
と、続ける。
「そうですか? それでは、私は外でお待ちしています」
美桜に石けんと手ぬぐいを渡し、早雪が脱衣所へと戻って行く。
(早雪さん、ぶっきらぼうだけど、親切だな。でも、体を洗うなんて言われて、びっくりしちゃった……)
お嬢様のような扱いをされる身分ではない。
気を取り直し、美桜は髪と体を洗うと、広い湯船に足を入れた。熱すぎずぬるすぎないお湯はとろりとしていて、肌に優しい。
体を沈め、美桜は「ほぅ……」と息を吐いた。家を飛び出してきたのが数時間前の出来事のようには思えない。けれど、真莉愛に叩かれた頬が湯にしみたので、やはり現実なのだと再認識する。
「幽世か……」
神様とあやかしの住む世界だと、翡翠は言った。美桜はまだ、この世界のことを何も知らない。これから先の自分の生活はどのようになっていくのだろう。期待と不安が入り交じる。
(翡翠様は私を嫁にするとおっしゃっていたけど、きっと本気じゃないよね。あんなに素敵な人だもの。私はこのお城の使用人として雇ってもらおう。できれば、住み込みで働けるといいな……)
喉元まで湯につかりながら、美桜はそんな風に考えていた。
美桜がいるのは蒼天城の上部のはずだが、まるで旅館のような造りだった。美桜が通された桜の間がある階の部屋数は少なそうだったが、階下へ下りると、たくさんの扉が並んでいた。
しばらく歩くと、暖簾の掛かった扉の前に着いた。早雪が、
「こちらが女湯です」
と言いながら、扉を開ける。「どうぞ」と促され、中に入ると、広い脱衣所があった。棚がいくつもあり、それぞれにカゴが置かれている。
(温泉……みたいな感じ?)
美桜は、幼い頃、両親と行った温泉のことを思い出した。
入り口のそばで立ち尽くしていると、早雪に、
「美桜様の貸し切りです。自由にお使い下さい。さあ、中へ」
と急かされた。
「貸し切りだなんて……」と、申し訳なく思いながら、脱衣所に上がり込む。早雪がすぐに小さな手ぬぐいと大きな布を持って来た。タオル代わりということだろうか。大きな布は、ガーゼのような素材をしている。
早雪が美桜の準備が整うのを待っているようだったので、慌てて裸になると、
「湯船はこちらです」
と、案内された。扉を開けて中に入った途端、湯気が美桜を包み込んだ。
「わぁ……!」
(露天風呂だ……!)
湯気の間から、岩で囲まれた湯船と、空が見えた。屋根もあるが、湯船の半分ほどを覆っているだけだ。雨よけなのかもしれない。
(すごい、すごい……!)
内心で興奮していると、早雪が着物の裾をたくし上げ、たすきをして、美桜に近づいてきた。
「お背中をお流し致します」
当然のように言われたので、美桜はびっくりして、
「ええっ! い、いいです、そんな!」
と両手を振った。早雪が、
「でも……」
と、困惑した様子を見せたので、
「だ、大丈夫です。一人で洗えます」
と、続ける。
「そうですか? それでは、私は外でお待ちしています」
美桜に石けんと手ぬぐいを渡し、早雪が脱衣所へと戻って行く。
(早雪さん、ぶっきらぼうだけど、親切だな。でも、体を洗うなんて言われて、びっくりしちゃった……)
お嬢様のような扱いをされる身分ではない。
気を取り直し、美桜は髪と体を洗うと、広い湯船に足を入れた。熱すぎずぬるすぎないお湯はとろりとしていて、肌に優しい。
体を沈め、美桜は「ほぅ……」と息を吐いた。家を飛び出してきたのが数時間前の出来事のようには思えない。けれど、真莉愛に叩かれた頬が湯にしみたので、やはり現実なのだと再認識する。
「幽世か……」
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(翡翠様は私を嫁にするとおっしゃっていたけど、きっと本気じゃないよね。あんなに素敵な人だもの。私はこのお城の使用人として雇ってもらおう。できれば、住み込みで働けるといいな……)
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