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第一章

契約と代償(3)

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「……は、ぁ?」

侵略者?何を言っているんだ?言っている意味が分からない。侵略者……魔族、目の前のこの人は魔族なのか?たしかに人とは思えぬ圧倒的な強さ。でも人に仇なす存在が、僕を守るわけが無い。じりじりと後ずさりながら、枕元に常時忍ばせている雷警棒スタンガンを取ろうと手を伸ばす

「そう急くでない。まだ話は済んでおらん」

一瞬のうちに背後に移動した彼女は僕の足を払い、ベッドに押し倒した。上から覆い被さるように下半身を乗せる。

「な……何なんだ!?ほんとに何なんだ!何がしたい!」
「だからぁ、話を聞けと言うとるじゃろう……がっ!!!」

そういうと彼女は固めた拳を僕の鳩尾にあろう事か振り下ろした。死を覚悟した刹那、その拳は深紅の障壁によって爆音と共に静止した。

「…はァ…はぁ……これ……何……?」
「一番手っ取り早い方法じゃの。今妾はお主を
「殺すって……やっぱり」
「早とちりするでない。見たじゃろう。今の障壁を。よく見よ」

言われて今も拳を受け止めている障壁を見ると、輝きで分かりづらいが見覚えのある形をしていた。

「ヴラド家の……家紋みたいだ」
「合っておるよ。それがある限り妾はお主に手出しは出来ん。ま、するつもりもないがの。」
「でもなんでこんな障壁が……?」
「それも含め、ゆっくり語るとするかの」

ふわりと浮かんだ彼女は再び窓枠に腰をかける。僕は上半身を持ち上げ、じっと彼女の眼を見つめた。

「妾は確かに魔族じゃが、人間を害そうとは思っておらん。むしろ貴様の祖先……初代のヴラドには命を救われた恩がある。」
「初代……僕の先祖」
「妾は初代とある契約を結んでな。代々精霊の代わりに妾の力を使役して魔族達と戦っておったのよ」
「でも、うちの家系は初代からしばらくして精霊と契約が出来なくなったって…」
「当たり前じゃろう?世界に仇なす物と契約した者の血ぞ。寄るどころか蔑視されて当然じゃ」
「そうか……そうだったのか」
「お主の指輪、それは宝石では無い。妾と初代の血液で精製した結晶での。妾はずっとそこにおった」

なるほど、経緯はだいたい飲み込めた。怪物のような彼女が僕を助けたのも理解出来る。でも。

「…どうして僕は君を呼び出せたの?」
「妾もよく分からんがな。大抵の物は呼び出すことはおろか、呼び出せても精神が崩れたりすることが多くてな。ま、先祖返りで肉体が初代に近かったのかもしれんな」

顔はお主の方が好みじゃがの。とケタケタと楽しそうに彼女は笑った。

「そういえば君、名前は」
「ほう、妾の名前を望むか。よいよい。美しい女の名は知りたがるのが男子の性よな」
「ち、ちが、そんなんじゃ」
「わかっておるわい初心うぶよのう。愛い愛い」
「して、妾の名じゃな。教えることは構わんが、魔族には血に課せられた戒めがあってな」
「戒め……?」
「そう。魔族にとって名前を知られることは命を握られるのと同義。よって知られれば隷属の契約が結ばれる」
「隷属って、奴隷扱いってこと?」
「早い話がそうじゃな」

彼女は窓枠からふわりと浮かばせてしなやかに、上体を起こしたままの僕の前に立ち、厳かに問う。

「選べ。妾と契約し、力と呪いを享受するか。契約を放棄し、血の縛りを解くか」
「……僕は……」

正直、怖い。魔族の彼女と契約する事が怖い。恐ろしい程に暴力的な力を自分が得ることが怖い。得体の知れない呪いを受ける事が恐ろしい。

でも

本当に逃げていいのか?

拒絶したら彼女はきっと僕の元を去るだろう。その時、僕には何が残る?呪いが解けるとはいえ、今から精霊と契約ができる保証はない。みんなに追いつくことは出来ない。これが最後のチャンスかもしれない。底辺から抜け出すための最後のチャンスかもしれない。

ぞくり。背中に何かが這う感覚。

目の前にいるのは遥か高次元の生命体。

しかし恐怖は感じない。


答えは決まっていた。



「僕に、名を。教えて欲しい」
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