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お盆

おかえりなさい、じゅうさん

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工場の裏手に出ると懐かしさが込み上げてきた。確かこの道で記者を殴って前科がついたんだ。そういえば使用人達は俺が外に出ても追いかけてこないんだな、いや、車は正面の方に停めてあるから俺が外に出たことに気付いていないのか。迂闊な連中だ。

「飲むとあーたまが…………よーくなーるーよ」

スマホ片手に小学校までの道を確認しながら、数日前の大雨なんて嘘のような快晴の下を歩く。歌詞もあやふやに下手くそな歌を歌いながら。

「カエルはー、カエルはー……あ、小学生」

黄色い帽子を被った子供がプールバックを持って歩いている、一人ではなく大勢居る。下校時間のようだ。歌を中断して従弟を探すも、上から見下げた小学生達は帽子のせいで顔がよく見えないし、似たり寄ったりのサイズ感と同じ帽子を見ていると脳が判別のやる気をなくす。


いっそ大声で名前を呼んでやろうかと思い至ったその時、向かいの道から子供達の元気な笑い声が聞こえてきてそちらに目が向く。

「……返してっ、おねがい……返してぇ」

小川の脇の狭い歩道だ、男子小学生三人が前を走り、その後ろをバックを持っていない色黒な子供が追いかけていく──俺の従弟だ。

「國行……!」

向かいの道へ移る横断歩道を探す俺の目に信じられないものが映った。前を走っていた三人の男児が戻ってきて従弟を突き飛ばしたのだ、彼らのうち一人は持っていたプールバックを小川に投げた。しかし三人ともしっかりバックを持っている、どうやら今投げられたのは従弟のもののようだ。

「…………ぁ……おれの……」

突き飛ばされて尻もちをついた従弟はとうとう泣き出した。俺は車が途切れた隙を狙って車道を横切り、バックを投げた男児を小川に蹴り落とした。

「國行、お前國行だよな」

「………………にいちゃん?」

「バック取ってきてやるからちょっと待ってな」

逃げようとした男児二人の襟首を掴み、共に入水。膝下までとそこそこの深さだ、バックは底に引っかかっているのだろう流木に上手く乗っていたので、男児二人を投げた後は楽に取ることが出来た。

「はいよ」

「…………ありがとう」

ずぶ濡れのプールバックを受け取った従弟は立ち上がってまた泣き出した、聞き取り辛いが「お父さんに怒られる」と言っている。

「お兄ちゃんが怒られないようにしてやるから。な? 泣くな泣くな」

従弟のプールバックを代わりに持ち、彼を抱き上げる。ちゃんと食べているのかと心配になるほど細く、小さい。

「……にいちゃん」

「ん?」

「…………ほんもの?」

俺の服にしがみついた従弟は近くでまじまじと俺の顔を見て、そんなとぼけたことを言った。

「偽物に会ったことあるか?」

俺によく似た三白眼をぱちくりと見開いて、首を横に振る。

「……にいちゃん」

「ん?」

「……………………おかえりなさい」

小さな黒目をキラキラと輝かせて、ほとんど表情筋を動かさずに笑顔を作る。

「あぁ、ただいま」

「…………にいちゃん」

「なんだ?」

従弟は何も言わずに俺の胸に頭を寄せ、目を閉じた。プールで疲れたのだろうと微笑ましくなり、俺は彼の背を優しく叩きながら子守唄を歌ってやった。
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