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郊外の一軒家

すりっぷ、さん

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スリップと呼ぶらしい女性用下着は足の付け根まで程度の丈で、俺にはキャミソールなどとの違いがよく分からなかった。渡されてすぐ見た時も、鏡の前に立った今も、その違いは分からない。

「…………」

細い肩紐に吊るされた布は透けていて、仄かな白の下の褐色を隠さない。レース刺繍が胸元と腰周りだけ濃くなっているから乳首と陰茎は辛うじて見えていない。まぁ、ちょっとでも動けば見えそうだからそんな気遣い無意味なのだけれど。

「ポチ? 気に入った?」

鍛え上げた胸筋は半分ほど見えていて、谷間が強調されているように感じた。首筋から鎖骨、肩や谷間などの骨と筋肉の具合はなかなか格好よくなっていると自負してはいるが、女性用下着で飾り立てられると滑稽にしか見えない。

「………………はい、気に入りました。ありがとうございます、ご主人様」

フリルなどはない落ち着いた清楚なデザインに、シースルーというセクシーな素材。女体の為に作られたこの下着と俺の無骨な肉体のアンバランスさが気持ち悪い。

「うんうん、よく似合ってるもんね。気に入らない方がおかしいよ」

俺は全身ガッチガチに筋肉をつけてしまいたいのに、雪兎がせめて尻と太腿だけは脂肪を残せと言うのでそのようにしているのだが、それが裏目に出ている。レース刺繍の可愛らしい裾から伸びた太腿がむっちりしているのが、鎖骨周りに比べて男らしさが損なわれている身体なのが、女装が似合わない男としての統一感すらも失わせている。

「似合ってるんですか……?」

筋骨隆々の男が女性らしさ全開の下着を着ているというだけならまだギャグになるのに、尻と太腿がむちっとした男が抱きたくなる身体に中途半端になっているのがよくない。ギャグにすらならない。

「分かんない? すごくよく似合ってるよ」

「気持ち悪い変態って感じだと思うんですけど……」

「やだなぁ、ポチは変態じゃないか」

「似合うとか可愛いとか言っちゃうユキ様もですよ」

もうこれ以上鏡を見ていたくない。顔ごと鏡から逸らして雪兎を見下ろす。雪兎は愛おしげに俺を見つめて微笑んだまま両手で俺の脇腹に触れた。

「……っ、ユキ様……? あの、何を」

「お腹透けててセクシーだなーって。流石に腹筋の溝までは見えないけど、お臍の位置は分かるね」

四本の指を脇腹に添えたまま、親指だけを臍に突っ込む。シースルー越しに触れられるとくすぐったくて身をよじってしまう。

「ふふっ、ほーんと買ってよかったなぁ……」

「……ユキ様が喜んでくださったならよかったです」

心の底から浮き上がってきた本当の言葉だ。どれだけ屈辱的な格好だろうと雪兎が喜ぶのならそれでいい、それが俺の本心だ。

「…………あの、もう脱いでも? もう、結構見ましたよね」

だが、早く脱ぎたいのも本心だ。

「せっかく着たのにもう脱ぎたいの?」

「ぁ……いや、その」

「ダメだよ、ポチは今日一日はそれ着て過ごすの。まずは朝ごはんだよね、行こうか」

今日一日と言われただけなのに俺は夜にでも雪兎は俺を抱く気なのだろうと察してしまった。

「……はい」

首輪の紐を引かれて雪兎に着いていく。雪兎はやはりとても上機嫌で、喜ばない俺がおかしいのだろうかと考え始めた。
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