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夏休み
にっぷるりんぐ、ご
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椅子に腰を下ろした瞬間、ビビビッ……と明らかに布が裂ける音が耳に届いた。いや、音よりも確かなのは履き心地だ。尻が涼しいしキツさがマシになった。
「ポチ?」
「……いただきまーす!」
デニムのケツを破るなんてデブみたいな真似、俺はしていない。現実逃避をして晩飯を食べようと箸を掴む──その手が止まる。俺の頭に一つの疑問が浮かんだからだ、その疑問とは単純な一言。
「俺、太った……?」
考えたくもない最悪の言葉だ。筋肉は歓迎だが脂肪なんて雪兎が望まなければ一グラムも欲しくない。
「……っ、ユキ様、俺の食事、明日から減らしてください!」
「立って」
「へ?」
「立って、お尻見せて」
絶対に嫌だ。頑丈な布を座っただけで破ったんだぞ? そんな身体で雪兎の目の前に居るのも嫌なのに、今すぐランニングに行きたいのに、破ったのを誤魔化そうと普段通りに振舞っているのに「立て」だなんて命令、聞けるわけが──
「うんっ、すぐに立ったね。えらいよポチ、でもお箸は置こうか。そこまで急いで立たなくてもよかったんだよ」
──聞いてしまった。俺は雪兎の命令を鼓膜から脳に伝えず脊椎で処理しているのだろうか? なんて自分の身体の構造を疑う反応速度だった。
「お尻もっと突き出して、破れたところよく見せて……あぁっ、すごい、とってもえっち……可愛いよポチぃ、最高だよぉ」
ズボンには大抵、股に縫い目がある。ド真ん中の線、尻の割れ目に沿うあの縫い目だ。俺が今履いているデニムはそこから裂けている。
「ひぅっ……!」
雪兎はそんな裂け目から露出した俺の尻をつついた。尻を突き出して割れ目が少し開いた今、期待した穴も膨れた会陰も丸見えだろう。
「ユキ様……」
「なぁに? お尻の穴ヒクヒクさせちゃって可愛いよ。おねだりでもするつもり? うんうんいいよぉ可愛いよぉ、いくらでも聞いてあげる、とびっきりの聞かせて?」
おねだり? そんなのするつもりはない、俺が雪兎に伝えるべきなのは謝罪ただ一つだ。
「ごめんなさい……! 本当に、申し訳ありません……」
「…………ポチ? え、何何どうしたの、どうしちゃったの、泣かないでよどうしたのさ」
不甲斐なさから泣いてしまって、雪兎に気を遣わせてしまった。俺の何もかもが犬失格だ。
「ユキ様……ユキ様にいただいた服をっ、破ってしまいました……本当に申し訳ありません。ごめんなさいユキ様っ、ユキ様が俺のサイズを把握してないわけがない、ギリギリのサイズを用意してくださったんですよね? 俺、ユキ様の想定より肉がついてたみたいで……太ってしまったみたいで、ごめんなさい……」
「ポチ……君……」
「ご主人様からの贈り物を壊すなんてっ、ご主人様の指定から体型を変えるなんてっ、それに気付かないなんて! 俺は犬失格です……ごめんなさい、許してください、すぐに痩せて服も縫いますから、俺を捨てないで……!」
「……勘違いしてるよ」
俺の顔の方へ回り込んで涙を拭ってくれていた雪兎は、その手で俺の顔を持ち上げるようにし、俺の目を真っ直ぐに見つめた。
「その服、破れるように細工したヤツだから、ポチは太ってないよ」
「へっ?」
涙が止まる。目を見開いてしまう。雪兎は俺の間抜けな顔を見て楽しそうに笑った。
「ポチ?」
「……いただきまーす!」
デニムのケツを破るなんてデブみたいな真似、俺はしていない。現実逃避をして晩飯を食べようと箸を掴む──その手が止まる。俺の頭に一つの疑問が浮かんだからだ、その疑問とは単純な一言。
「俺、太った……?」
考えたくもない最悪の言葉だ。筋肉は歓迎だが脂肪なんて雪兎が望まなければ一グラムも欲しくない。
「……っ、ユキ様、俺の食事、明日から減らしてください!」
「立って」
「へ?」
「立って、お尻見せて」
絶対に嫌だ。頑丈な布を座っただけで破ったんだぞ? そんな身体で雪兎の目の前に居るのも嫌なのに、今すぐランニングに行きたいのに、破ったのを誤魔化そうと普段通りに振舞っているのに「立て」だなんて命令、聞けるわけが──
「うんっ、すぐに立ったね。えらいよポチ、でもお箸は置こうか。そこまで急いで立たなくてもよかったんだよ」
──聞いてしまった。俺は雪兎の命令を鼓膜から脳に伝えず脊椎で処理しているのだろうか? なんて自分の身体の構造を疑う反応速度だった。
「お尻もっと突き出して、破れたところよく見せて……あぁっ、すごい、とってもえっち……可愛いよポチぃ、最高だよぉ」
ズボンには大抵、股に縫い目がある。ド真ん中の線、尻の割れ目に沿うあの縫い目だ。俺が今履いているデニムはそこから裂けている。
「ひぅっ……!」
雪兎はそんな裂け目から露出した俺の尻をつついた。尻を突き出して割れ目が少し開いた今、期待した穴も膨れた会陰も丸見えだろう。
「ユキ様……」
「なぁに? お尻の穴ヒクヒクさせちゃって可愛いよ。おねだりでもするつもり? うんうんいいよぉ可愛いよぉ、いくらでも聞いてあげる、とびっきりの聞かせて?」
おねだり? そんなのするつもりはない、俺が雪兎に伝えるべきなのは謝罪ただ一つだ。
「ごめんなさい……! 本当に、申し訳ありません……」
「…………ポチ? え、何何どうしたの、どうしちゃったの、泣かないでよどうしたのさ」
不甲斐なさから泣いてしまって、雪兎に気を遣わせてしまった。俺の何もかもが犬失格だ。
「ユキ様……ユキ様にいただいた服をっ、破ってしまいました……本当に申し訳ありません。ごめんなさいユキ様っ、ユキ様が俺のサイズを把握してないわけがない、ギリギリのサイズを用意してくださったんですよね? 俺、ユキ様の想定より肉がついてたみたいで……太ってしまったみたいで、ごめんなさい……」
「ポチ……君……」
「ご主人様からの贈り物を壊すなんてっ、ご主人様の指定から体型を変えるなんてっ、それに気付かないなんて! 俺は犬失格です……ごめんなさい、許してください、すぐに痩せて服も縫いますから、俺を捨てないで……!」
「……勘違いしてるよ」
俺の顔の方へ回り込んで涙を拭ってくれていた雪兎は、その手で俺の顔を持ち上げるようにし、俺の目を真っ直ぐに見つめた。
「その服、破れるように細工したヤツだから、ポチは太ってないよ」
「へっ?」
涙が止まる。目を見開いてしまう。雪兎は俺の間抜けな顔を見て楽しそうに笑った。
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