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郊外の一軒家

はじめての……じゅうご

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俺と雪兎が殺人初体験をした日から、半年経ったかという頃。俺は結構強くなったし、雪兎も能力の扱いが上手くなった。けれど未だに雪兎は俺に目を見せてくれない。

「おはようございます、ユキ様」

「……おはよう、ポチ」

眠る場所も別々のままだ。 雪兎は狐面に細工がよく似たオーダーメイドらしい兎の面をつけている。普段は頭の上に乗せるようにしているが、俺が近付くと面を下ろして顔を見せてくれないのだ。今もそう。俺は前を見るための穴が空いていない面に向かって挨拶をしなければならない。毎朝毎夜の挨拶をさせてくれるだけでも進歩した方なのだが、俺の欲望は止まらない。以前は四六時中一緒だったのだから当然と言えばそうなのだが、自分の欲深さが嫌になることが最近は多い。

「今日は僕、雪風の仕事手伝うから……」

雪兎は最近、家業であるオカルト関係の仕事の手伝いをしている。雪風に同行し、色々と学んでいるらしいのだ。俺も……と何度か見学を願ったのだが、今のところ受け入れられていない。

「行ってらっしゃいませ、ユキ様。俺の同行を許す気になりましたら、いつでもお申し付けください」

「だめ。でも、うん……ううん、なんでもない。またね、ポチ」

雪兎の見送りを終えた俺はいつも通り訓練へ──ではなく、祖父の元へ向かった。雪風の父でありながら雪兎と同年代、下手をすれば歳下にも見える幼い見た目の彼の元へと。

「ただいま参上致しました、おじい様」

別棟に住む彼と顔を合わせたのはいつぶりだろう。

「来たか。雪也、近頃雪兎が雪風の仕事に同行してるのは知ってるな? 引き継ぎが始まったんだ。まぁ雪風は引退する訳じゃないが……」

「はい、今朝も出かけて行かれました」

「……雪風は攻撃的な能力を持ってない。俺も、親父もな。その上俺は半身不随、親父は貴重な治癒能力だから滅多なことじゃ山から出せない」

回復要員は安全な場所で待機、ゲームでもアニメでもよくある扱いだ。曽祖父のようにリモート回復が可能ならますます彼を家から出す理由がなくなる。

「雪兎は数代ぶりの攻撃系だ、雪風よりも危険な仕事を割り振られる可能性は高い。雪風に振られる仕事は基本、荒ぶった土地神や堕ちた神性と対話し鎮めることだが……雪兎はおそらく、災害や害獣でしかない会話不可能の怪異の討伐に出される、これは俺じゃどうしようもない」

俺にとっては絶対で、こんな山奥で豪勢な家を建てている若神子家にも、逆らえないクライアントは居るらしい。

「……雪也、訓練の成果は聞いてる。あらゆる環境でのサバイバル、狙撃、白兵戦、その他諸々……ほぼ極まったとな。ここまで才能に溢れた若者を見たの初めてだと喜んでいたよ」

「ありがとうございます」

「お前にはこれから対怪異の訓練を始めてもらう。講師は俺だ。異論は?」

「ありません、よろしくお願いします」

「当然の返事だな。じゃあまずは……怪異とは何か、霊力とは何か、基本の知識を身に付けてもらう、明日までにそれを頭に叩き込め。一言一句忘れるな」

祖父は彼の机の横に置かれた台車の上に積まれた百冊以上の分厚い本を指した。

「分かりました」

「あぁ、じゃあ明日……今日と同じ時間に」

俺は台車を押して部屋に帰った。幸い、全て日本語の本のようだ。外国語は一切分からないから助かる。

「…………」

ベッドに寝転がり、本を開いた。



翌朝、俺は台車を押して祖父の居る棟へ向かった。台車と本は彼の部屋に入る前に使用人に回収された。

「おはよう、雪也。本は全て読めたか?」

「はい」

「……理解したか?」

「頭では」

「いくつか問題を出す。軽い確認だ」

祖父はそれから五問ほど俺に問題を出した。文章に目を通しただけでは答えられない、応用の必要な難しい問題ばかりだった。その上、俺が答えた後祖父は正解とも不正解とも言わず次の問題を出すのだ。緊張が高まっていく。

「…………なるほどな。だいたい分かった。では最後に……この本」

祖父は机の上に置いてあった古びた本を差し出した。

「初版だ。お前に渡したのは改訂版。今初版を読んで、改められたのはどこか答えてみろ」

「……はい」

本を受け取り、まずは読んだ。

「ところどころ言葉が修正されてますね。今は使用禁止の差別用語とか……それと、伝承の怪物は全て存在するという論から、その伝承を聞いた人間の念によって形成された怪異も多いという論に変わった…………後は旧字体とか、その辺ですかね」

「……正解。早速今日から訓練に移る。俺を運べ、案内は使用人にさせる」

移動中、祖父は嬉しそうに口角を上げ、俺が一晩で全てを理解すると思ってはいなかった、無茶振りをしてみたんだということを話してくれた。
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