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お盆

ぶらっしんぐ、いち

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シャワーを終えて髪も乾かし終えた俺は、服を着ることなく雪兎の私室へ戻った。

「ポチ、おすわり」

「わん」

キャスター付きの椅子に腰かけた雪兎の手前に跪くと、新しい包帯が首に巻かれ、首輪が手首に巻かれた。

「僕スキンケアするから、ポチはちゃんと犬になっておいて」

目の前に投げ落とされたのは犬耳カチューシャに、犬の足を模した分厚い手袋とルームシューズ、そして犬の尻尾飾りがぶら下がったバイブ。

「手は自力じゃ無理だろうから、これはいいよ。ローションいる?」

雪兎は犬の前足を模した手袋を踏んで引き寄せ、代わりにローションのボトルを投げ渡した。

「……ユキ様はローション使うところが見たいんですか?」

「なぁに、その口の利き方。僕が見物する前提で話してるの? 最近本当に態度が悪いね」

「え……? す、すいません……俺はただ、あなたの好みになろうと」

自惚れが過ぎたのか? いや違う、俺は自惚れてなんていない。自惚れていないからこそ聞いたんだ、常に正解の選択肢を踏みたい慎重さがまずかった。

「言い訳?」

「ごめんなさい……」

雪兎は床に落ちたままの犬耳カチューシャを足の指でつまんで持ち上げ、俺の眼前に突き出した。俺は恐る恐るそれを受け取り、カチューシャをはめた。

「これでよろしいですか……?」

「……ローションを使うかどうかくらい、僕の好みなんて気にしなくていいよ。ポチの見た目と性格、僕大好きなんだから。ポチがした方がその時の僕の好みになるから。謙虚なの可愛いけど、もう少し自惚れていいんだよ」

「ユキ様……ありがとうございます」

「今はとりあえず僕の顔色伺わなくていいからね」

「はいっ!」

俺は素早くバイブにローションを塗り込み、後孔に押し当てた。抱かれてすぐの後孔はほぐれたままで、易々とバイブを飲み込んでいく。

「んっ、んんっ……ぁ、あっ……くぅうんっ! はぁ……ユキ様、出来ましたぁ」

「うん、尻尾生えたね。感想ある?」

「はい……さっきユキ様に抱いていただいたばかりですので、まだ敏感で……入れているだけで、少しっ……」

「うん……太腿とかお腹、ぴくぴくしてるね。可愛い」

雪兎に手伝ってもらい、手袋とルームシューズをはめた。肉球付きの分厚いそれは細かい作業を許さない。

「ワンちゃんはお風呂の後何するの?」

犬の風呂後の行動? そんなもの知らな──いや、聞いたことがある。犬は慣れない匂いを嫌い、いつもの匂いに戻ろうとそこら中に体を擦り付けるのだ。

「わ、わんっ……!」

俺は雪兎に抱きつくようにして全身を擦り寄せた。保湿液などを塗ったばかりの肌はいつも以上にしっとりと吸い付き、俺を夢中にさせた。

「……何してるの?」

「えっ……? ゃ、犬は、石鹸の匂いを上書きするために、すりすり……します、から」

「そっか。僕が想定してたのはそっちじゃないんだよ。でも可愛かったからいいよ」

雪兎はベッド下の収納からブラシらしきものを取り出した。

「ワンちゃん、に、お風呂の後何するか……って言った方が分かりやすかったかな? てにをは、難しいねぇ。僕犬の行動聞いちゃってたかも、ふふ、それならすりすりで正解だよ。ポチは賢いね」

「いえ、そんな……あの、ブラッシングですか?」

犬は全身が毛で覆われているからブラッシングは必須だろう。しかし、俺は頭にしか毛がないし、雪兎が持っているブラシは人間用にしては細かすぎる。

「もちろん! 綺麗な毛並みにしてあげるよ」

絵を描く筆のように細く滑らかそうな毛で作られたブラシで、人間の髪は整うのだろうか? 雪兎が間違うはずはない、俺が無知なだけだと思おう。
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