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お盆

おかえりなさい、じゅうきゅう

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里帰りを許されたのは一週間だったが、俺は四日目の夜に邸宅に戻った。何度も、それも長時間車に乗せられた里帰りは最悪だった。
祖父母は嫌いだし、叔父は胸糞悪いし、従弟は可愛かったけれどそれだけじゃ誤魔化し切れないほど気分が悪い。

「……ただいま戻りました」

「おかえり、遅かったね」

雪兎の部屋の扉を開け、彼の背越しにパソコンを覗き込むと、判読不可能の英文が打ち込まれていた。

「…………レポート書いてるの。キリのいいとこまで終わらせるから、もう少し待ってて」

お出迎えがないのは寂しいが、レポート中なら仕方ない。納得してその場で待つ。

「……シャワーでも浴びてくれば? よその家でつけた匂い、僕に嗅がせる気?」

「気が付きませんで、申し訳ありません」

シャワーを浴びさせる真の理由はレポートが終わったら俺を抱く気だからだ、そうに違いない。俺は鼻歌を歌いながらシャワーを浴び、バスローブの紐も結ばず髪に乱暴にタオルを巻き、部屋に戻った。

「ゆーきっ、様ぁ~! シャワー浴びてきましたよ。ささ、どうぞ。どっからでもどーぞ」

「……髪乾かしてきなよ」

「了解!」

アメリカで切ったばかりの短髪は以前に比べて早く乾く。これからも短髪を保ちたいなと雪兎の好みが短髪になっていることを祈り、再び雪兎の元へ。

「お待たせしましたユキ様っ」

「待ってないよ」

キィ……と椅子を回した雪兎の前に素早く屈む。期待に満ちた俺の瞳はきっと、どら焼きを目の前にした従弟のように輝いている。四白眼の小さな黒目でも雪兎はきっと気付いてくれる。

「…………ふんっ、血縁に会えば何か変わるかと思ったけど、相変わらず目に光がないね。可愛いよ、ポチ」

「え……ぁ、ありがとう、ございます」

やはり俺の目は暗く澱んだままなのか。死んだ魚のような濁った目のどこがいいのだろう。分からないけれど、雪兎が可愛いと思うならずっと雪兎を見つめていよう。

「……おかえりなさい」

「ただいま帰りました……って、さっきもやりましたよ?」

「いいじゃん。何回でも言いたいの」

微笑んだ雪兎は両手を広げる。求めを察した俺は立ち上がって雪兎を抱き締める。

「……察しも悪くなってない。帰りたくないなんて言い出すから心配したけど、僕の犬のままみたいだね」

抱き返した雪兎の手が力を抜いたので、一拍置いて俺も雪兎を離す。再び床に膝をつき、雪兎を見上げる。

「はい、もちろん早くユキ様に会いたかったです。けれど國行……従弟が心配で」

「僕、他の男の話しろなんて言ってないけど」

「え……? ぁ、いや、國行は従弟です、小六のちっちゃい子で」

「なんで話続けてるの? 僕そんな命令出した?」

声色に怒りを感じ、口を噤む。

「…………あのね、従弟とかどうとか関係ないの。君は義弟と義父に手を出してるんだから」

「……っ、お、俺はアルビノ美人にしか勃起できません! 國行は正反対です、褐色ショタですよ! 全っ然興奮しません!」

「それこそどうでもいいよ」

俺の根幹とも言える性癖に対して「どうでもいい」だなんて酷い、酷い仕打ちに興奮してしまう──じゃなくて、俺はこの偏った性癖のせいでオカズ探しに難儀していた時期もあったのだ。なのにそんな一言で切り捨てられると興奮する──じゃなくて、切り捨てないで欲しい。

「國行は……従弟は本当に健全でない状態でして、その、出来れば定期的に見に行きたいんです。月一とかでいいので……外出許可をいただけませんか?」

「……やっぱり一回でも外に出すとダメだね。味を占めちゃう。愛玩犬は室内飼いに限るよ、散歩も庭だけが望ましいね」

「ユキ様っ、俺は真剣に頼んでいるんです。俺は國行のお兄ちゃんとして……」

「君は僕のお兄ちゃんだろ? ねぇ……僕、義理の弟だよね。お、に、ぃ、ちゃん」

雪兎は今とても機嫌が悪い。交渉には向かない、日を改めよう。

「……脱げ」

「は、はい……」

冷たい声に興奮しつつバスローブを脱ぎ捨てる。勃起どころか先走りの汁まで垂らした陰茎を見て、雪兎は舌打ちをした。
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