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7 期待と不穏な空気

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「んっ…」

翌朝、懐かしい香りと魔力を感じる中で目が覚めたセラフィーは、自分が寝ている部屋を見て唖然とした。

『いつの間に帰ってきた…?でも身体は小さいままだぞ!?』

混乱しているとドアが開く音が聞こえ、コーヒーを2つ持ったレオが中に入ってくる。

「ブラックでいいか?」

「えっ、あぁ…ありがとう…ございます」

相変わらずの不愛想だが、レオの普段とは違う落ち着いた様子にセラフィーは眼を見張った。

「保健医が不在だからここに連れてきた。風邪と魔力切れを起こしていたから、ポーションを飲ませて《ヒール》をかけておいたぞ」

「そうですか…。ありがとうございます。お陰で助かりました」

礼を言うと、レオはコーヒーを一口飲み

「体調を調べる為にお前の魔法回路を見させてもらったんだが…恐らく一部欠損しているだろう。心当たりは?」

といきなり質問をセラフィーに投げかける。

「断定はできませんが、魔力を一気に限界まで使用した事があって…その時に壊れたのかもしれません」

「その魔力量を一気に使ったのか?」

「はい」

レオはコーヒーを見つめ、しばらく何かを考え込む。

「悪いが俺では治せない。治す方法の目星はついているのか?」

「…」

『先程からレオとの会話に違和感を感じる』

急に態度が柔らかくなった事やセラフィーの魔力量の事、レオ自らが魔法回路を治そうとした事など、違和感を感じずにはいられなかった。

『もしかして、私がセラフィーだと気付いているのか?』

急に黙り込んだ様子を見てレオに「どうした?」と聞かれたセラフィーは、余計な考えを振り払うように頭を振った。

「あの…王宮の魔法樹から一気に魔力を分けてもらえば、自分で治せると思います。ただ魔法樹に触れる機会を作るのが難しくて…」

レオは「ふむ…」と一息考えた後

「王宮の魔法樹か…。毎年高等科の卒業試験で優秀な成績を残した生徒のみ、陛下のはからいで魔法樹に触れる機会を与えてもらえる」

そう行って再びコーヒーを口にする。

「本当か!?…ですか!?」

嬉しい知らせにセラフィーは身を乗り出すと、レオはふっと笑い、セラフィーの頭に手を乗せ「本当だ」と優しく答えた。

撫でられている状況に一瞬固まった後、顔を真っ赤にするセラフィー。

「些細な事でも良い、何かあったら俺に話してくれ」

レオは切なげな目を向けて話しかけていたが、それどころではないセラフィーは、真っ赤な顔でカクカクと頷く事しかできなかった。



◇◇◇



無理をしないようにとレオに釘を刺されSクラスに向かったセラフィーは、教室の入口でデイジーの姿を見つけた。

「フィー!待ってたわ!」

デイジーもセラフィーを見つけるとパタパタと駆け寄ってくる。

「心配かけたな」

「いいのよ。治って本当に良かったわ!…でも」

言いにくそうに口をつぐんだデイジーは、セラフィーの手を引き廊下の隅へと連れて行く。

「もうあなたも気付いているかもしれないけど…ケッペル先生、貴族と平民を物凄く差別するらしいの」

恐らくその話だろうと予想していたセラフィーはコクンと頷いた。

「前回の成績で2位だったフィーが面白くないのか、もしかしたらターゲットにされるかもしれないわ…。私もできるだけ力になるから気を付けてね」

『貴族で地位もあるケッペルに対抗するなど怖いはずなのに…』

デイジーの震える手をセラフィーは優しく握ると

「私なら大丈夫だ。それにアイツとの仲も、いい加減何とかしないといけないからな」

20年前から衝突ばかり繰り返している事を思い出し、呆れ顔で笑ったのであった。



教室に入るとウィリアムが「フィー!」と声をかけてきた。

「もう体調は大丈夫なのか?」

セラフィーは「大丈夫です」と答えお礼を言うと、ウィリアムはそっとセラフィーの耳元に近づき、周囲に聞こえない声で話しかけてきた。

「ケッペル先生は私も何とかしなければと思っているが、私の前では本性を出さず中々証拠が掴めないのだ…。」

ケッペルの本性を知っているのは平民の生徒だけだと思っていたセラフィーは目を見開いた。

「私は明日から公務の為、3日間ほど王都を離れる。その間十分気を付けてくれ」

ウィリアムは耳元から離れるとセラフィーの肩にポンと手を乗せ、踵を返し自分の席に戻っていった。

『間違いなく厄介な事になるな』

あのケッペルがこの機会を逃すはずはないと考えたセラフィーは、眉間にシワを寄せ「はぁ」と溜め息を吐いた。
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