15 / 15
7 期待と不穏な空気
しおりを挟む
「んっ…」
翌朝、懐かしい香りと魔力を感じる中で目が覚めたセラフィーは、自分が寝ている部屋を見て唖然とした。
『いつの間に帰ってきた…?でも身体は小さいままだぞ!?』
混乱しているとドアが開く音が聞こえ、コーヒーを2つ持ったレオが中に入ってくる。
「ブラックでいいか?」
「えっ、あぁ…ありがとう…ございます」
相変わらずの不愛想だが、レオの普段とは違う落ち着いた様子にセラフィーは眼を見張った。
「保健医が不在だからここに連れてきた。風邪と魔力切れを起こしていたから、ポーションを飲ませて《ヒール》をかけておいたぞ」
「そうですか…。ありがとうございます。お陰で助かりました」
礼を言うと、レオはコーヒーを一口飲み
「体調を調べる為にお前の魔法回路を見させてもらったんだが…恐らく一部欠損しているだろう。心当たりは?」
といきなり質問をセラフィーに投げかける。
「断定はできませんが、魔力を一気に限界まで使用した事があって…その時に壊れたのかもしれません」
「その魔力量を一気に使ったのか?」
「はい」
レオはコーヒーを見つめ、しばらく何かを考え込む。
「悪いが俺では治せない。治す方法の目星はついているのか?」
「…」
『先程からレオとの会話に違和感を感じる』
急に態度が柔らかくなった事やセラフィーの魔力量の事、レオ自らが魔法回路を治そうとした事など、違和感を感じずにはいられなかった。
『もしかして、私がセラフィーだと気付いているのか?』
急に黙り込んだ様子を見てレオに「どうした?」と聞かれたセラフィーは、余計な考えを振り払うように頭を振った。
「あの…王宮の魔法樹から一気に魔力を分けてもらえば、自分で治せると思います。ただ魔法樹に触れる機会を作るのが難しくて…」
レオは「ふむ…」と一息考えた後
「王宮の魔法樹か…。毎年高等科の卒業試験で優秀な成績を残した生徒のみ、陛下のはからいで魔法樹に触れる機会を与えてもらえる」
そう行って再びコーヒーを口にする。
「本当か!?…ですか!?」
嬉しい知らせにセラフィーは身を乗り出すと、レオはふっと笑い、セラフィーの頭に手を乗せ「本当だ」と優しく答えた。
撫でられている状況に一瞬固まった後、顔を真っ赤にするセラフィー。
「些細な事でも良い、何かあったら俺に話してくれ」
レオは切なげな目を向けて話しかけていたが、それどころではないセラフィーは、真っ赤な顔でカクカクと頷く事しかできなかった。
◇◇◇
無理をしないようにとレオに釘を刺されSクラスに向かったセラフィーは、教室の入口でデイジーの姿を見つけた。
「フィー!待ってたわ!」
デイジーもセラフィーを見つけるとパタパタと駆け寄ってくる。
「心配かけたな」
「いいのよ。治って本当に良かったわ!…でも」
言いにくそうに口をつぐんだデイジーは、セラフィーの手を引き廊下の隅へと連れて行く。
「もうあなたも気付いているかもしれないけど…ケッペル先生、貴族と平民を物凄く差別するらしいの」
恐らくその話だろうと予想していたセラフィーはコクンと頷いた。
「前回の成績で2位だったフィーが面白くないのか、もしかしたらターゲットにされるかもしれないわ…。私もできるだけ力になるから気を付けてね」
『貴族で地位もあるケッペルに対抗するなど怖いはずなのに…』
デイジーの震える手をセラフィーは優しく握ると
「私なら大丈夫だ。それにアイツとの仲も、いい加減何とかしないといけないからな」
20年前から衝突ばかり繰り返している事を思い出し、呆れ顔で笑ったのであった。
教室に入るとウィリアムが「フィー!」と声をかけてきた。
「もう体調は大丈夫なのか?」
セラフィーは「大丈夫です」と答えお礼を言うと、ウィリアムはそっとセラフィーの耳元に近づき、周囲に聞こえない声で話しかけてきた。
「ケッペル先生は私も何とかしなければと思っているが、私の前では本性を出さず中々証拠が掴めないのだ…。」
ケッペルの本性を知っているのは平民の生徒だけだと思っていたセラフィーは目を見開いた。
「私は明日から公務の為、3日間ほど王都を離れる。その間十分気を付けてくれ」
ウィリアムは耳元から離れるとセラフィーの肩にポンと手を乗せ、踵を返し自分の席に戻っていった。
『間違いなく厄介な事になるな』
あのケッペルがこの機会を逃すはずはないと考えたセラフィーは、眉間にシワを寄せ「はぁ」と溜め息を吐いた。
翌朝、懐かしい香りと魔力を感じる中で目が覚めたセラフィーは、自分が寝ている部屋を見て唖然とした。
『いつの間に帰ってきた…?でも身体は小さいままだぞ!?』
混乱しているとドアが開く音が聞こえ、コーヒーを2つ持ったレオが中に入ってくる。
「ブラックでいいか?」
「えっ、あぁ…ありがとう…ございます」
相変わらずの不愛想だが、レオの普段とは違う落ち着いた様子にセラフィーは眼を見張った。
「保健医が不在だからここに連れてきた。風邪と魔力切れを起こしていたから、ポーションを飲ませて《ヒール》をかけておいたぞ」
「そうですか…。ありがとうございます。お陰で助かりました」
礼を言うと、レオはコーヒーを一口飲み
「体調を調べる為にお前の魔法回路を見させてもらったんだが…恐らく一部欠損しているだろう。心当たりは?」
といきなり質問をセラフィーに投げかける。
「断定はできませんが、魔力を一気に限界まで使用した事があって…その時に壊れたのかもしれません」
「その魔力量を一気に使ったのか?」
「はい」
レオはコーヒーを見つめ、しばらく何かを考え込む。
「悪いが俺では治せない。治す方法の目星はついているのか?」
「…」
『先程からレオとの会話に違和感を感じる』
急に態度が柔らかくなった事やセラフィーの魔力量の事、レオ自らが魔法回路を治そうとした事など、違和感を感じずにはいられなかった。
『もしかして、私がセラフィーだと気付いているのか?』
急に黙り込んだ様子を見てレオに「どうした?」と聞かれたセラフィーは、余計な考えを振り払うように頭を振った。
「あの…王宮の魔法樹から一気に魔力を分けてもらえば、自分で治せると思います。ただ魔法樹に触れる機会を作るのが難しくて…」
レオは「ふむ…」と一息考えた後
「王宮の魔法樹か…。毎年高等科の卒業試験で優秀な成績を残した生徒のみ、陛下のはからいで魔法樹に触れる機会を与えてもらえる」
そう行って再びコーヒーを口にする。
「本当か!?…ですか!?」
嬉しい知らせにセラフィーは身を乗り出すと、レオはふっと笑い、セラフィーの頭に手を乗せ「本当だ」と優しく答えた。
撫でられている状況に一瞬固まった後、顔を真っ赤にするセラフィー。
「些細な事でも良い、何かあったら俺に話してくれ」
レオは切なげな目を向けて話しかけていたが、それどころではないセラフィーは、真っ赤な顔でカクカクと頷く事しかできなかった。
◇◇◇
無理をしないようにとレオに釘を刺されSクラスに向かったセラフィーは、教室の入口でデイジーの姿を見つけた。
「フィー!待ってたわ!」
デイジーもセラフィーを見つけるとパタパタと駆け寄ってくる。
「心配かけたな」
「いいのよ。治って本当に良かったわ!…でも」
言いにくそうに口をつぐんだデイジーは、セラフィーの手を引き廊下の隅へと連れて行く。
「もうあなたも気付いているかもしれないけど…ケッペル先生、貴族と平民を物凄く差別するらしいの」
恐らくその話だろうと予想していたセラフィーはコクンと頷いた。
「前回の成績で2位だったフィーが面白くないのか、もしかしたらターゲットにされるかもしれないわ…。私もできるだけ力になるから気を付けてね」
『貴族で地位もあるケッペルに対抗するなど怖いはずなのに…』
デイジーの震える手をセラフィーは優しく握ると
「私なら大丈夫だ。それにアイツとの仲も、いい加減何とかしないといけないからな」
20年前から衝突ばかり繰り返している事を思い出し、呆れ顔で笑ったのであった。
教室に入るとウィリアムが「フィー!」と声をかけてきた。
「もう体調は大丈夫なのか?」
セラフィーは「大丈夫です」と答えお礼を言うと、ウィリアムはそっとセラフィーの耳元に近づき、周囲に聞こえない声で話しかけてきた。
「ケッペル先生は私も何とかしなければと思っているが、私の前では本性を出さず中々証拠が掴めないのだ…。」
ケッペルの本性を知っているのは平民の生徒だけだと思っていたセラフィーは目を見開いた。
「私は明日から公務の為、3日間ほど王都を離れる。その間十分気を付けてくれ」
ウィリアムは耳元から離れるとセラフィーの肩にポンと手を乗せ、踵を返し自分の席に戻っていった。
『間違いなく厄介な事になるな』
あのケッペルがこの機会を逃すはずはないと考えたセラフィーは、眉間にシワを寄せ「はぁ」と溜め息を吐いた。
0
お気に入りに追加
40
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。
しげむろ ゆうき
恋愛
男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない
そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった
全五話
※ホラー無し
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
全部、支払っていただきますわ
あくの
恋愛
第三王子エルネストに婚約破棄を宣言された伯爵令嬢リタ。王家から衆人環視の中での婚約破棄宣言や一方的な断罪に対して相応の慰謝料が払われた。
一息ついたリタは第三王子と共に自分を断罪した男爵令嬢ロミーにも慰謝料を請求する…
※設定ゆるふわです。雰囲気です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる