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郊外の一軒家

はじめての……にじゅういち

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動物病院に猫を連れて行き、面倒な手続きなどを済ませ、頭や腕に包帯巻いた男と合流した。

「猫どうお?」

「ちょっと弱ってただけで、重大な怪我とか病気はないみたいですよ。あなたは大丈夫なんですか? 随分早かったですね」

車に撥ねられて頭を打ったのだから精密検査をされるだろうに、それを済ませてきたとは思えない早さで男は動物病院に顔を出した。

「手当て終わったっぽいから逃げてきた~。猫気になるしぃ~……今お金持ってなかったからぁ」

「……病院大騒ぎでしょうね」

頭を打ったけれど大したことはないと放置した結果、数時間後に急死したという話はよく聞く。脳は繊細なのだ。彼を足がかりにヤクザを乗っ取ろうとしているのに、今死なれては困る。

「猫ちゃんは俺がお家に届けてきますよ。今すぐ病院に戻ってください」

「え~……でも~、兄ぃがぁ、猫アレルギーでぇ~……嫌がるからぁ~……勝手に捨てられるかも、あ、弟に渡しといて。髪長くてぇ~、甘えん坊な子~」

「……ご兄弟が居らっしゃるんですね」

兄弟分なのか、本当の兄弟なのか。後者だとすれば彼は若頭ではないかもしれない。まぁそれも猫を手土産に事務所に乗り込めば分かる話だ。

「病院行くまでに連絡しといてくださいね」

「は~い」

買ったばかりのキャリーバッグに猫を詰め、男と別れて穂張興業の事務所へ。まさか今日足を踏み入れることになるとはな……覚悟だけはしておくか、常備している拳銃と警棒、小刀にすぐ手を伸ばせるようにしておこう。

「……こんにちは」

応対はまずは下っ端、男からの連絡があったはずだと告げると彼の兄弟だという男達が現れた。彼らのうちどれか、おそらく長男が若頭だ。

「兄貴また猫拾ったんだ。撥ねられるのも何回目かな……無事そう? そ、ならよかった」

「……っ、くしゅんっ、相変わらず困ったガキっ、くしゅっ、はぁ……えぇと、お名前は?」

「…………若神子 雪也です」

「若神子……!? あっ……くしゅっ、えっと……若神子、さん。本日は弟がご迷惑をおかけしっ、はぁ……すいません、猫アレルギーで、失礼を……くしゅっ」

「いえ……」

今日のところはお互い忙しいだろうから、また後日と適当に切り上げて事務所を後にした。これで繋がりは出来た、後は誰が若頭なのか見抜いて、交流を深めて、現組長を始末して、若頭を組長にして裏から操る。これが計画の筋だ。

「…………」

若神子製薬の社長秘書として正式に働くようになったら、俺の自由に出来る金は増える。今はガバガバな計画も金さえあれば綿密になっていくだろう。殺しや死体の処理でも強要させれば繋がりは切れなくなる、それを使ってもいい。その人間の調達はどうするのか? 俺の実の叔父……國行の父親辺りでいいだろう、機会を見て殺そうと思ってたところだ。

「國行ぃ~、久しぶりぃ」

猫とヤクザの一件のせいで予定より数時間遅れての到着。玄関前で俺を待っていた國行は潤んだ目を擦り、俺に抱きついた。

「…………待ってた。来ないかと、思った」

「ごめんな、ちょっと目の前で人が撥ねられてさぁ。警察とか病院とかでゴタゴタしちゃった」

「…………! 兄ちゃん、ぶじ?」

「お兄ちゃんは見ただけで事故に巻き込まれてはないから大丈夫だぞ」

「……………………違う。兄ちゃん……警察、よくない……かなって」

「あぁ、そっちか。確かに警察は嫌いだし、昔何回か追われたし、一回ここの裏で記者殴って捕まったけど……今はもう大丈夫だ」

「…………よかった。兄ちゃん、一緒にご飯食べよ」

「おう、何食べたい? この辺りの美味そうな店お兄ちゃん調べてきたんだ~」

可愛い従弟と過ごせる至福の時間。今だけはヤクザ組織乗っ取り計画も、雪兎のことも、全て忘れよう。今の俺はいい従兄の真尋だ。雪也でもポチでもない。
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