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お盆

おせわ、ろく

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空調が効いていたとはいえ、二十連戦は俺を汗だくにさせた。それなのに俺はシャワーも浴びさせてもらえず、これから雪兎に弄ばれる。

「あの……ベッドは流石に、やめておいた方がいいと思います。俺、汗だくですし」

もしも雪兎が汗をかいていたら興奮するし、風呂に入る前に舐めさせてくれと懇願するだろう。俺に欲情する気持ちは分からないが、シチュエーションへの興奮を理解することは出来る。

「心配しなくてもベッドは使わないよ」

「そう、ですか」

理解は出来るが、シャワーを浴びさせて欲しい。べたつく肌は不快だし、髪を湿らせた汗が乾いて髪が妙な形で固まり始めているのは格好悪い。何より、雪兎に汗の匂いを嗅がれたくない。

「ポチ、おすわり」

「……わん」

犬耳カチューシャ、犬の前足を模した手袋、そして首輪を手首にはめて俺の犬コスプレは一旦完成。ベッドを背にして床に犬のように座る。

「上脱いで、頭の後ろで腕組んで」

意図は分からないが命令に従わない選択肢はない。期待で勃った乳首や腋を見られる羞恥心で顔が熱くなる。

「……っ!? ちょ、ユキ様それはっ……!」

「それは? 何?」

膝立ちになった雪兎が俺の腋に顔を近付けている。童顔ながらに高く形のいい鼻は今にも俺の腋に触れそうだ。

「や、やめて……欲しい、です」

「どうして?」

大きな声ではないのに、話す度に吐息が腋にかかってくすぐったい。

「そ、そこは……臭い、ので。顔を近付けない方が、よろしいかと……」

「……それってポチがやめて欲しい理由になってるかな?」

「……っ、ぅ……は、恥ずかしいからっ、匂い嗅がれるのっ、恥ずかしいからっ、やめて欲しいです! ユキ様に匂い嗅がれるのっ、恥ずかしくて嫌ですっ!」

「嘘つき。ポチ、恥ずかしいの好きじゃん。全裸で四つん這いで廊下歩き回って勃たせるくせに、今更何言ってんの?」

決死の告白をバッサリと切られてしまった。

「ちがっ……それは、だって……恥ずかしさの種類が違います」

「ふぅん……つまりぃ、ポチは自分の裸に自信があるってことだ。でも汗の匂いは臭いって思ってるから嫌なんだ。ふふっ……大丈夫、僕にはいい匂いだよ、すごく興奮する。だからポチも悦んで。ね?」

全裸を見られるのと腋の匂いを嗅がれるのは恥ずかしさの種類が違う。それは自信の問題なのか? 本当に? 分からない、違う気がする、でも雪兎がそう言い切ってしまったら俺の中でそれは真実になる。

「は、い……」

「涙まで浮かべちゃって。可愛いったらないね」

ちゅ、と頬にキスをされた。羞恥心が歓喜に塗り替えられたのも束の間、雪兎が親指の腹でぐりっと腋を押し撫でた。

「ひゃうっ……!? ユ、ユキ様……? 何を……?」

「見て」

雪兎は俺に親指を見せる。白魚のような指は傾くとキラキラと光を反射する、濡れているのだ、俺の汗で。

「……あっはは! 顔真っ赤になった。ポチ恥ずかしがらせるの楽しいよぉ、まだこんなことで恥ずかしがれるなんてポチはすごいね」

今までの羞恥プレイの数々が脳裏によぎる。更に恥ずかしさが膨らんで俯くと雪兎に顎を掴まれ、顔を上げさせられる。

「ちゃんと僕の目を見て」

「は、い……」

「見て。ちゃんと。ずっと見るの。今から褒めてあげるから」

「……褒め、る? はい……分かりました」

赤紫の瞳をじっと見つめる。滲んだ涙が俺の視界を歪ませたが、頭の後ろで腕を組んでいる今は涙を拭えない。

「……あの、ユキ様。目を擦らせてくれませんか? 涙でよく見えなくて」

「手袋外せって言うの? 嫌だよ面倒臭い。ほら、僕に擦り付けていいよ。特別」

雪兎は目を閉じて頬を突き出した。俺は恐る恐る餅のような白い頬に閉じた目を押し当て、ぐいっと首ごと横に振った。想像以上に普通に涙を拭えた。

「どぉ?」

「……ユキ様のほっぺはもちふわで最高ですね」

「あははっ、もちふわ? 面白いこと言うね。ポチももちふわだよ、お尻とか」

「そ、それは……外側の、話ですよね?」

返事はなかったが、雪兎の微笑みからは「抱き心地の話だが?」という無言の声が聞こえた。
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