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雪の降らない日々

たんじょーびぱーてぃ、ご

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懐かしいとり天の味、上等なローストビーフの口どけ、肉汁の輝きが宝石のように思えてくる肉厚のステーキ、その他極上の料理達……肉尽くしのそれらに俺は舌鼓を打った。打ちまくった。それはもう舌が腫れるくらいに。

「ごちそうさまでした……」

若神子家に引き取られてからいい物ばかり食べてきたけれど、その中でも別格だった。今日世界が終わると言われても納得出来るほどに美味かった。

「美味かったな! けどよ真尋ぉ、次はケーキだぜ」

空っぽの皿が使用人によってワゴンに積まれていく。別の使用人が俺達の前に新しい皿とフォークを置き、また別の使用人が机の真ん中にケーキを置いた。

「あ、こっからは自分でやるよ。ありがとな」

使用人を下がらせた雪風は子供っぽい笑顔を浮かべたまま蝋燭を取り出した。カラフルで細いその蝋燭は全部で二十本あるらしい。

「お前今日で十九だっけ? まだ酒飲めねぇのか」

「十九歳なら飲んでもいいんじゃない?」

「親父、もっぺん法律勉強し直せ」

「法律を無視すれば酒を飲んでいいかどうかは身体が成長してるかどうかだろ? つまり君は一生飲めない」

怒る祖父をよそに雪風は十九本の蝋燭をケーキに立て、火をつけた。

「よし、じゃあ灯り消して……ぁ、いや」

「灯りはこのままでいいな。歌うか」

「え? なんで? 明るいままじゃ蝋燭の火の雰囲気出ないよ?」

「親父は秋夜以外のことも覚える気を持て」

雪風と祖父は俺の暗所恐怖症のことを考えてくれているようだ。ありがたいけれど、申し訳ないし自分が情けないな。

「はっぴばーすでーとぅーまーひろぉー」

「ゆきや~……あれ?」

「俺達は雪也でいいぞ、親父」

煌々と輝く電灯の下、雰囲気を演出出来ていない蝋燭の火が揺れる。笑顔で誕生日パーティ定番の歌を歌ってくれる三人の笑顔と視線は俺に注がれていて、幸せだけれど少し照れくさくなってきた。

「ほら真尋ぉ、早く吹けよ」

「分かってるって」

急かす雪風に笑顔を返し、カラフルな蝋燭の火に息を吹きかける。全ての火があっさりと消え去ると三人は俺に拍手を送る。

「いぇーい、じゃ、切るか。四等分な」

「あ、待って、撮りたい」

切り分けられる前に写真を撮り、チョコで作られた白鳥の飾りの繊細さにため息をつく。俺が雪風の誕生日の時に作ったケーキの稚拙さが今になって恥ずかしくなってきた。

「いいか? 切るぞ?」

「うん」

生チョコクリームに覆われたスポンジは抵抗なく切り分けられ、直角を持つ四切れのケーキに変わった。

「ネームプレートは真尋のな」

「僕このクッキーの雛欲しいな」

「白鳥も雪也にくれてやれ、俺は本体だけでいい」

「俺のイチゴやるよ」

トッピングを多めに分けられ、照れながら笑って礼を言う。

「いただきます……ん、美味しい」

生チョコの甘さ、チョコパウダーの苦味、スポンジの柔らかさ、果実の酸味、全てのバランスが完璧だ。

「飯いっぱい食ったけどよ、やっぱこういうのは別腹だよな」

「分かる。ケーキは胃のスペース取らない」

チョコで作られた白鳥の翼を齧る。口の中で割れ、パキパキと心地よい音を立てる。

「ん……ちょうどいい苦味」

「真尋ぉ、あーん」

一口分のケーキの欠片を乗せたフォークを突き出された。

「ん。ありがと……」

「真尋、俺にあーん」

「ふふふ……プラマイゼロじゃん」

俺のケーキからも一口分をフォークですくい、雪風に食べさせた。

「んっま。プラマイゼロじゃねぇよ、だって俺はこーんなに幸せ。お前はプラマイゼロなのかよ」

俺の肩に頭をコツンとぶつけ、おふざけ混じりの上目遣い。

「……俺も幸せ」

心のままに真剣な顔と声でそう言い、頬を赤らめた雪風の顎に手を添え、唇を重ねた。甘く苦いチョコの味を雪風も感じていただろう。
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