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郊外の一軒家

はじめての……にじゅうなな

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約半年、雪兎は俺を避けてきた。いや、目を封印されてしばらくの間は俺と雪風でつきっきりになっていたから、正確には半年からその期間を抜いた日数だ。

封印を解かれた後、雪兎は俺を避けた。見つめたモノを何でも破壊してしまうとんでもない超能力で、俺を殺してしまわないように。それは俺を愛しているからだと最初は思っていた、でもそれなら見ないようにすればいいだけなのに触れてもくれないし話もすぐに切り上げてしまうから、あぁ俺は嫌われたんだと──理由はきっと誘拐犯をあっさり殺してみせたことだと──そう、勘違いした。

「ごめんね、ポチ……君が自殺しようとするほど思い詰めてたなんて僕本当に気付かなかったんだ。寂しかったんだよね、毎日言ってくれてたよね……犬の不調に気付けないなんて飼い主失格だよ」

「……ユキ様、質問よろしいでしょうか」

「いいよ、なぁに」

雪兎は今、床に正座をして俺の頭を膝に乗せ、背を丸めて俺の頭を抱き締めている。まだ俺のことを見ないようにしているのだろうか。

「どうして俺に触れてくれなくなっていたんですか? 話すらしてくれなくて……俺」

俺のことを避けていた頃、雪兎は私室から俺を追い出さず自身もまた部屋を移ろうとはしなかった。だからこそ苦しかった、初めの頃は顔を隠していたって全身が愛らしい雪兎を眺められるならと耐えていたけれど、同じ空間に居るのに半分無視されたような状態で半年近く過ごして、俺の精神はとっくに限界を迎えていた。

「……息、上手く出来なかったんです。話しかけても、話しかけても無視で……たまにため息とか返ってきて、心臓が爆縮したような錯覚とかもありましたよ」

雪兎と過ごした半年間が俺に強いストレスを与えていたと、今更気付いた。雪兎のことをストレスに感じるなんてありえないと考えていたから、今の今まで気付けなかったんだ。

「…………肉眼で見たかったんだ、ポチのこと。でも危ないからダメだろ? 我慢してるのにポチ話しかけてきて……どんな顔でお話してくれてるのか見たくなっちゃうから、話しかけられるの嬉しかったけど嫌だったんだ。スキンシップもそう、ポチが見たくなるからダメで……ごめんねポチ。僕、自分が耐えることに必死で、僕が無視したら君が傷付くことちゃんと考えれてなかった、分かってたつもりだったけど分かってなかった」

雪兎は俺の頭を抱き締めるのをやめ、俺の頭を撫で始めた。髪に手櫛をかけてくれている。

「ひいおじいちゃんはカメラ越しでも人の傷治せるよね? 僕もそうかもって怖くて、カメラも中々見れなかったんだけど……タブレットの縁のとこを注視してポチが映ってる画面は視界の端でぼんやり見るって技、最近編み出したばっかなんだよ」

雪兎に愛されていることが分かって安心したせいか、眠ってしまいそうだ。ダメだ、せっかく雪兎が久しぶりに話してくれているんだから。ちゃんと起きていろ。

「……カメラもダメって諦めなくてよかった。諦めてたら、今日もカメラ見ずに今もずっと訓練してて……ポチ、死んじゃってたかもだもんね」

髪を撫でる手が止まった。

「ねぇ、ポチ……僕が嫌ったら、君死んじゃうの? 雪風は君のこと大好きなんだよ? 國行くんもすごく懐いてるんだよね? おじいちゃんにも信頼されてるし……たとえ僕に嫌われても、ポチが生きる意味は」

「ありません」

眠気が吹っ飛んだ。床に手をついて上体を起こし、雪兎の目を真正面から見つめた。

「さっき言ったじゃないですか、犬にとって飼い主は神だって。神様に見捨てられたのなら生きている意味なんてないじゃないですか……」

「……雪風、怒るよ」

「ユキ様は笑ってくれましたね、ならいいです」

「だって僕は嬉しいもん。僕以外に好きな人出来るのすごく嫌だったけど、僕はポチの中で格が違うんだなーって分かった」

「……申し訳ないとは思いますよ。雪風には。多分悲しませるし……俺だって雪風とずっと一緒に居たい、置いて逝くなんて嫌です。でもしょうがないじゃないですか、ご主人様に嫌われたら消えるしかない」

「ふふふっ……絶対絶対、何があっても嫌いにならないから、ポチはずーっと消えないよ。僕と雪風と一緒に居るんだよ」

赤紫の瞳と上手く目が合わない。俺の後ろにあるベッドでも見ているのだろう、先程カメラがどうこうと説明してくれた暴発対策なのだろうか。

「…………はい!」

時々目は合うけれど、そうすると雪兎は慌てて違うところを見る。以前のように過ごせるようになるまでには長い時間が必要かもしれない。
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