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お盆

はなれるまえに、じゅう

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毛布に包まれた雪兎は穏やかな寝息を立てていた。俺がガクガクと腰を震わせたり、くぐもった悲鳴を上げていたりしたのに、全く意に介さなかったらしい。

「イ、ぐぅうぅっ……! ふっ、ふっ……ぅうぅっ」

ガス、オイル、ローション、錠剤、タイプの違う四つの媚薬を使われた俺の身体は普段とは全く様子を変えていた。絶頂に絶頂を重ねて体力はもう限界なのに、いつまでも快楽を求め続けてしまう。

「ぁ、あ、ぁあぁーっ……おしり、きもちぃ……」

振動するディルドが抜けないように下着を履いた。拘束具を使わなかったのは見つからなかったからという至極シンプルな理由だ。

「あつい……はぁっ、はぁ……ぁあぁ……もっとぉ」

無数のイボが腸壁にくい込んで振動する程度では満足出来ない。俺は雪兎に跨って精液で中がドロドロになっている下着と毛布越しに彼の腹に陰茎を擦り付けた。

「ぁああっ! 前と後ろっ、同時やばいぃっ……!」

普段ならどれだけの自信があろうと雪兎に跨るなんて危ない真似まずしないのに、今は無礼にも雪兎を自慰の道具にしてしまっている。

「ぁひっ!? ひっ、んんっ……そぉ、先っぽがいいっ、先っぽ好きっ」

雪兎の腹と自分の手のひらで亀頭を挟んで弄り回す。今も時折漏れている精液と潮で下着の中がぐちゃぐちゃだが、それがまた逆に気持ちいい。

「イくっ、イくイくっ……イくぅうっ!」

もう片方の手はほとんど無意識に乳首を弄っている。雪兎の愛撫を再現するように強くつまんだり、爪を立てたりしているが、雪兎によるものではないと察してしまっている身体は先程雪兎にされた際よりは反応が鈍い。

「はぁーっ……はぁーっ……イ、くぅぅっ! はぁっ、ぁあぁっ、足りないっ、足りませんんっ……! もっとぉ、くださいっ、痛いの欲しい……強いのくださいぃっ……!」

つまむ力は雪兎の細い指に確実に勝っているのに、雪兎にされた時のような幸せな痛みがない。俺の身体は雪兎にされなければ満足出来ないよう躾けられている。

「……連れてって、ユキ様。ユキ様っ、ゆきさまぁ、置いてかれたら俺死んじゃうっ」

媚薬で脳が鈍り身体が昂った俺は冷静な思考を失い、本気で雪兎に置いていかれて一人になったら欲求不満で死んでしまうと本気で考えていた。



一晩中淫らな熱に浮かされて悶え狂っていた俺は、朝が来て雪兎が着替え始めても発情したまま見送りの言葉も考えられなかった。

「はぁっ、はぁっ……ゆき、さま、ゆきさま、ゆきさまぁ……」

「…………ポチ」

寂しげな顔の雪兎に俺が送るべき言葉は「行ってらっしゃい」ただ一つ、するべきなのは明るい笑顔。

「連れてってください、連れてってくださいユキ様ぁ……置いてかないで、俺を一人にしないでください。一人やだ、嫌です、寂しいのもう嫌です、一人やだぁ……俺も一緒にいかせて……」

こんな懇願、蕩けた顔でするなんて間違っている。

「ポチ、ポチ……おじいちゃんにね、ポチには二ヶ月くらい会うなって言われてるんだ。酷いと思わない?」

雪兎はそう言いながらずるずると大きな鞄を引きずってきた。

「……入って。早く」

言葉ではなく心で通じ合った俺は素早く身を縮め、本来何を入れるための鞄なのか分からない大きな鞄の中に入った。



雪兎がファスナーを閉じると鞄の中は真っ暗闇に包まれる。バクバクと騒ぎ出す心臓の音に紛れて外の音が聞こえる。

「跡継ぎ様、準備は終わりましたか?」

「うん」

暗い。怖い。今日は一日中晴れのはずなのに雨の音が聞こえる、家の中なのに車の走行音が聞こえる。もう幻聴が始まった。怖い。暗い、暗いのは嫌だ。怖い。

「おや、ペット様は……」

「ポチなら昨日から雪風のとこに遊びに行ってるよ」

暗い。怖い。暗い。暗い、こわい、くらい、こわいこわいこわい──!

「そうでしたか……? この鞄は随分大きいですね」

「繊細なものだよ、大事に扱ってね」

「はぁ……重たいですね、電子機器か何かですか?」

「そんなとこ」

ドサ、と鞄ごと台車らしき物に乗せられる。同時に雪兎らしき弱い力がぽんと鞄を叩いた。叫び出してしまいそうな恐怖が僅かに和らぎ、飛行機に積まれるまで何とか耐え忍ぶことが出来た。
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