8 / 9
第一章
契約と代償(3)
しおりを挟む
「……は、ぁ?」
侵略者?何を言っているんだ?言っている意味が分からない。侵略者……魔族、目の前のこの人は魔族なのか?たしかに人とは思えぬ圧倒的な強さ。でも人に仇なす存在が、僕を守るわけが無い。じりじりと後ずさりながら、枕元に常時忍ばせている雷警棒を取ろうと手を伸ばす
「そう急くでない。まだ話は済んでおらん」
一瞬のうちに背後に移動した彼女は僕の足を払い、ベッドに押し倒した。上から覆い被さるように下半身を乗せる。
「な……何なんだ!?ほんとに何なんだ!何がしたい!」
「だからぁ、話を聞けと言うとるじゃろう……がっ!!!」
そういうと彼女は固めた拳を僕の鳩尾にあろう事か振り下ろした。死を覚悟した刹那、その拳は深紅の障壁によって爆音と共に静止した。
「…はァ…はぁ……これ……何……?」
「一番手っ取り早い方法じゃの。今妾はお主を殺す気で殴った」
「殺すって……やっぱり」
「早とちりするでない。見たじゃろう。今の障壁を。よく見よ」
言われて今も拳を受け止めている障壁を見ると、輝きで分かりづらいが見覚えのある形をしていた。
「ヴラド家の……家紋みたいだ」
「合っておるよ。それがある限り妾はお主に手出しは出来ん。ま、するつもりもないがの。」
「でもなんでこんな障壁が……?」
「それも含め、ゆっくり語るとするかの」
ふわりと浮かんだ彼女は再び窓枠に腰をかける。僕は上半身を持ち上げ、じっと彼女の眼を見つめた。
「妾は確かに魔族じゃが、人間を害そうとは思っておらん。むしろ貴様の祖先……初代のヴラドには命を救われた恩がある。」
「初代……僕の先祖」
「妾は初代とある契約を結んでな。代々精霊の代わりに妾の力を使役して魔族達と戦っておったのよ」
「でも、うちの家系は初代からしばらくして精霊と契約が出来なくなったって…」
「当たり前じゃろう?世界に仇なす物と契約した者の血ぞ。寄るどころか蔑視されて当然じゃ」
「そうか……そうだったのか」
「お主の指輪、それは宝石では無い。妾と初代の血液で精製した結晶での。妾はずっとそこにおった」
なるほど、経緯はだいたい飲み込めた。怪物のような彼女が僕を助けたのも理解出来る。でも。
「…どうして僕は君を呼び出せたの?」
「妾もよく分からんがな。大抵の物は呼び出すことはおろか、呼び出せても精神が崩れたりすることが多くてな。ま、先祖返りで肉体が初代に近かったのかもしれんな」
顔はお主の方が好みじゃがの。とケタケタと楽しそうに彼女は笑った。
「そういえば君、名前は」
「ほう、妾の名前を望むか。よいよい。美しい女の名は知りたがるのが男子の性よな」
「ち、ちが、そんなんじゃ」
「わかっておるわい初心よのう。愛い愛い」
「して、妾の名じゃな。教えることは構わんが、魔族には血に課せられた戒めがあってな」
「戒め……?」
「そう。魔族にとって名前を知られることは命を握られるのと同義。よって知られれば隷属の契約が結ばれる」
「隷属って、奴隷扱いってこと?」
「早い話がそうじゃな」
彼女は窓枠からふわりと浮かばせてしなやかに、上体を起こしたままの僕の前に立ち、厳かに問う。
「選べ。妾と契約し、力と呪いを享受するか。契約を放棄し、血の縛りを解くか」
「……僕は……」
正直、怖い。魔族の彼女と契約する事が怖い。恐ろしい程に暴力的な力を自分が得ることが怖い。得体の知れない呪いを受ける事が恐ろしい。
でも
本当に逃げていいのか?
拒絶したら彼女はきっと僕の元を去るだろう。その時、僕には何が残る?呪いが解けるとはいえ、今から精霊と契約ができる保証はない。みんなに追いつくことは出来ない。これが最後のチャンスかもしれない。底辺から抜け出すための最後のチャンスかもしれない。
ぞくり。背中に何かが這う感覚。
目の前にいるのは遥か高次元の生命体。
しかし恐怖は感じない。
答えは決まっていた。
「僕に、名を。教えて欲しい」
侵略者?何を言っているんだ?言っている意味が分からない。侵略者……魔族、目の前のこの人は魔族なのか?たしかに人とは思えぬ圧倒的な強さ。でも人に仇なす存在が、僕を守るわけが無い。じりじりと後ずさりながら、枕元に常時忍ばせている雷警棒を取ろうと手を伸ばす
「そう急くでない。まだ話は済んでおらん」
一瞬のうちに背後に移動した彼女は僕の足を払い、ベッドに押し倒した。上から覆い被さるように下半身を乗せる。
「な……何なんだ!?ほんとに何なんだ!何がしたい!」
「だからぁ、話を聞けと言うとるじゃろう……がっ!!!」
そういうと彼女は固めた拳を僕の鳩尾にあろう事か振り下ろした。死を覚悟した刹那、その拳は深紅の障壁によって爆音と共に静止した。
「…はァ…はぁ……これ……何……?」
「一番手っ取り早い方法じゃの。今妾はお主を殺す気で殴った」
「殺すって……やっぱり」
「早とちりするでない。見たじゃろう。今の障壁を。よく見よ」
言われて今も拳を受け止めている障壁を見ると、輝きで分かりづらいが見覚えのある形をしていた。
「ヴラド家の……家紋みたいだ」
「合っておるよ。それがある限り妾はお主に手出しは出来ん。ま、するつもりもないがの。」
「でもなんでこんな障壁が……?」
「それも含め、ゆっくり語るとするかの」
ふわりと浮かんだ彼女は再び窓枠に腰をかける。僕は上半身を持ち上げ、じっと彼女の眼を見つめた。
「妾は確かに魔族じゃが、人間を害そうとは思っておらん。むしろ貴様の祖先……初代のヴラドには命を救われた恩がある。」
「初代……僕の先祖」
「妾は初代とある契約を結んでな。代々精霊の代わりに妾の力を使役して魔族達と戦っておったのよ」
「でも、うちの家系は初代からしばらくして精霊と契約が出来なくなったって…」
「当たり前じゃろう?世界に仇なす物と契約した者の血ぞ。寄るどころか蔑視されて当然じゃ」
「そうか……そうだったのか」
「お主の指輪、それは宝石では無い。妾と初代の血液で精製した結晶での。妾はずっとそこにおった」
なるほど、経緯はだいたい飲み込めた。怪物のような彼女が僕を助けたのも理解出来る。でも。
「…どうして僕は君を呼び出せたの?」
「妾もよく分からんがな。大抵の物は呼び出すことはおろか、呼び出せても精神が崩れたりすることが多くてな。ま、先祖返りで肉体が初代に近かったのかもしれんな」
顔はお主の方が好みじゃがの。とケタケタと楽しそうに彼女は笑った。
「そういえば君、名前は」
「ほう、妾の名前を望むか。よいよい。美しい女の名は知りたがるのが男子の性よな」
「ち、ちが、そんなんじゃ」
「わかっておるわい初心よのう。愛い愛い」
「して、妾の名じゃな。教えることは構わんが、魔族には血に課せられた戒めがあってな」
「戒め……?」
「そう。魔族にとって名前を知られることは命を握られるのと同義。よって知られれば隷属の契約が結ばれる」
「隷属って、奴隷扱いってこと?」
「早い話がそうじゃな」
彼女は窓枠からふわりと浮かばせてしなやかに、上体を起こしたままの僕の前に立ち、厳かに問う。
「選べ。妾と契約し、力と呪いを享受するか。契約を放棄し、血の縛りを解くか」
「……僕は……」
正直、怖い。魔族の彼女と契約する事が怖い。恐ろしい程に暴力的な力を自分が得ることが怖い。得体の知れない呪いを受ける事が恐ろしい。
でも
本当に逃げていいのか?
拒絶したら彼女はきっと僕の元を去るだろう。その時、僕には何が残る?呪いが解けるとはいえ、今から精霊と契約ができる保証はない。みんなに追いつくことは出来ない。これが最後のチャンスかもしれない。底辺から抜け出すための最後のチャンスかもしれない。
ぞくり。背中に何かが這う感覚。
目の前にいるのは遥か高次元の生命体。
しかし恐怖は感じない。
答えは決まっていた。
「僕に、名を。教えて欲しい」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
白の魔女の世界救済譚
月乃彰
ファンタジー
※当作品は「小説家になろう」と「カクヨム」にも投稿されています。
白の魔女、エスト。彼女はその六百年間、『欲望』を叶えるべく過ごしていた。
しかしある日、700年前、大陸の中央部の国々を滅ぼしたとされる黒の魔女が復活した報せを聞き、エストは自らの『欲望』のため、黒の魔女を打倒することを決意した。
そしてそんな時、ウェレール王国は異世界人の召喚を行おうとしていた。黒の魔女であれば、他者の支配など簡単ということを知らずに──。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
異世界配信で、役立たずなうっかり役を演じさせられていたボクは、自称姉ポジのもふもふ白猫と共に自分探しの旅に出る。
美杉。節約令嬢、書籍化進行中
ファンタジー
いつだってボクはボクが嫌いだった。
弱虫で、意気地なしで、誰かの顔色ばかりうかがって、愛想笑いするしかなかったボクが。
もうモブとして生きるのはやめる。
そう決めた時、ボクはなりたい自分を探す旅に出ることにした。
昔、異世界人によって動画配信が持ち込まれた。
その日からこの国の人々は、どうにかしてあんな動画を共有することが出来ないかと躍起になった。
そして魔法のネットワークを使って、通信網が世界中に広がる。
とはいっても、まだまだその技術は未熟であり、受信機械となるオーブは王族や貴族たちなど金持ちしか持つことは難しかった。
配信を行える者も、一部の金持ちやスポンサーを得た冒険者たちだけ。
中でもストーリー性がある冒険ものが特に人気番組になっていた。
転生者であるボクもコレに参加させられている一人だ。
昭和の時代劇のようなその配信は、一番強いリーダが核となり悪(魔物)を討伐していくというもの。
リーダー、サブリーダーにお色気担当、そしてボクはただうっかりするだけの役立たず役。
本当に、どこかで見たことあるようなパーティーだった。
ストーリー性があるというのは、つまりは台本があるということ。
彼らの命令に従い、うっかりミスを起こし、彼らがボクを颯爽と助ける。
ボクが獣人であり人間よりも身分が低いから、どんなに嫌な台本でも従うしかなかった。
そんな中、事故が起きる。
想定よりもかなり強いモンスターが現れ、焦るパーティー。
圧倒的な敵の前に、パーティーはどうすることも出来ないまま壊滅させられ――
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
婚約破棄に向けて悪役令嬢始めました
樹里
ファンタジー
王太子殿下との婚約破棄を切っ掛けに、何度も人生を戻され、その度に絶望に落とされる公爵家の娘、ヴィヴィアンナ・ローレンス。
嘆いても、泣いても、この呪われた運命から逃れられないのであれば、せめて自分の意志で、自分の手で人生を華麗に散らしてみせましょう。
私は――立派な悪役令嬢になります!
おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ
Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_
【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】
後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。
目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。
そして若返った自分の身体。
美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。
これでワクワクしない方が嘘である。
そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。
キャンピングカーで往く異世界徒然紀行
タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》
【書籍化!】
コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。
早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。
そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。
道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが…
※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜
※カクヨム様でも投稿をしております
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる