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雪の降らない日々
おじさんと、ご
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ぺちぺちと頬を叩かれて目を開ける。眼前にスマホが突き出されていて、スマホに大きく映された赤い瞳と目が合った。
『…………うん、治ったよ。酷い怪我してたみたいだね』
「ありがとうございますお爺様」
『雪也くんは若神子の人間だ、治療の責を僕が負うのは当然のこと。それより、凪……君はもう若神子とは縁を切っているんだろう? 僕のことをお爺様なんて呼ぶのはやめなさい』
「……申し訳ございません、若神子家先々代当主様」
起き上がるとパリパリと奇妙な音がした。すぐに服に染み込み皮膚に張り付いていた乾いた血が割れたり剥がれたりした音だと気付く。
「しかし……今回の仕事は妙でした。普通、霊視して何が原因なのかぼんやりと分かった状態のものが仕事になるはずだ。霊能力者には得手不得手があるからっ、自分の得意なものを引き受けていかないと依頼者と自分両方の命に関わるからっ……なのに今回は事前の霊視がなかった! 協会側の不手際と先代当主の怠慢も追求していただきたい!」
『協会への苦言は済ませた、次は雪成への説教だ。いい加減に息子だからと甘やかさず、コソコソ仕事を回したり、様子を頻繁に確認に行かせるのはやめろとでも言おうかな。縁を切るならちゃんと切らなきゃね』
叔父がスマホをソファに叩きつける。どうやら電話をしていたようだ。
「クソっ! 普段ぽやぽやしてるくせにこんな時ばっかり! 怪異と相対したこともないくせにっ、クソジジイ! ヒトモドキの化け物が! 目の色なんかでっ……決めつけ、やがってぇっ……!」
「………………雪凪」
立ったまま頭を抱えて頭皮を掻き毟っていた叔父が顔を上げる。ゾッとするほどに美しい顔は酷い苦痛を訴えていた。
「……なんだよ、哀れんだ顔しやがって、バカにした顔しやがって……何にも感じてないくせにこのサイコ野郎!」
「何が、あったんだけ……怪異は、倒したっけ……俺途中で気絶したんだっけ? あ……雪凪、怪我は?」
「…………怪異は君がボコボコにして、俺が封印した。君はその後で出血性のショックで気絶、止血をして叩き起こして、ひいじいさんに治させたとこだよ」
そういえば曽祖父は目を合わせた相手の負傷を癒すという素晴らしい能力を持っていたんだったな。スマホ越しに目が合ったあの赤い瞳は曽祖父のものだったのか、直接目を合わせなくてもいいとは恐れ入る。
「そっか……怪我は? してないよな?」
「……俺? してないけど。さっきも言ったよこれ」
「そっか……」
「……っ、安心するのやめろよ。起きてから今まで何の色も出してなかったくせに、なんで俺が無傷だって分かると色出るんだよ……気持ち悪い」
人の感情を勝手に視ておいてなんて言い草だ、こういうところが嫌いなんだ。
「…………君が死ななくてよかった。君が死んでたら、もう雪風に金の無心が出来なくなるし、涼斗さんの眼鏡の注文にも正規の額を取られる」
「金ばっかだな。あ、そうだ、雪凪、あのバケモンって──」
「雪凪雪凪呼ぶなっ! 俺は凪だ、若神子の姓も雪の字も捨てた。雪凪なんて呼んでて変だと思わないのかよ、こんな燃えカスみたいな灰色してるんだぞ俺は」
「別に髪の色を雪に見立てて呼んでないし……地面近くの雪ってそんくらいの色してるし……俺アンタみたいな銀髪の推しキャラ居るから燃えカス呼ばわりやめて欲しいし……まぁ、ごめん、じゃあ凪叔父さん」
何も考えていないクズな大人だと思っていたが、色々なコンプレックスを抱えているクズな大人だと分かった。まぁ、こんなどうでもいい情報は明日には忘れてしまうだろうけれど、今は少し同情しよう。
「……若神子と縁切ってるから叔父でもないし」
「凪おじさん」
「おじさんって歳かもしれないけど、見た目はお兄さんだろ? 凪お兄さんとお呼び」
「クソカス」
「…………ふふっ、それが一番君らしい。暴言吐いてない君なんて気持ち悪いからそれで頼むよ」
蔑称を好むなんて、やはり気持ち悪いヤツだ。
『…………うん、治ったよ。酷い怪我してたみたいだね』
「ありがとうございますお爺様」
『雪也くんは若神子の人間だ、治療の責を僕が負うのは当然のこと。それより、凪……君はもう若神子とは縁を切っているんだろう? 僕のことをお爺様なんて呼ぶのはやめなさい』
「……申し訳ございません、若神子家先々代当主様」
起き上がるとパリパリと奇妙な音がした。すぐに服に染み込み皮膚に張り付いていた乾いた血が割れたり剥がれたりした音だと気付く。
「しかし……今回の仕事は妙でした。普通、霊視して何が原因なのかぼんやりと分かった状態のものが仕事になるはずだ。霊能力者には得手不得手があるからっ、自分の得意なものを引き受けていかないと依頼者と自分両方の命に関わるからっ……なのに今回は事前の霊視がなかった! 協会側の不手際と先代当主の怠慢も追求していただきたい!」
『協会への苦言は済ませた、次は雪成への説教だ。いい加減に息子だからと甘やかさず、コソコソ仕事を回したり、様子を頻繁に確認に行かせるのはやめろとでも言おうかな。縁を切るならちゃんと切らなきゃね』
叔父がスマホをソファに叩きつける。どうやら電話をしていたようだ。
「クソっ! 普段ぽやぽやしてるくせにこんな時ばっかり! 怪異と相対したこともないくせにっ、クソジジイ! ヒトモドキの化け物が! 目の色なんかでっ……決めつけ、やがってぇっ……!」
「………………雪凪」
立ったまま頭を抱えて頭皮を掻き毟っていた叔父が顔を上げる。ゾッとするほどに美しい顔は酷い苦痛を訴えていた。
「……なんだよ、哀れんだ顔しやがって、バカにした顔しやがって……何にも感じてないくせにこのサイコ野郎!」
「何が、あったんだけ……怪異は、倒したっけ……俺途中で気絶したんだっけ? あ……雪凪、怪我は?」
「…………怪異は君がボコボコにして、俺が封印した。君はその後で出血性のショックで気絶、止血をして叩き起こして、ひいじいさんに治させたとこだよ」
そういえば曽祖父は目を合わせた相手の負傷を癒すという素晴らしい能力を持っていたんだったな。スマホ越しに目が合ったあの赤い瞳は曽祖父のものだったのか、直接目を合わせなくてもいいとは恐れ入る。
「そっか……怪我は? してないよな?」
「……俺? してないけど。さっきも言ったよこれ」
「そっか……」
「……っ、安心するのやめろよ。起きてから今まで何の色も出してなかったくせに、なんで俺が無傷だって分かると色出るんだよ……気持ち悪い」
人の感情を勝手に視ておいてなんて言い草だ、こういうところが嫌いなんだ。
「…………君が死ななくてよかった。君が死んでたら、もう雪風に金の無心が出来なくなるし、涼斗さんの眼鏡の注文にも正規の額を取られる」
「金ばっかだな。あ、そうだ、雪凪、あのバケモンって──」
「雪凪雪凪呼ぶなっ! 俺は凪だ、若神子の姓も雪の字も捨てた。雪凪なんて呼んでて変だと思わないのかよ、こんな燃えカスみたいな灰色してるんだぞ俺は」
「別に髪の色を雪に見立てて呼んでないし……地面近くの雪ってそんくらいの色してるし……俺アンタみたいな銀髪の推しキャラ居るから燃えカス呼ばわりやめて欲しいし……まぁ、ごめん、じゃあ凪叔父さん」
何も考えていないクズな大人だと思っていたが、色々なコンプレックスを抱えているクズな大人だと分かった。まぁ、こんなどうでもいい情報は明日には忘れてしまうだろうけれど、今は少し同情しよう。
「……若神子と縁切ってるから叔父でもないし」
「凪おじさん」
「おじさんって歳かもしれないけど、見た目はお兄さんだろ? 凪お兄さんとお呼び」
「クソカス」
「…………ふふっ、それが一番君らしい。暴言吐いてない君なんて気持ち悪いからそれで頼むよ」
蔑称を好むなんて、やはり気持ち悪いヤツだ。
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