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雪の降らない日々
いとこと、ろく
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急いで作った夕飯を机に並べる。もちろん叔父の分はない。
「どうだ國行、美味いか?」
「…………ん」
こくりと頷く國行の頬は俺が作った料理でパンパンに膨らんでいる。可愛らしい食べ方を眺めていると不意に耳に痒みを覚えた、耳たぶを掻いてみると乾いた血が爪の間に詰まった。
「……にいちゃん? 痛い?」
「ん、いや、つけ慣れてないから違和感あってな」
痛いだの痒いだの言って罪悪感を抱かせたくない、適当に誤魔化しておこう。
「そうだ國行、お兄ちゃん今度口座作るんだけどさ、お前も使えるようにしたいんだよ。親父さんろくに飯食わせてくれないんだろ? いっぱい食べるには自分で買わないとな」
俺よりも大きくなりたいという國行の夢のためにはたくさんの食事が必要だ。叶うとは思えないが努力はさせてやりたい。
「来月、お金の引き出し方とか教えてやるからな」
頷くばかりの國行の愛らしさに自然と笑顔になる。
「……ごちそうさま」
「ん、おそまつさまでした」
食事を終え、食器を洗い、國行と共に彼の私室へ戻る。勉強机に付属の椅子に腰を下ろして國行を膝に座らせ、子供特有の柔らかい頬肉を楽しませてもらう。
「ん~ぷにぷに~、たまんねぇなぁ」
「…………」
「國行はちっちゃいなぁ……ふふ」
腕の中にすっぽり収まっている彼が俺よりも大きくなるだなんて想像出来ない、やはり彼の夢は叶わないだろう。
「なぁ國行ぃ、退屈じゃないか? ゲームとかしなくていいのか?」
「……持ってない」
「なんか買ってやろうか? 兄ちゃんこれから毎月来るんだぞ、遊びたくないか?」
「…………兄ちゃん、暇?」
「いや、俺は別にいいんだけど、國行が暇じゃないかなーって」
「……ない」
まだ十代に突入したばかりの子供が、会話もせず遊びもせず膝に座るだけなんて退屈だろうと思うのだが、國行はただただボーッとしている。無愛想で無表情で無口な國行の心情は分からない、これが苦痛ではないのだろうか? 俺はそこそこ苦痛だ。
「えっと……」
学校はあまり楽しくないようだし、家庭環境も悪い、しかも國行は無趣味、話題に出来そうなことが見当たらない。
「國行、最近なんか楽しかったこととかあるか?」
「……にいちゃんが抱っこして運んでくれた」
「おぉ……そっか、お兄ちゃんが居ない間は?」
「…………ない。にーちゃんは? 向こうのお家、楽しい?」
俺の楽しかった話はほとんどがR18だ、小学生に話せるようなことはない。
「まぁ、楽しいけど……あんまり話すようなことはないなぁ……はは」
笑って誤魔化し終えるとまた静寂がやってくる。可愛い従弟との時間が苦痛だなんて思いたくないけれど、楽しくないのは確かだ。孫にオモチャやお菓子を与え過ぎる祖父母が多いのにも納得だ、会話が出来ないから物を与えなければ関わりが持てないのだ。
「……俺、大きくなって、いっぱい稼いだら、にいちゃん買い戻す」
「えっ? い、いや、大丈夫だぞ? お兄ちゃん虐められてないって、本当に楽しいよ、とりたてて話すことないってだけ」
「…………」
「そんな疑いの目で見るなよぉ~國行ぃ~」
「……にーちゃん何考えてるか分かんないから」
お前に言われたくねぇよ! と正直に言う訳にもいかず、乾いた笑いを漏らす。
「…………にいちゃん今日泊まる?」
「うん、明日朝イチで帰る。朝飯は作ってやるから心配すんな」
「……ご飯の心配は別にしてない」
「そうか?」
「……でも、にいちゃんのご飯楽しみ」
何を考えているかはよく分からないが、俺に懐いてくれているのには確信が持てる。楽しくなくても心は温まる、國行との時間は俺にとって大切なものだ。
「どうだ國行、美味いか?」
「…………ん」
こくりと頷く國行の頬は俺が作った料理でパンパンに膨らんでいる。可愛らしい食べ方を眺めていると不意に耳に痒みを覚えた、耳たぶを掻いてみると乾いた血が爪の間に詰まった。
「……にいちゃん? 痛い?」
「ん、いや、つけ慣れてないから違和感あってな」
痛いだの痒いだの言って罪悪感を抱かせたくない、適当に誤魔化しておこう。
「そうだ國行、お兄ちゃん今度口座作るんだけどさ、お前も使えるようにしたいんだよ。親父さんろくに飯食わせてくれないんだろ? いっぱい食べるには自分で買わないとな」
俺よりも大きくなりたいという國行の夢のためにはたくさんの食事が必要だ。叶うとは思えないが努力はさせてやりたい。
「来月、お金の引き出し方とか教えてやるからな」
頷くばかりの國行の愛らしさに自然と笑顔になる。
「……ごちそうさま」
「ん、おそまつさまでした」
食事を終え、食器を洗い、國行と共に彼の私室へ戻る。勉強机に付属の椅子に腰を下ろして國行を膝に座らせ、子供特有の柔らかい頬肉を楽しませてもらう。
「ん~ぷにぷに~、たまんねぇなぁ」
「…………」
「國行はちっちゃいなぁ……ふふ」
腕の中にすっぽり収まっている彼が俺よりも大きくなるだなんて想像出来ない、やはり彼の夢は叶わないだろう。
「なぁ國行ぃ、退屈じゃないか? ゲームとかしなくていいのか?」
「……持ってない」
「なんか買ってやろうか? 兄ちゃんこれから毎月来るんだぞ、遊びたくないか?」
「…………兄ちゃん、暇?」
「いや、俺は別にいいんだけど、國行が暇じゃないかなーって」
「……ない」
まだ十代に突入したばかりの子供が、会話もせず遊びもせず膝に座るだけなんて退屈だろうと思うのだが、國行はただただボーッとしている。無愛想で無表情で無口な國行の心情は分からない、これが苦痛ではないのだろうか? 俺はそこそこ苦痛だ。
「えっと……」
学校はあまり楽しくないようだし、家庭環境も悪い、しかも國行は無趣味、話題に出来そうなことが見当たらない。
「國行、最近なんか楽しかったこととかあるか?」
「……にいちゃんが抱っこして運んでくれた」
「おぉ……そっか、お兄ちゃんが居ない間は?」
「…………ない。にーちゃんは? 向こうのお家、楽しい?」
俺の楽しかった話はほとんどがR18だ、小学生に話せるようなことはない。
「まぁ、楽しいけど……あんまり話すようなことはないなぁ……はは」
笑って誤魔化し終えるとまた静寂がやってくる。可愛い従弟との時間が苦痛だなんて思いたくないけれど、楽しくないのは確かだ。孫にオモチャやお菓子を与え過ぎる祖父母が多いのにも納得だ、会話が出来ないから物を与えなければ関わりが持てないのだ。
「……俺、大きくなって、いっぱい稼いだら、にいちゃん買い戻す」
「えっ? い、いや、大丈夫だぞ? お兄ちゃん虐められてないって、本当に楽しいよ、とりたてて話すことないってだけ」
「…………」
「そんな疑いの目で見るなよぉ~國行ぃ~」
「……にーちゃん何考えてるか分かんないから」
お前に言われたくねぇよ! と正直に言う訳にもいかず、乾いた笑いを漏らす。
「…………にいちゃん今日泊まる?」
「うん、明日朝イチで帰る。朝飯は作ってやるから心配すんな」
「……ご飯の心配は別にしてない」
「そうか?」
「……でも、にいちゃんのご飯楽しみ」
何を考えているかはよく分からないが、俺に懐いてくれているのには確信が持てる。楽しくなくても心は温まる、國行との時間は俺にとって大切なものだ。
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