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第一章
没落貴族と魔討学園(1)
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「邪魔なんだよ能無しが!」
ドガシャンと大音を立ててクラスメートの靴が僕の胴体へめり込む。椅子と机を押し倒しながら僕は床へ倒れ込んだ。
「ゲホッ……う、ごめん……」
「ったく……無能の癖に邪魔な場所に立ちやがって……」
卑屈に謝る僕…アレシア=ヴラドを傍目に、蹴りを入れた生徒は唾を吐きながら教室の外へ立ち去った。
ここは『魔討学園』。魔界からの侵略者を迎撃する騎士たちを育成する学園。
魔界とは僕らの暮らす現世とは違う世界。ある日世界各地に開いた次元の穴から、豊かな大地と資源を求めて魔族と呼ばれる怪物たちが侵攻を始めた。それに対抗するべく作られたのがこの学園だ。世界の秩序を保つ存在……『精霊』の力を借り、理を乱す魔を討つ。その素質ある子供たちを集め、一人前の騎士として育て上げるための学園。それがここ……『魔討学園』だ。
『またあいつか、没落貴族の……』
『何の力も無いのに、なんで通ってるんだ?』
クスクスと嘲笑が浴びせられるが、唇を噛んで堪える。今までずっとされてきた事だ。そう。僕は文字通り無力なのだ。「精霊」の力を扱えないから。
基本的に精霊は、親和性の高い人間の身体に宿る。その力を体を媒介にして世界へと顕現させる。それが騎士としての最初のステップとなる……が、クラスメートが皆成功させる中、僕だけが成功はおろか、力を感じることすら出来ていない。元騎士の家系ということもあって入学を許された僕だが、退学も時間の問題だろう。
だけど僕には退学にはなれない理由がある。……その理由のためなら、僕はいくら嘲笑われたって構わない。
「あの……アレシアくん、大丈夫?」
同じクラスの女生徒…ヘレノース=メロウが僕に声をかける。彼女は争い事が嫌いで、いじめられている僕にも手を差し伸べてくれる。
「大丈夫だよ。いつもの事だから……いつつ……」
「大丈夫って、怪我してるじゃないですか!」
そう言うと彼女は痛む腹部へ手をかざし、精霊の力を使い治療を始めた。
彼女と親和性の高い精霊は【癒】の精霊。彼女らしいいい力だと思う。希少性も高く、僕と話していても彼女が標的にならない原因のひとつでもある。
「はぁ……だいぶ楽になったよ。ありがとう」
「いえ、そんな……何も出来なくて…」
彼女は申し訳なさそうな顔をするが、彼女は何一つ悪くない。悪いのは弱い自分なのだ。
「ご家族のみなさん、お元気ですか?」
「うん。みんな元気に過ごしてるって、この間手紙を貰ったんだ」
「大事ですよね…家族は」
「あぁ。だから……僕は負けちゃいけないんだ」
魔討学園の生徒家族には支援金が交付される。とある理由から没落してしまった貴族である僕の家には、今はそれが無くてはならないのだ。母も兄弟も必死に働いているが、それでも僕が今学園を辞める訳にはいかない。負けられない。
「日に日に当たりが辛くなって行きますね……先生に相談は……」
「してみたけど僕が無能力だから…あんまり取り合ってはくれなかったんだ」
そうですか、と顔を暗くする彼女を元気付けるように、僕は明るく振舞った
「大丈夫だよ!僕もなんとか精霊の力を引き出せるようになるから!」
「大それた事を言うよなぁ!無能!」
教室に大きく響く声で僕を罵るのはクラスで3番手の実力者…アルベラ=二キス。弱者をいたぶる事が好きだと公言する貴族家系の彼にとって僕は格好の獲物なのだろう。
「メロウ嬢もこんな輩に慈悲を垂れるのはお辞めになっては如何かな?実力者たるもの交流する相手は選ばねばなりませんよ」
「……二キス様、お気遣いは結構です」
「これは手厳しい!はは!ですが今後はよく考えて行動した方が身のためになるかと思いますよ!」
調子付いてますます喋り出すアルベラを制すように沈黙を貫いていた一人のクラスメートが呟いた。
「……アルベラ。耳障りだ。声を抑えろ」
「は。これは申し訳ない」
素直にアルベラが従うのは一人だけ…オセロ=イカロス。クラス序列一位の男。オセロの声には従うアルベラだが、立ち去る際に僕を足蹴にしながら去っていった。恐らくだが、アルベラはヘレノースに懸想しているのだろう。彼女が僕を気にかけるのが随分と気に入らない様だ。
「うん、もう大丈夫。ありがとね」
「あまり気に病まないでくださいね……きっとアレシアさんも、精霊の力を授かれますよ!」
そう彼女と会話を交わし、僕は寮へと向かった。
ドガシャンと大音を立ててクラスメートの靴が僕の胴体へめり込む。椅子と机を押し倒しながら僕は床へ倒れ込んだ。
「ゲホッ……う、ごめん……」
「ったく……無能の癖に邪魔な場所に立ちやがって……」
卑屈に謝る僕…アレシア=ヴラドを傍目に、蹴りを入れた生徒は唾を吐きながら教室の外へ立ち去った。
ここは『魔討学園』。魔界からの侵略者を迎撃する騎士たちを育成する学園。
魔界とは僕らの暮らす現世とは違う世界。ある日世界各地に開いた次元の穴から、豊かな大地と資源を求めて魔族と呼ばれる怪物たちが侵攻を始めた。それに対抗するべく作られたのがこの学園だ。世界の秩序を保つ存在……『精霊』の力を借り、理を乱す魔を討つ。その素質ある子供たちを集め、一人前の騎士として育て上げるための学園。それがここ……『魔討学園』だ。
『またあいつか、没落貴族の……』
『何の力も無いのに、なんで通ってるんだ?』
クスクスと嘲笑が浴びせられるが、唇を噛んで堪える。今までずっとされてきた事だ。そう。僕は文字通り無力なのだ。「精霊」の力を扱えないから。
基本的に精霊は、親和性の高い人間の身体に宿る。その力を体を媒介にして世界へと顕現させる。それが騎士としての最初のステップとなる……が、クラスメートが皆成功させる中、僕だけが成功はおろか、力を感じることすら出来ていない。元騎士の家系ということもあって入学を許された僕だが、退学も時間の問題だろう。
だけど僕には退学にはなれない理由がある。……その理由のためなら、僕はいくら嘲笑われたって構わない。
「あの……アレシアくん、大丈夫?」
同じクラスの女生徒…ヘレノース=メロウが僕に声をかける。彼女は争い事が嫌いで、いじめられている僕にも手を差し伸べてくれる。
「大丈夫だよ。いつもの事だから……いつつ……」
「大丈夫って、怪我してるじゃないですか!」
そう言うと彼女は痛む腹部へ手をかざし、精霊の力を使い治療を始めた。
彼女と親和性の高い精霊は【癒】の精霊。彼女らしいいい力だと思う。希少性も高く、僕と話していても彼女が標的にならない原因のひとつでもある。
「はぁ……だいぶ楽になったよ。ありがとう」
「いえ、そんな……何も出来なくて…」
彼女は申し訳なさそうな顔をするが、彼女は何一つ悪くない。悪いのは弱い自分なのだ。
「ご家族のみなさん、お元気ですか?」
「うん。みんな元気に過ごしてるって、この間手紙を貰ったんだ」
「大事ですよね…家族は」
「あぁ。だから……僕は負けちゃいけないんだ」
魔討学園の生徒家族には支援金が交付される。とある理由から没落してしまった貴族である僕の家には、今はそれが無くてはならないのだ。母も兄弟も必死に働いているが、それでも僕が今学園を辞める訳にはいかない。負けられない。
「日に日に当たりが辛くなって行きますね……先生に相談は……」
「してみたけど僕が無能力だから…あんまり取り合ってはくれなかったんだ」
そうですか、と顔を暗くする彼女を元気付けるように、僕は明るく振舞った
「大丈夫だよ!僕もなんとか精霊の力を引き出せるようになるから!」
「大それた事を言うよなぁ!無能!」
教室に大きく響く声で僕を罵るのはクラスで3番手の実力者…アルベラ=二キス。弱者をいたぶる事が好きだと公言する貴族家系の彼にとって僕は格好の獲物なのだろう。
「メロウ嬢もこんな輩に慈悲を垂れるのはお辞めになっては如何かな?実力者たるもの交流する相手は選ばねばなりませんよ」
「……二キス様、お気遣いは結構です」
「これは手厳しい!はは!ですが今後はよく考えて行動した方が身のためになるかと思いますよ!」
調子付いてますます喋り出すアルベラを制すように沈黙を貫いていた一人のクラスメートが呟いた。
「……アルベラ。耳障りだ。声を抑えろ」
「は。これは申し訳ない」
素直にアルベラが従うのは一人だけ…オセロ=イカロス。クラス序列一位の男。オセロの声には従うアルベラだが、立ち去る際に僕を足蹴にしながら去っていった。恐らくだが、アルベラはヘレノースに懸想しているのだろう。彼女が僕を気にかけるのが随分と気に入らない様だ。
「うん、もう大丈夫。ありがとね」
「あまり気に病まないでくださいね……きっとアレシアさんも、精霊の力を授かれますよ!」
そう彼女と会話を交わし、僕は寮へと向かった。
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