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お盆

せんじょう、に

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使用人の予備のスーツは俺には小さく、ぴっちりとしたスラックスは尻の形を浮かせていた。シャツのボタンは全て止まらず、男の身体で言うのもなんだが谷間が見えていた。
雪風はそんな俺の姿を「エロい」と評してはしゃいでいたし、自分の肉体を扇情的だとは思えないけれどそう見られる理由は何となく分かる。

「脱ぎましたよ、ユキ様」

俺の着替えの様子をじっと見つめていた雪兎は膝丈の靴下に包まれた足で俺の体温がまだ残っているだろうスーツを蹴り飛ばした。

「……スーツ姿、気に入りませんでした?」

「まさか。とってもえっちだったよ。入り切らないおっきいおっぱいとか特にね。お尻もよかった、後ろから着いていって正解だったよ」

床に膝立ちになっている俺の前に足を肩幅に開いて立った雪兎の目は冷たい。

「ただ、アレは他の男が着ていたかもしれない服だし……君のために用意された服じゃないし、君の制服は首輪だけだろう? ポチ」

「……わんっ」

足の裏をべったりと床につけ、膝を曲げて腰を落として屈む。両手を床についたら犬のおすわりポーズの完成だ。

「可愛いよ、ポチ。ねぇ……ポチは雪風にもおじいちゃんにもひいおじいちゃんにも、力のこと教えてもらったんだよね?」

「若神子一族が持つ超能力ってヤツですか? はい、教えていただきました。雪風は心を、おじい様は記憶を読んで、ひいおじい様は治癒が可能とか……まるでマンガです、美しいだけじゃなくてそんなフィクションみたいなことも出来るなんて、素晴らしいと思います」

「怖くない?」

「ええ、むしろ天使のように美しいユキ様達が凡百な人間と同じ方がおかしいんです。超能力があって納得出来ましたよ」

「……ふふ」

微かにだがようやく笑ってくれた。

「心を読まれちゃうって知ったら、普通の人間は嫌がるんだよ」

「雪風も似たようなこと言って驚いてましたけど……俺の思考は単純ですから、好きとか可愛いとか、読めてもそんな害のないことばかりだそうで」

「……雪風が君を諦めない訳だよ」

若神子一族の力は瞳の赤みが濃いほど強力で、赤と青のオッドアイの叔父は落ちこぼれ扱いだったと聞く。なら、赤紫色の瞳をした雪兎も落ちこぼれ気味なのだろうか?

「ユキ様は俺の思考読めないんですよね?」

「うん、ポチの頭の中覗きたかったな。雪風みたいな力がよかったって何度も思ったよ。僕の力は日常生活では何の役に立たないから……あんまり好きじゃない」

「どんな力なのか教えていただけますか?」

「…………怖がらない?」

もちろんだ、その力に今日救われていたようなのに怖がるなんて無礼な真似する訳がない。

「……成人するまではあんまり力を使うなって言われてるんだ」

「見せていただかなくても口頭での説明で十分ですよ」

「そう? じゃあ……言うね。僕の力は……破裂、だよ」

「…………破裂?」

物騒な単語を聞いた俺が思い出すのは俺が滝壺に引きずり込まれかけた時の出来事、俺の足を掴んだ謎の手が破裂したグロテスクな瞬間が脳内で再生される。

「んー……感覚でやってるから説明は難しいんだけど、見たものに霊力を注げるんだ。ひいおじいちゃんはその注いだ霊力で治療を使ってしてるんだと思う、どうやってるのか細かいことは分かんないけど。おじいちゃんや雪風は注いだ霊力を回収して読み取ってるのかな? 僕は……注いだのを膨張させて、内側から破裂させる、そんな怖いことしか出来ないんだ」

説明を終えた雪兎はぎゅっと拳を握り、落ち込む。

「…………見たら、壊せるんだよ。ポチのことも……怖くない?」

右腕で目を覆う。

「……僕は、ポチのこと簡単に殺せるの」

この世のどんな宝石よりも、どんな秘境の夕焼けよりも美しい瞳を隠してしまうなんてもったいない。俺に綺麗な目を見せて欲しくて、俺は雪兎の右手首を掴んで顔から引き剥がし、潤んだ赤紫の瞳を見つめた。

「簡単に殺せるのに殺してないってことは、俺のこと気に入ってくださってるってことですよね、嬉しいです! それに安心しました、ユキ様に嫌われたらすぐに殺していただける……ユキ様に邪魔に思われてまで生きていたくはないですから、よかったです」

ポロポロと頬に涙が伝う。泣かせたかった訳ではないのにと焦り、慌てて雪兎を抱き締めて慰めた。
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