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郊外の一軒家

はじめての……ご

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ほどなくして黒いスーツ姿のサングラスをかけた男達が大勢やってきた。俺は咄嗟に雪兎を庇いながら拳銃を構えたが、すぐに彼らのスーツに付いた印を見て拳銃を下ろした。

「……っ、う……」

アドレナリンが消していた痛みが戻ってきた。

「ポ、ポチ? ポチ大丈夫っ? 痛い? ねぇ早く手当て……あっ、ひいおじいちゃん、ひいおじいちゃんに電話して!」

膝がガクガク震え始めた、視界も歪んでいる。意識が飛びそうだ。でも、ダメだ、まだ雪兎の安全が確保出来ていない。たった今賊の補充が行われるかもしれない。

「もしもしひいおじいちゃんっ!? 治して欲しいのっ、ポチの怪我……! 酷い怪我だから、その……すごく痛いと思うけど、お願い……」

もし敵に増援があったとしても、満身創痍の俺がどうこう出来るとは思えないが、それでも──

「ポチ! 見て、見える? 目大丈夫? 見て、お願い!」

歪む視界が一つの物を明確に捉えた。雪兎が突き出したスマホの画面だ、雪兎に見ろと言われれば頭を殴られ目を回していてもピントが合う。人間の身体の常識さえ無視する忠誠心が誇らしくなった。

「……っ、え……? ぁ……ひいおじい様? あ、ありがとうございます!」

痛みが引いた、傷が消えた、意識がとびそうな感覚もなくなった。俺は俺から移した痛みに顔を顰める曽祖父に深く頭を下げた。

『…………何があったかの報告は後で聞くよ』

ビデオ通話が終了させられた。雪兎はスマホを握ったまま俺に抱きつき、声を上げて泣き始めた。

「ポチさん、傷は……」

「治癒して頂きました。ご覧の通り今は無傷です、疲労感はありますが動けます。つまり俺は無問題、それよりもこの状況から脱する方法を」

「はい、今ヘリがこちらに向かって──」

ババババ……と大きな音が聞こえてきた。ヘリの音だ。開かれた扉から風が吹き込んでくる。

「──あっ、到着しました」

「撃ち落とされたりしませんよね?」

「えっ!? し、しないと思いますけど」

ヘリがロケットランチャーだとかで撃ち落とされるのはゲームではよくあることだ。

「着陸させずに梯子下ろしてください。ありますよね縄梯子」

「えっ? は、はい……そのように」

使用人に連絡してもらうと縄梯子が下りてくるのが扉から見えた。

「…………狙撃の可能性は?」

「……すみません、分かりません」

「この場に残るのもまずい……でも…………ユキ様、一旦離れてください」

「……? なぁに、ポチ……」

ぐすぐすと鼻を鳴らしながら雪兎がゆっくりと俺から一歩離れる。俺は雪兎に頂いた羽織を脱ぎ、雪兎に頭から被せた。

「ライフル弾を防げるとは思えませんが……まぁ、ないよりはマシでしょう」

「ポチ? なんで……ポチのだよ? これ……これすごく、丈夫で」

「だからユキ様が着ていてください」

「……! や、やだっ! ダメ! これポチのっ、ポチが怪我しないようにって僕!」

「ユキ様、一刻を争います。従ってください」

普段足蹴にして従わせている俺にそう言われて、雪兎は目に涙を浮かべたままながら微かに頷いた。

「では、ヘリに」

俺は雪兎を抱き上げ、縄梯子に走った。対面で雪兎を抱くのではなく、雪兎の後頭部が見えるように抱いた。雪兎に掴まってもらえないから俺の負担は大きいが、もし俺に何かが起こって……そうたとえば狙撃なんかされて梯子を掴んでいられなくなったら、雪兎に抱きつかせていたら雪兎ごと落ちてしまう。この抱き方なら俺が落ちても雪兎はギリギリ梯子に掴まれるだろう、梯子を登りながら雪兎にその考えを説明した。

「ポチのバカぁ……」

雪兎はもしもの際に俺が俺を犠牲にしようとしているのが気に入らなかったようで、無事にヘリに辿り着いた後もずっと泣いていた。
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