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第一章

没落貴族と魔討学園(2)

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僕の家系は一流の討魔騎士の一族だったらしい。とうの昔の話になるが、いつからか当主が精霊の力を授かれなくなってしまった。理由は分かってはいないが、それが僕の家系の没落した理由だというのは亡くなった父から聞いている。受け継いでいるのは祖先からの灰髪と線の細い容姿。父も残せたのは鈍く輝くルビーの指輪程度の物。家宝だというそれも、かなり古ぼけてしまっている。

「……僕も、そうなんだろうな」

寮の自室ベッドに倒れ込み、天井に手をかざす。敵だらけのこの学園で、唯一気が休まるのはこの部屋だけだった。このままでは遅かれ早かれ退学になってしまう。でも僕にはどうしようも……

そう思い悩みながら今日も一日が幕を下ろすのだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……………………であるからして。我が魔討学園はより純度の高く、戦力となる騎士を育成するべく、設立された訳である。さて。今日の講義はここまでとしよう。」

教授の終わりという宣言と共に、昼休みを迎え、生徒たちがぞろぞろと教室の外へなだれ出る。僕も荷物を片付けて外へ出ようとするが、その前に人影が立ち塞がる

「……付き合えよ。無能」
「二キス……様…」



「……ラァッ!」
ミシリ、肋骨が嫌な音を立てる。訓練ドームの裏の物陰になる場所で、僕はアルベラとその取り巻きにリンチにされていた。取り巻きとは言っても、彼の行いが過剰すぎるせいか、そばに居る数人は手を出しては来ない。
「ホントお前さぁ…ムカつくんだよ…」
髪を捕まれ、引き起こされる。
「なんでお前みたいな無能がヘレノースと…」
憎々しげに睨めつけ、更に地面に叩きつける。その粗暴な態度と行いがヘレノースの心を遠ざけていることを彼は知らないのだろう。言うつもりも無いが。さんざ僕を痛めつけて満足したのか、僕を置き去りにして去っていった。


それから何時間そのままだったろうか。用務員さんに発見されたらしく、僕は保健室で目を覚ました。身を起こし、ベッドから降りようとして、シーツに零れる雫に気づく。

「僕……泣いて……」
どうやら僕の身体より先に、心が限界を迎えてしまったのかもしれない。このいじめは学園に入る前からずっと続いている。なまじ名のあった家系なだけに、周囲からの迫害は辛いものだったが、身体にここまで酷い傷を負わされたのは初めてかもしれない。こんなに簡単に人の心は折れてしまうのか。自嘲するように笑みを浮かべ、ふらつきながら自室へと歩く。授業はとっくに終わってしまっていた。


アルベラの私刑から数日間、彼は満足したのか、暫くは手を出して来なかったが、僕の傷が癒えたことを確認して、また執拗ないじめが始まった。相変わらずヘレノースへ言い寄ってはいるが、反応を返さない彼女への苛立ちは全て僕に向かっている様だった。

「大丈夫ですか?アレシアさん……二キス様の行い、日に日に酷くなっていますよね」
「うん…でも、僕が我慢すれば済むことだから。ヘレノースさんは気にしないで」
「ほんとに…優しいですよね。アレシアさん。普通なら私を恨んでもおかしく無いんですよ?」
「なんで僕が君を恨むのさ。いつも怪我、治してくれるし……助かってるよ」

心配はさせるまいと精一杯の笑顔を向ける。ヘレノースの顔がポッと紅く染った。

「っ……、そう、ですか。…これからも何かあったら言ってください」
「大丈夫?顔赤いけど……風邪?」
「!なんでもないですよ!?」

そういうとヘレノースは手早く荷物をまとめ、そそくさと教室を出ていってしまった。出ていく際、少しこっちを振り返り手を振る彼女へ、手を挙げて答える。ほんとにいい子だと思う。だからこそ、アルベラが目をつけたのかもしれないが。僕がいなくなれば、はけ口の無くなったアルベラの歪んだ感情はヘレノースに向くかもしれない。そう思うとより一層。負ける訳には行かないと思うのだった。
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