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郊外の一軒家

すりっぷ、いち

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雪兎に抱かれた次の日の朝、俺は後孔の幸せな違和感に恍惚としていた。腰と太腿に残る微かな疲れや、締められ犯された喉の痛みもまた幸福だ。

「ポーチー、顔洗った?」

バスローブだけを着て洗面所で身嗜みを整えていると、俺よりも先に起きて朝の支度を終えていた雪兎が洗面所に入ってきた。

「ユキ様、はい、今ちょうど」

顔を拭くのに使ったタオルから手を離し、子供らしい丸みのある瞳で俺を見上げている雪兎の方を向く。

「……随分薄着ですね。寒くはありませんか?」

ノースリーブのトップスに下着のような丈の短パン、靴下は履かずにスリッパを直に履いている。

「犬は飼い主の歩幅に合わせて歩いたり、飼い主より後で食事したりしなきゃダメだよね? でも気温やカーペットなんかの環境は犬に合わせなきゃダメなの」

「はぁ……すいません、読解力がありませんで」

質問に答えてくれたのだろうか、それすらもよく分からない。高校にもまともに通っていない俺に飛び級で現在大学生の雪兎の会話相手は務まらないのだろうか。

「ポチに薄着させるから空調ちょっと高めに設定してるんだけど、昨日普通の服着てた時暑かったから今日は薄着」

「なるほど……」

俺としては嬉しい限りだ。雪兎が俺のことを考えてくれているのはもちろん嬉しいのだが、それ以上に露出度の高い雪兎の姿を見られるのが嬉しい。

「似合う? この服。変じゃない?」

足を閉じても内腿同士が触れ合うことのない細い太腿は陶器のように白く、つるんとしている。頼りない膝小僧も、少年らしいふくらはぎも、出っ張ったくるぶしも、何もかも最高だ。スリッパを脱いで爪先を見せて欲しい。

「はい、とってもよくお似合いです」

裸になった時くらいにしか見ることの出来ない肩が、服を着ているのに見えているという興奮。脂肪も筋肉も少ないのに子供らしくぷにっとした二の腕、曲げれば尖る肘に、そこから指先までの完璧な長さと肉付き。

「ユキ様はどんな服でも似合います……!」

きっと雪兎の各部位の長さや曲がり具合を測っていけば、黄金比だとかが大量に見つかるだろう。数学にも芸術にも詳しくはない俺には確かめようはないけれど、雪兎の美がどこからどう見ても確固たるものであることを確信している。

「ふふ、目がいやらしいなぁ……ちょっと肌出したからって、もう、ポチのえっち」

「そんなっ、俺は長袖長ズボンのユキ様も視姦しています!」

「反論の仕方それで合ってるの? ふふ、知ってるよ。ポチの気持ちは分かってる、伝わってる、だから僕は幸せなんだ」

手招きをされて洗面所から出る。勉強机に付属したキャスター付きの椅子に腰を下ろした雪兎の前に跪き、幸せそうに歪む赤紫の瞳を見つめ返す。

「何をやっても、どうなっても、どこでも、どんな時でも、自分を愛し続けて存在を肯定し続けてくれる人が居る……それがどんなに幸せなことか分かる? どんな憂いも君の存在には敵わないの……」

後頭部に手を添えて引き寄せられ、膝立ちになって雪兎の太腿の上に頭を乗せる。すべすべの太腿に頬擦りをすると反対側の頬を撫でられた。

「ポチ……僕の幸福。愛してる」

優しい眼差しを注いで俺の頬を撫でた雪兎は、徐に立ち上がると何か薄い布を取ってきた。

「……それは?」

白っぽいシースルーの……なんだろう、レース刺繍もある、服かな? 服っぽいな。

「キャミソールってヤツですか? 大きいですねー、ユキ様が着たらワンピースになっちゃいますね」

「ポチ用だもん。あとこれキャミじゃなくてスリップだよ」

「スリップ……? 毎ターンダメージ入るやつ……? 俺用? えっ俺……俺!? こ、このスケスケのっ、明らかに女性向けのこれが!?」

「ポチのサイズで作ってるんだよ。着て着て」

笑顔を浮かべた雪兎からのお願いを断る権利を持ち合わせる人間なんてこの世に存在しない。俺は無骨な褐色の手を震わせながら白いシースルーのスリップと呼ばれるらしい下着を受け取った。
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